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同一異常性癖の思考

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「ああ、こいつは、自分が今逆上しているということに、気付いていないんだな」
 ということであった。
 そう言えば、迫田刑事は、今、デジャブに襲われていた。
 かつて、似たようなことがあり、桜井刑事が今回の自分の役をやったのだが、その時、二人で話すことだと思うようなその場に、迫田刑事も同席させた、
 捜査本部では、その時に尋問を受けた刑事が、
「事件に何か関わっている」
 という、
「証拠があるわけではないが、十中八九、事件の核心部分を、その刑事が握っている」
 ということが分かったので、桜井刑事に聴いてくるように命じたのだ。
 迫田刑事は、その時の桜井刑事の対応が、
「まったく感情に流されず、ただ、相手のいうことをしっかりと聞いていた」
 というのを思い出した。
 しかも、相手のいうことが、こっちに対して挑発的になっていることを分かっていながら、絶対にこっちからカッカしないということを心がけているようだった。
「まるで、座禅でも組んでいるかのような感覚ではないだろうか?」
 ということであり、迫田刑事は、
「今の自分も、あの時の桜井刑事のような心境にならないといけない」
 ということであった。
 しかし、あの時見ていた感情よりも、実際にその立場になると、思っていたよりも、自分が責められているという感覚がないことに気づいていた。
 前の桜井刑事を見ていて、
「ノーガードで打たれ続けている」
 という風に思っていたのに、今の自分は、打たれているという感覚はあるが、
「痛いとは思わない」
 というものであった。
 ただ、冷静に考えていると、まるで自分が桜井刑事になったような気がしてきたのだ。
「そうか、桜井刑事はそれで俺にこの役をくれたのか?」
 と、迫田刑事が感じたのだった。

                 大団円

 桜井刑事の考え方として、
「もうすでに事件の概要が分かっているのだろうか?」
 と思うことであった。
 正直にいえば、迫田刑事には、この事件には、まだまだ見めていない事件の真相がどこかにあり、それを探している最中だと思っていた。
 しかし、
「桜井刑事には、その全貌が見えているのではないだろうか?」
 ということであった。
 桜井刑事は昔からそうだった。
 いち早く事件の真相に辿り着いていて、そのたびに、その検証を他の人にやらせて、自分は、
「それを後ろから見ている」
 というような感じだったということを、いつも事件が解決してから感じるのであった。
 だから、桜井刑事が事件の真相に辿り着く時は、迫田も、
「桜井刑事には分かったんだ」
 ということを感じるのであった。
 だから、自分が甘んじて、桜井刑事が自分でしようと思っている、
「考えの検証」
 を行うようにしているのであった。
 さすがに、萩原刑事も、
「ダメです」
 などと言えるはずもなく、実際に白骨の検証を行うと、
「十中八九、妹の美代子に違いない」
 ということになった。
 それを聴いて、桜井刑事の頭の中で、完全にそのスイッチが繋がったかのようであったのだ。
 桜井刑事を見ていると、その行動が、解決のヒントになることは、迫田にも分かっていて、迫田刑事も、
「桜井刑事がすでに事件の真相に近づいた」
 ということを分かるのは、他の人に比べて、断然早いのだが、今は、桜井刑事を見ていることで、
「自分も何とかその域に達したい」
 と思っていた。
 だから、桜井刑事に事件が解決してから、必ず確認することは、
「どこで事件の真相に気づいたんですか?」
 ということを聞くようにしている。
 最近では、迫田自身にも分かる気がしていた。
 というのも、
「分かって聴いている」
 といってもいいだろう。
 今回は、迫田刑事にも思い当たる節があったのだ。
 というのも、この事件が起こるまで、迫田刑事が、いつものように、10年前の事件の未解決資料を見ていた時は、桜井刑事も、
「いつものことか?」
 とでもいうように、暖かい目で見ていたのだが、今回の白骨死体が発見されたところから、10年というのがキーワードだったのか、迫田刑事に、10年前の事件の独自の意見を、何度も聞いていたのだ。
「今回の事件と関係ないはずなのに」
 と迫田刑事は思っていたが、実際には、そうではなかったようだ。
 実際に事件は解決して、萩原刑事も尋問を受けることになった。
 というのは、妹殺害の容疑だったのだ。
 そして、そのことを知っているのが、10年前の
「老夫婦殺害事件」
 で指名手配されたが、海外に逃げてしまったという、
「片桐兼人」
 という男であった。
 この男は、この老夫婦殺害事件だけではなく、他にもいろいろな事件に首を突っ込んでいるのだった。
 日本に帰ってこれないのは、そういうこともあったからだった。
 特に、
「元嫁殺害の容疑者」
 として、指名手配される寸前だったのだが、本来は、海外に逃亡を考えていたようで、そのための資金を得るという目的で起こったのが、老夫婦殺害事件だった。
 もっとも、指名手配されると思っていたのは、片桐の勇み足で、その時は、まだ警察は、
「奥さんが殺されている」
 ということまで分かっていなかった。
 やつが、海外に逃げてから、捜査をすると、奥さんが行方不明で、捜索願も出ていないということで、日本に住んでいた家の近くを捜索すると、奥さんの死体が埋められているのが分かったのだという。
 この片桐という男が、奥さんを殺害して埋めているところを、ちょうど、萩原青年に見られたという。
 萩原は、異常性癖を持っているようで、妹を子供の頃から好きだったことで、
「他の女を好きになることのできない」
 という性癖になったようだ。
 そこで、彼は妹に対する思いが強すぎて、
「自分のものにしておきたい」
 という気持ちが強く、結局、
「キレイなまま自分だけのものに」
 ということで、
「誰か他のものになる前に」
 ということで、妹を犯し、そして殺害したのだ。
 それをちょうど片桐に見られ、お互いに、極悪だということで意気投合したのか、ただ、見られたということと、立場的に圧倒的に、萩原が弱かったので、萩原は、片桐のいうことに逆らえないということになってしまったのだった。
 だから、萩原としては、
「本当は、片桐から解放されたい」
 という思いと、自分の性癖を、犯人を捕まえることで、自己満足させたい。
 もっといえば、
「犯人が捕まることで、俺よりももっとひどいやつがいるということで、俺の溜飲が少しでも下がればそれでいい」
 と思うようになっていた。
 今回のシナリオは、片桐が書いた。
「一度お宮入りになる前に、ガセネタを掴ませ、一度、オオカミ少年のような感覚を警察に思い込ませると、また事件をほじくり返すことはないだろう」
 ということだった。
 それには、お宮入りになるタイミングと、
「ガセネタでがっかりするという期間が短ければ短いほど効果的だ」
 ということを知り尽くした片桐の計画だった。
 だが、あまりにも近すぎて、
「警察内部に、怪しいやつがいるのでは?」
 ということを思わせたというのは、ちょっとした計算外だっただろう。
作品名:同一異常性癖の思考 作家名:森本晃次