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同一異常性癖の思考

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 当然のことながら、捜査本部は、暗礁に乗り上げてしまった。
「重要参考人が見つからない限り、どうしようもない」
 という状態だった。
 一軒家に忍び込んだということであれば、どれかの防犯カメラに映っているはずであろうに、
「賊が侵入した」
 という形跡がなかった。
 ただ、犯行時間の少し後に、殺害現場から逃げようとする影のようなものは確認できたのであった。
 それにより、
「内部犯行」
 という説がさらに大きくなってきた。
 そもそも、この息子が怪しいということになったのは、
「犯人の侵入経路がハッキリしない」
 というか、
「忍び込んだ形跡がない」
 ということからであった。
 しかも、事もあろうに、事件の早朝に海外に出かけ、そのまま行方不明になったのであれば、容疑者筆頭と言われても仕方がないことだろう。
「状況証拠だけなら、推定有罪だ」
 と言えるのではないだろうか。
 捜査本部を混乱させたのは、捜査が行き詰り、
「いよいよ、迷宮入りか?」
 という時のことであった。
 急に新たな情報が飛び込んできたからであった。

                 怪情報

 その新たな情報というのは、ある「タレコミ」からであった。
 本当であれば、犯人が、日本に潜伏しているということであるなら、写真を公開し、公開捜査ということも考えられる。
 確かに状況証拠だけなので、
「いきなり逮捕」
 ということなどできるわけはないだろう。
 しかし、身柄確保くらいはできるだろう。何といっても、重要参考人であり、今のところ、他に犯人は見当たらないのだ。
 しかも、犯人が忍び込んだ形跡がないということから、少なくとも、
「この息子が、何らかの形で事件に関わっていると考えるのは、当然のこと」
 なのかも知れない。
 ただ、この時、迫田刑事の不振に感じたのは、
「なぜ今なんだ?」
 ということであった。
 公開捜査をしていなかったということは、このタレコミは、明らかに、
「息子をよく見知った人からのものだ」
 ということになるのだ。
 もちろん、そこまで予測しての、公開捜査に踏み切らなかったなどということはありえないので、これこそ、ケガの京妙といってもよく、それだけに、
「偶然にしては、よくできている」
 ということだった。
 このタレコミは、警察に匿名のメールが来たものであり、送り付けてきたメールアドレスも使い捨てのものであり、しかも、送信元が、インターネットカフェということで、その人物を特定することはできなかった。
 そういう意味では、
「ガセネタ」
 である可能性は、かなり高かった。
 しかし、他に手掛かりもなく、事件は、まもなく迷宮入りするということであれば、どんな情報にでも飛びつかないわけにはいかない。
 もし、この事件が迷宮入りということになれば、世間はどうであろうか?
 事件発生当時は、本当に毎日のように、マスゴミが騒いでいたが、あれから、だいぶ経ったので、マスゴミも世間も、事件に関しての関心は、ほとんどないといってもいいだろう。
 しかも、老夫婦は、
「守銭奴」
 と言われるくらい、世間の人から隔絶されていた。
 確かに、寝込みを襲われて、問答無用で金を取られ、容赦なく殺害されたわけなので、当初は、
「可愛そうだ」
「犯人は、何て極悪で、狂暴な人間なんだ。そんなやつをのさばらせているなど、警察の責任だ」
 とまで言われていた。
 そうなると、警察の情報部も黙ってはいない。
「警察の威信とプライドに賭けて、ホシを上げる」
 と、捜査本部も息巻いていて、捜査員を叱咤激励していたが、実際に、
「ここまで何の情報もないものか」
 ということになると、どうしようもなくなっていた。
 そういう意味で、
「守銭奴」
 と言われていた老夫婦は、別に人から慕われるような、
「好々爺」
 というわけではなかったということだろう。
「まわりの貧乏人と我々とは違うんだ」
 と言わんかなりだったに違いない。
 近所の人は、
「まさか、あの老夫婦が、そんなにお金をため込んでいたなんて知らなかった」
 と思っているに違いない。
 そのあたりのことが報道され始めると、最初は、
「可愛そうだ」
 といっていた連中が、
「ひょっとして、金に関するトラブルからの怨恨だったんじゃないか?」
 というウワサも流れるようになり、警察も、その路線で捜査を行ってみたが、実際にそこから得られるものはなかったのだ。
 確かにそんな話があるのなら、捜査の早い段階で分かっていたことであろう。しかし、そういうことがないわけなので、
「事件が、暗礁に乗り上げる」
 というのも、無理もないことだったに違いない。
 そんな中において、情報が寄せられると、飛びついてしまうのも仕方のないことであろう。
 この事件に関して、
「お宮入りさせたくない」
 という思いは捜査員皆にあり、それは、
「憎き犯人を逮捕する」
 というよりも、
「この夫婦が言われているような本当の守銭奴で、トラブルによる犯行だったのではないか?」
 という想像が当たっているかどうか?
 ということの方が気になっているのだった。
 そういう意味で、今回の事件に対して、
「犯人逮捕」
 というよりも、
「真実を知りたい」
 という意味での解決を、皆が望んでいることであった、
 実際に、寄せられた情報というのが、
「息子を見た」
 ということであったので、警察もその情報を、最初は、
「鵜呑みにしてもいいのだろうか?」
 ということであった、
 というのも、
「息子は、海外に出国した」
 ということが分かっていて、それが犯行当日だったこともあって、
「重要参考人」
 というよりも、一足飛びで、
「重要容疑者」
 といってもいいくらいになっているではないか。
 それを考えると、
「そんな状態になっているのを、息子だって分かっているだろう。もし、やつが犯人だということになれば、ノコノコ日本に帰ってくるわけはない」
 というのが、捜査本部の考えだった。
「今の時代は昔と違って、海外に逃げれば、そのまま海外にいる方がいいかも知れないな」
 と本部長が言った。
「どういうことですか?」
 と若い捜査員が質問したが、他に誰も質問しないということは、本部長は何が言いたいのかということが分かったからであろう。
 その刑事は、最近刑事になったばかりなので、昔のことは分からない。それが、質問していたくなった理由ではないだろうか?
 それは、時効という考えがあったからであった。
 2000年までは、殺人の時効は15年、2000年から、2010年までは、25年、そして、今回時効が徹灰になったというのが、ちょうど、13年くらい前になる2010年からである。
 それを考えると、
「時効が15年であれば、時効が成立している間、海外にいて、ほとぼりが冷める頃日本に帰ってきてから、時効までを密かに暮らす」
 ということができたかも知れない。
 だから、今のように時効が撤廃された状態で日本に帰ってきても、
「死ぬまで、警察に追われることになる」
 ということである。
 それを若い刑事に説明すると、若い刑事は、
「なるほど」
作品名:同一異常性癖の思考 作家名:森本晃次