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完全犯罪の限界

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 桜井刑事は、一通り部屋を巡っていたが、今度は、サニタR―の入ってみた。洗濯機を置く場所に、何もないと広く感じられるもので、真っ暗になった風呂場を懐中電灯をつけてみると、そこには、何か物体があって、それが圧迫感を感じさせているのが分かったのだった。
 桜井刑事は、その物体を照らすと、水が入っていない浴槽に、一人の男性がまるで、窮屈そうに折れ曲がって入っているではないか。
 吐きそうな血の臭いと、当たりの悪臭がいまさらのように漂ってきた、やはり、そこにあるのが死体だということは、疑うまでもなくなったのであった。

                 被害者は誰だ?

 思わず、桜井刑事が、
「うっ」
 と嗚咽を漏らした。
 さすがにこの様子を、一般人にいきなり見せるわけにもいかず、扉を閉めて、脇坂を表に出しながら、自分も明るい部屋に戻っていった。
 確かに日は暮れているが、真っ暗な部屋というわけではない。隣接したところには、すでに他のマンションが乱立しているところなので。その明かりが漏れてきているのだ。
 桜井刑事は、ケイタイ電話を取り出して、
「ああ、桜井です。殺人事件発生です。ええ、私がやってきた血染めのナイフが見つかったマンションです。そこの306号室から見つかりました。ただ、住民は引っ越した後のようで、まっさらな状態の中での死体だったんです」
 というと、向こうから指示か質問があったようで、
「ええ、見つかったのは、浴槽です。確認しましたが、死んでいます。死後硬直からみても、相当前だと思います。大至急応援と、鑑識の手配をお願いします」
 といって電話を切った。
 そして、今度は、脇坂を制して、
「ここをとりあえず出ましょう。まもなく警察が来ますので、それまで、あなたのお部屋にでもいましょうか。とりあえず、落ち着きましょう」
 ということで、桜井は、脇坂をともなって、彼の部屋に戻っていった。
「大丈夫ですか? 落ち着いたら、少しでもお話を伺いたいですね」
 というではないか。
「ええ、大丈夫です。しかし、何でこんなことに?」
 と落胆しているようだったので、桜井刑事は、
「大丈夫ですよ」
 といって、落ち着かせようとする。
「お隣は、二週間くらい前に引っ越したというのは、どうして分かったんですか? お隣から引っ越しますと言ってきたわけですか?」
 と、桜井刑事に聞かれた脇坂は、
「いいえ、そういうわけではないんですけどね。しいて言えば、隣の部屋の明かりがつかなくなったのが、2週間前だったということです。その日から、真っ暗になったので、引っ越したんだって思いました」
 と脇坂がいうと、
「何か306号室が気になっていたんですか? そうでもないと、明かりをいちいち気にするというのも、神経質すぎる気がするんですよ。303号室のように、エレベータから降りて部屋に行くまでに、必ず通過するところであれば分かりますが、そうでもないということであれば、そこまで神経質というのはおかしいと思ってですね」
 と桜井刑事は言った。
「実は、306号室は、新婚だったんですが、時々、夜中に誰か仲間を連れてくるんでしょうね。定期的に、どんちゃん騒ぎをするんですよ。それでイライラしていたというわけなんです。だから、管理会社には、注意してほしいと言ったんですが、ずっと変わることはなかったので、こちらもウンザリしていたということです」
 という。
「なるほど、引っ越してくれたのは、ありがたかったということですね?」
 と聞かれたので、
「ええ、その通りです」
 というと、
「管理人の方はどうでした?」
 と聞かれて、
「いやあ、どうもこうも、何もしてくれませんよ。こちらが何を言っても、右から左という感じですね。うるさいやつがいると思っているだけだったんじゃないですか?」
 と脇坂がいうのを聴いて、
「これはよほど管理会社に恨みを持っているな」
 ということを感じたが、それでも、怒りの割に、投げやりに聞こえるのは、それだけ、
「この男が言葉を選んでいっているということなのだろう」
7と桜井刑事は感じた。
 しかし、
「まあ、こういうことは、マンション住まいをしていると、日常茶飯事だろうな」
 と、自分もマンション住まいなので、桜井刑事も一応の同情を、脇坂に寄せていたのだ。
 それを分かったのか、脇坂だったもで、黙っていると、
「脇坂さん自身は、引っ越そうとは思わなかったんですか?」
 と聞かれて、
「ええ、もちろん、それも考えましたけど、でも、そこまではしませんでした」
 というので、
「なぜですか?」
 と桜井刑事が聴くと、
「もし、ここを引っ越した後に、彼らが引っ越すかも知れないし、さらに、こっちがもし、隣室に誰もいない部屋に入ったとしても、空室なんだから、そのうちに誰かが入る可能性は大きいわけですよね。その人が、隣室の人よりももっと最悪の人だったらと思うと、怖くて動くこともできないですからね。そんなことをもし繰り返すようになると、それこそ、引っ越し貧乏になってしまいますよ」
 と脇坂は言った。
「この男、相当冷静な分析ができる男なのだろうか?」
 と、桜井刑事は感じた。
「いや、これくらいのことは、普通の思考能力を持っている人であればできることだ」
 と感じた。
 要するに、
「それだけ、世間の連中に発想能力が欠如している」
 ということを感じるのだ。
 というのも、
「ちょっと考えるだけで、飛躍的な発想ができるのに」
 と思うからで、
「そういう連想的な発想ができないことが、今の世の中の無残な状態に繋がっているんだろうな」
 と桜井刑事は感じていた。
 世の中というのが、そんな連中ばかりであり、
「だから、俺たち刑事の仕事が減らないんだ」
 と、本来なら愚痴をこぼしたいくらいだった。
 要するに、
「もう少しでも、まわりを見る目を皆がもってくれれば、事件も相当減るんだろうな」
 ということを、よく、本部長と話をしたのを思い出した。
 あくまでも、希望的観測であり、いっても仕方がないということが分かっているのだが、言わないわけにはいかないという気分であった。
「なるほど、分かりました。ところで知っている範囲でいいので、予備知識として知っておきたいのですが、隣室の住民というのは、どういう人だったんですか?」
 と桜井刑事に聴かれて、
「若い男女だったと思います。ただ、結婚しているかどうかまではよく分からないんです。毎日出かけていく時間が違って、帰りは一緒なんですよ。そちらかがシフト制だったり、夜の仕事であれば分かるんですが、もし、夜の商売とすれば、女の方かも知れないですね」
 という。
「そうですか。まあ、詳しいことは管理人に聴けば分かるとは思うんですが、この部屋が空き家になったと思ってから、何か物音は聞かれましたか?」
 と刑事が聴くと、
作品名:完全犯罪の限界 作家名:森本晃次