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同一異常性癖の思考

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「もし、交際を断られたら、ちょっとした狂言誘拐の真似事くらいはしてみよう」
 という話はしていたのだ。
 もちろん、警察に通報されると、その時点で計画は終わってしまうので、本当に簡単でおおざっぱなものでしかなかったが、本当に切羽詰まってくると、そこまでいかないとも限らないと、特に、美代子の方は思っていたようだ。
 むしろ、彼の方は、消極的だったようである。
「そんなの絶対に成功しないよ」
 というので、
「何も本当にすることはないのよ。素振りだけを見せておいて、覚悟があるということを示せればいいだけだからね」
 といっていたのだ。
 妹は、結構行動的なところがあったので、本当にやったかも知れない。
 ただ、闇雲にするわけはないほど、計画性のある方だったので、どこまでが計画されたことだったのか、彼にも分からなかった。
 行方不明になった以上、その計画もできるわけもなく、実際にそれどころではなくなったということで、美代子の親に名乗り出てきたのだろう。
 捜索願を出せば、
「警察が動いてくれる」
 ということを、その時、皆信じていたようだ。
 そもそも、普通の人だって、
「捜索願を警察が無視するなどありえない」
 と思っていたのだから、萩原もその親も、他の人と同じくらいの感覚でいたに違いない。
 だが、警察からは、最初は状況を知らせてきたが、次第に何も言わなくなってきた。
 それこそ、
「警察が、通り一遍のテンプレートのような仕事しかしていない」
 ということの証明だったに違いない。
 それを思うと、
「実にやり切れない気分だ」
 と、自分が警察という立場になったことで、分かったのだった。
 萩原の妹が行方不明になっていたことを、警部に伝えると、警部も、少し考えていたようだ。
 そうして、桜井刑事を呼び寄せて、事情を話すと、
「君は、どう思う?」
 と、桜井刑事に聴いたのだ。
 警部は、考えあぐねている時は、必ず桜井刑事を呼ぶ。もちろん、警部が自分で決定できないほどの、
「能なし」
 というわけでは決してない。
 誰からも慕われる、カリスマ性のようなものを持った人であることは誰もが認めるのだが、どちらかというと、桜井刑事に聴くのは、
「自分の考えを、さらにハッキリさせるため」
 という意識の方が強いようだった。
 桜井刑事も分かっているのか、
「じゃあ、私の考えとしては」
 ということで話始めるのが、いつものパターンだったのだ。
「今回のこの話、萩原刑事に話をした方がいいと思うかね?」
 と聞いた。
「警部としては、可能性が低いとお考えですか?」
 と聞き返した桜井刑事の目に、何か光るものを感じた迫田刑事だったが、今度は、完全に腹が決まったのか、
「よし、わかった。話すことにしよう」
 と警部がいうと、
「じゃあ、その役は、迫田刑事に任せることにしましょう」
 といきなり、迫田刑事を名指しした。
 名指しされた迫田刑事が少し驚いたが、桜井刑事の顔を見ると、何かを悟ったのであろうか、ニコニコしているので、
「分かりました。なるべく平常心で話すようにします」
 と迫田刑事がいうと、
「うんうん」
 と、桜井刑事が頷いていた。
 迫田刑事は、すぐに萩原刑事を呼んで話を聴いてみた。
「君の妹さんが、行方不明になっているというのを、今回の白骨事件の捜索願を捜査していると、偶然知ることができたんだけど、君は、それを身内に黙っていたのは、どうしてかな?」
 といきなりの核心を突くかのような話をするのだった。
 萩原刑事の顔が明らかに変わった。少し、顔色が悪いというか、
「核心をつかれて、驚いている」
 というのか、それとも、
「妹のことを言われて、思い出してしまった」
 ということなのか、その階イロハ明らかに悪くなったのだ。
 それは、前者であれば、
「ううっ、まずい」
 と感じたからで、後者であれば、
「思い出させるなよ」
 という気分なのか、疑問が残るところだった。
 普段から、萩原刑事を見ていて、
「一生懸命な時は一生懸命なんだけど、時々、気が抜けたのか、何を考えているか分からない」
 ということがあると感じていた。
 何を考えているのか分からないということは、間違いなく、
「気が散っている」
 ということであり、それが、行方不明の妹のことを考えているからなのか分からなかったのである。
「刑事だって人間だ。肉親の、しかも、相当仲の良い肉親だったら、行方不明というだけで、気が狂いそうになっても仕方がないだろう」
 と思った。
 そういえば、迫田刑事には、今回の事実が分かってから、
「ああ、それなら、納得がいくようなことも結構あったわ」
 と、いまさらのように感じることもあったのだ。
 事件が解決すると、普通であれば、手放しに喜ぶことが多いというのが、警察官だと思っていた。
 しかし、萩原刑事は、事件解決に向けて、必死になって、どちらかというと、何も考えずに動いているロボットのごとく、目的に対して一心不乱の様子なのに、事件が解決すると、放心状態になる人が多い中で、いつも、何か、やるせなさのような感覚。それも、理不尽さを感じているかのようなその様子に、頭を悩ませるかのような雰囲気が残ったのだった。
「どうして、萩原のやつは、事件解決後にあんなに苦虫をかみつぶしたような複雑な表情をするんだろう?」
 と思っていた。
 事件解決までは、そんな顔は不謹慎だと思って我慢して、必死になって捜査していたのは、
「俺のような気分になる人を、少しでもなくしたい」
 と思うからなのかも知れない。
 しかし、実際に事件が解決してしまうと、
「皆がこれで救われてよかったな」
 という思いと、
「それに比べて俺は」
 という、妹一人、どうすることもできなかった自分への憤りから、
「よかったなどということを、この俺が感じてはいけないんだ」
 という考えではないだろうか。
 それを思うと、複雑な心境が、顔に出てきたとしても無理もないことであり、それが、警察にいる時の自分と、一人になった時の自分との境界線のように思えるのだった。
 だから、彼はいつも、事件が解決したら、
「一人になりたい」
 と思う人物なのだと、迫田刑事は、感じていたのだった。
「これ以上聞かなくても、彼の気持ちが分かる気がするな」
 と感じてはいたが、肝心なことを聞かないわけにはいかない。
「今回の白骨死体だけど、一応科捜研に調べてもらおうと思うんだよ。いいね?」
 と聞いた。
「迫田さん、何を言っているんですか、私に遠慮しなくても調べればいいんですよ。それとも、私に何か疑いの目でもあるんですか?」
 と、いかにも挑発的な言い方であった。
「もちろん、警察官である以上。発見された遺体の身元を調べるのは、絶対に必要なことだし、まずは、そこからすべてが始まるわけだよな。だから身元調べは行うさ。だけど、君の心境を思うと、まずは、聞いておきたいと思ってね」
 と、迫田刑事がいうと、
「何をおかしなことを言ってるんですか? 当たり前のことを当たり前にするのが、警察の捜査ではないですか?」
 というと、迫田刑事は、彼の顔を見ながら、
作品名:同一異常性癖の思考 作家名:森本晃次