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完全犯罪の限界

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「自分なりの推理を立てたり、それを、捜査会議にもたらされた証拠や、捜査によって得た事実関係から、会議の中で話し合ううちに、真実に少しでも近づこうとして、その捜査方針も決まっていくのだ。しかも、その捜査方針は、よほどの裏付けがない限り、他のことをすることは許されない。管理官であっても、捜査本部の決定に逆らうということは許されない。そういう意味で、警察の捜査というのは、それだけ重要なことだといえるのではないか?」
 と刑事は考えていた。
 この刑事は、K警察署の刑事課でも、ベテラン刑事と言ってもいい人で、今まで何度もいろいろな事件を解決に導いてきたということで、K県警でも、一目置かれている、
「桜井」
 という刑事であった。
 最近では、相棒として、
「迫田刑事」
 という若手の刑事がついている。
 ここしばらくは、この二人のコンビが事件解決に一役を買っていて、
「安定のコンビ」
 と言われているようだった。
 今日も二人は一緒に行動していて、迫田刑事の方は、ナイフを鑑識に回したり、鑑識に付近の捜査をしてもらうために、集合ポストのところにいたのだった。
 迫田刑事は勘がいい刑事で、最初に、
「おや?」
 と感じたのが第一発見者が、腕に包帯を巻いていることだった。バンテージのようにも見えるが、明らかに包帯でしかないというのが、迫田の見え方で、そのことが引っかかるようになっていたのだった。
 桜井刑事だけが、上に上がってきて、脇坂に従っていた。今のところ、何ともいえない事件の進行に、迫田刑事の方は、苛立ちを隠せないようだったが、桜井刑事はさすがベテラン、余計な意識はしていないようだった。
「刑事さん、ちょっと待っていてください」
 と言って、脇坂が、部屋に入ると、桜井刑事は、何の気なしに、この階の通路を見渡していたが、
「おや?」
 と、ちょっと隣の部屋の扉が開いているのが見えた。
 先ほどまで、つまり、脇坂が部屋に姿を消すまでは、まったく開いていないかった部屋の扉が半開きになっているのだった。
「ひょっとして、自分たちが上がってきたことで、隣の住民が何か気になって覗いたのかな?」
 と思ったが、それおおかしなことだった。
 その人が、これがm殺人事件であるということが分かったのであれば、怪しむのあ分かる。
 しかし、警察は覆面パトカーで来ていて、そんな、事件であるかのような大げさなことをしているわけではないではないか、
 それなのに、上の階の人が気にすることなどないというもの、
「とすると、血染めのナイフが見つかったということを、最初から分かっていたということなのかな?」
 と、刑事の勘が、それを教えた。
 桜井刑事は、305号室に入っていった脇坂のことよりも、その先の部屋である、306号室の方が気になって仕方がなかったのだ。
 そこで、脇坂が出てくるのを待っている間、306号室に近づいた。
 いくら警察とはいえ、覗き行為になるようなことはしてはいけない。それなりに、ちゃんと気を遣うようにして、ゆっくりと近づき、隣の部屋を覗き込んだ。
 扉は半開き状態になっていて、中を覗き込んでも、半分くらいしか見えないであろう。
 そう思って、扉から中を見ると。どうも、人の気配が感じられない。それどころか、部屋の中には家具が一切ない、
「空き家」
 だということが分かったのだ。
「ここは、空き室なのか?」
 と思って、さらに大胆に覗き込んだ。
 もちろん、刑事としての意識から、手袋は嵌めているので、指紋の付着は気にすることはなかった。
「誰もいないのか?」
 と思わず声を掛けたが、もちろん、声がするわけもなかった。
 そんなことをしていると、
「お待たせしました」
 と言って、305号室から、脇坂がおもむろに出てきたのだが、脇坂はそこにいるはずの刑事がいないことを不審に思うと、まわりをキョロキョロしていると、隣の306号室の扉が開いていることに気づいたのか、
「桜井刑事?」
 と言って声をかけるように、306号室んい近づいた。
 すると、そこでは、桜井刑事が、中腰で中を覗き込んでいるのが分かったので、もう一度、
「桜井刑事?」
 と声をかけると、桜井刑事も、脇坂の存在に気づいて、そしてその彼が部屋に入ってきそうになっているのに気が付いて、一言、
「余計なところには、触らないでください」
 と声を掛けたのだった。
 少し強めにかけた声だったが、叱るというわけでもなく、促すという程度だったので、却って余計に脇坂には緊張が走ったのだ。
 このあたりの声掛けも、
「さすが刑事」
 ということで、桜井刑事ならではだったに違いない。
「脇坂さん。この部屋は、空き室なんですか?」
 と言われ、
「ええ、そうだと思います。この間までは、確かに誰かが住んでいたと思っていたんですが、最近では急に静かになりました」
 というのを聴いて、
「最近のマンションというのは、近所づきあいというのは、まったくであり、却って近所を気にするのは、個人情報もあるので、関係を気まずくすることになるんだろうな」
 ということを理解しているつもりだったので、脇坂の証言にたいして、何ら不思議な気持ちを持たなかった桜井刑事だった。
 それよりも、
「それはいつからですか?」
 という方が気になり。
「2週間ほどくらい前ですかね?」
 と、ある程度確定的な答えがすぐに返ってきたことが、桜井刑事の中では、少し気持ち悪い気がしたのだった。
「2週間というと、つい最近ですね?」
 と桜井刑事が言ったが、ある意味2週間というのは、微妙な時期でもあった。
 最近というものの境界線でもあるようで、そういう意味では、2週間というのは、
「曖昧な時に答えるには、ちょうどいいくらいなのではないだろうか?」
 と感じたのだった。
 桜井刑事は、ゆっくりと部屋の中を、注意深く物色している。その様子は、
「何があるか分からない」
 という感覚と、
「誰が飛び出してくるか分からない」
 という感覚で物色をしている。
「脇坂さん、あなたはなるべく触らないように」
 と注意を促している。
 手袋をしていない脇坂に対しては、当然の注意であり、危険を考えると、少々きつめの注意喚起も、当然のことであった。
 ただ、このゆっくりは、
「何か証拠になるものを見逃さない」
 という思いが強いからであろうか。この何もない部屋への意識は以上にも感じられた。
「ここまでしなくても」
 と思うほどなので、この注意の仕方は裏を返せば、
「何かが落ちているに違いない」
 ということであり、完全に、事件だと思っていることの証拠ではあるまいか。
 そう思えてくると、二人の間の緊張感は、沸騰してきた。
 脇坂も、本当であれば、部屋の外にいればいいのだろうが、それができないのは、
「彼も一人でいるのが怖いからだろう」
 と、桜井刑事が感じたからであって、脇坂を部屋から出そうとはしなかったのは、そういうことだったのだ。
作品名:完全犯罪の限界 作家名:森本晃次