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完全犯罪の限界

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「ああ、聞こえましたよ。でも、それはハッキリとしないんじゃないですか? この部屋はこれからも貸し出すわけですから、住民が出ていってから、補修をしたり、きれいにしたりすることもあるでしょう。それが終われば、不動産会社に空き室の登録をすることになるでしょうから、不動産会社が、入居希望者を連れてくることもあるでしょうね」
 ということであった。
 さらに、脇坂は、
「でも、二週間ということなので、どこまでできるかでしょうけどね」
 というのであった。
 それを聞いた桜井は、
「なるほど、だったら、被害者がいつからあの場所で放置されたかということですよね。ひょっとすると、殺したのが退居してすぐだったら、それこそ、もっと前に見つかっていたことになるわけですよ。もし、あなたの郵便受けにナイフを入れた日が、昨日だったのだとすれば、ナイフと今回の事件の関係性も微妙になってくる気がしますからね」
 という。
「ということは、刑事さんは、私の郵便受けにあったナイフと、今回の殺人事件は関係があるということを考えているわけですか?」
 というので、
「それが普通だと思うんだけど?」
 と、桜井経緯が言った。
 脇坂は少し考えてから、今度は思ってよりも、自信を持った口調で言ったのだが、
「それにしては、あの現場で血がそこまで飛び散っていないと思われるんですが、だとすると、凶器はまだ被害者の胸に刺さったままじゃないんですか? 凶器を抜き取ると、それなりに相当な返り血が飛び散るはずだと思うんですけど?」
 ということであった。
 脇坂は続ける。
「あそこのあれだけの真っ暗な状態であれば、表で刺し殺してから、あそこに隠したということになるのではないかと思うんですが、どうしてそんな手間のかかることをしたんでしょうね? 管理人にしても、不動産屋にしても、一度ここに訪れれば、漏れなく部屋を確認していくはずなので、死体を隠すというようなことは意味がないように思うんですけども?」
 と相当きつめにいったが、それは自分の意見にかなりの自信があるからだろう。
 しかし、これだけハッキリと言ってのけるということは、却って刑事に、
「どうしてここまですぐに分かるんだ? 最初から用意しておいたいいわけではないか?」
 と思わせるかも知れない。
 しかし、桜井としては、今のところ、
「この脇坂という男が何か言い訳をするようなことはあるはずないな」
 と思っていたことだろう。
 それを考えると、二人がこの場で、
「意見を戦わせている」
 としても、いずれは、
「すべて他の証言で、白日の下にさらされることだろう」
 とお互いに考えていたに違いない。
 ただ、桜井刑事としては、
「この男、甘く見ていたら痛い目に遭いそうだな」
 ということくらいは感じているようだった。
 桜井としては、
「まずは、下で見つかった凶器と思しきナイフの鑑識が終われば、まずは、いろいろ分かってくることなのではないだろうか?」
 と感じるのだった。
 ナイフを鑑識に預けてきた迫田刑事は、少し下で独自に鑑識と捜査を行っているところに桜井刑事からの連絡を受けた。
「はい、こちら迫田。桜井さん、どうされました?」
 と聞くと、
「下が落ち着いたら、3階まで上がってきてくれないか?」
 と言われ、
「どうしたんですか?」
 と聞くと、
「うん、こっちで仏が見つかった」
 というと、電話口で迫田刑事が息を呑むのが聞え、
「どういうことですか? じゃあ、さっきのが凶器ということですか?」
 と聞くので、
「分からん、とりあえず上がってきてもらおう」
 と言われ、
「はい、分かりました」
 と、言って、迫田刑事は、そそこさと上がってきた。
 迫田刑事に犯行現場を見せると、
「うわっ、これは」
 といって、迫田刑事も嗚咽でむせたようだった。
 迫田刑事に見せたその時の臭いは、先ほどとは、若干違っているようだった。
 桜井刑事が最初に感じたのは、鼻にツンと突く、血の臭いだった。
 そのうちに、腐ったような臭いを感じ、息苦しさが襲ってきたのだったが、今回は、先に嗚咽のようなものがあり、悪臭が先だった。その後で、今度はじんわりと地の臭いが出てきたのだった。
「本当に何ですか? この臭いは?」
 と迫田刑事がいうので、桜井刑事は、先ほどの自分の疑問をぶつけてみた。
「迫田君、君は最初にどんな臭いを感じたかね?」
 と聞くと、桜井刑事の言いたいことがよく分からないのか、
「私は、まず、血の臭いを感じましたね。そのあとで、何か臭い汚物のような臭いがしてきて、これはたまらないと思ったんですよ。正直、息をするのも嫌になる感じでしたよ」
 というので、
「そうだろう? 私もそうだったのだよ」
 というと、迫田刑事は少し不可思議に思ったのか、怪訝な表情になっていた。
 桜井刑事はそれには構わず、そして迫田刑事にかまうことなく、部屋を後にした。
 さっきに比べて目が慣れてきていることもあって、傷口を今度は確認することができた。どうやら、ナイフは刺さっていないようだ。
「ということは?」
 と、桜井刑事は考えたが、
「ナイフが取れていて、そのわりには、それほど血が飛び散っていないではないか?」
 と感じたのだ。
 そして次に感じたことは、
「だということであれば、犯行現場はここではない可能性がある」
 と感じた。
「そっか、だから、この風呂場にあったんだ」
 と思った。
 もし、この場所で殺人を犯すのはあまりにも不自然だ。もし、このマンションのこの部屋を誰かが借りているのであれば、風呂場を使うということはあるだろうから、ここでの犯行もないとは言えないが、まったく使っていない部屋で殺人が行われたとすれば、死体が風呂場にあるのは、明らかに不自然である。
 というのも、風呂場というところが、とにかく狭くて、暗いところだからだ。
 こんなところで犯行を犯そうものなら、いくらナイフであっても、確実に絶命させることなどできないだろう。
 もしできるとすれば、よほど、
「暗いところでも目が利いて、しかも、殺し屋のように、確実に相手をしとめることができる自信がない限り、こんなところで犯行を犯すわけはない。
 それが、桜井経緯の中で最初に引っかかっていた部分だった。
 そのうちに、警察が入ってくる。
 その中に、警部と思えるような人が、
「桜井、ガイシャはどこだ?」
 と言われ、警部をそこに連れて行った。
 警部はその惨状を見ながら、
「うーむ」
 と唸った。
 その中には管理人もいて、管理人は刑事からもらった手袋をしているようだった。そして、おもむろにスイッチのところに行き、スイッチをつけると、スイッチがついたのだ。
「一応ライフラインが利くように管理人にお願いしておいたんだ」
 と警部がいうと、
「そういうことですか」
 と桜井刑事が言って、再度現場を見ると、これは明るくなったことで、かなりよく見えた。
「これならよく見えるだろう」
 という警部の声を聴いて、
「ええ、よく分かります」
 といいながら、桜井は、床のタイルのあたりをまずは確認していた。
作品名:完全犯罪の限界 作家名:森本晃次