完全犯罪の限界
だが、それが、まんざらでもないと思えることが実際にあったのでビックリさせられるのだが、今回のマンションでの事件が起こってから数日したところで、また殺人事件があったのだ。
これは、初動の段階では、
「まったくこの二つの事件が結びつく」
などということは、想像もしていなかったことであるが、それが分かったのが、鑑識による解剖が行われた時であった。
今回の事件も、刺殺だったのだが、マンションの部屋というわけではなく、河原で死体が発見され、今度はナイフが突き刺さったままだったということなどから考えると、
「前の事件と、まったく違った展開だ」
ということであった。
同じ管轄だったので、最初は、
「連続殺人か?」
と思われたが、概要だけでも、共通点が一切なかったので、
「まったく別の犯罪」
ということで、新たに捜査本部がたてられたが、鑑識からの報告で、その事態は一変してしまった。
「これは連続殺人の可能性が大きい」
ということで、
「捜査本部も一緒にしよう」
というところまで行っていたのだ。
というのは、
「今回のナイフに付着していた血液にも、ネコかイヌの血液が付着していた」
ということだったからである。
大団円
ただ、今回の事件に関しては、前の事件に結びつくものは何もなかった。
二人の間に何ら関係性が調べる限り出てくるわけではなかった。
今回の事件の被害者は、
「福原晴久」
という男だった。
この男の場合は、第一の事件の加藤正明と関係性はないが、この男に勝るとも劣らないような、非道な男であった。
第一の被害者である加藤正明は、奥さんなどを物色し、新興宗教に入信させ、そのまま洗脳させることで、家庭崩壊を招かせ、さらに、風俗で働かせては教団に貢がせているなどの、こちらも非道であった。
今回の被害者の福原という男は、身元はすぐに分かった。身元を隠そうとは一切しているわけでもなく、明らかに犯行現場が他にあったということであり、そのおかげで、聞き込みも、福原中心の話を聴けたので、ウワサは簡単に入手できた。
そのウワサとしては、ロクなものがなかった。
というのも、
「ああ、あの福原という男でしょう? 死んだ人の悪口は言いたくないんだけど、いつも女には困っていないなんて自慢をしていたんだけど、本当に、いつも違う女を連れているような人で、それも、年上の女が多かったような気がするな。貢がせていたりでもしたんじゃないかな?」
という話が聴かれたり、
「福原ですか? あいつはロクなやつじゃないですよ。何かねぇ、女にはだらしないやつで、他の女を妊娠されたので、金がいるとか平気で、笑いながらいうようなやつですよ。人間性を疑いたくなりますね」
と、いかにも、
「福原という名前を聞くだけで、胸糞悪い」
とでも言いたげだったのだ。
それを思うと、そんなウワサしか出てこないやつに、刑事としても、
「確かに殺されたというのも、気の毒な気はするけど、本当に同情するに値する男なのだろうか?」
と思えてくるのだ。
特に、勧善懲悪の迫田刑事としては、
「加藤といい、この福原といい。何で被害者というのは、こんな連中ばっかりなんだ?」
と思わずにはいられない。
「だからこそ、世の中というのは、ロクな奴がいないということであり、殺されるには、殺されるだけの理由があるのかも知れない」
と、犯人に対して、本来であれば、感じてはいけないはずの同情心を、感じてしまうことに、憤りを感じていたことだろう。
いろいろ調べてみると、
「福原という男に遊ばれて、妊娠した状態で、自殺をした女の子もいると聞いています。本人がそのことを知っていたのかどうか分かりませんが、死ぬまで、似たようなことを繰り返していたようですね」
ということも分かってきて、
「調べれば調べるほど、ロクな男ではないということが分かってきました。本当に腹立たしいですよ」
と、迫田刑事がそういうので、普段だったら、
「刑事なんだから、そんなことをいうもんじゃない」
という立場の桜井も、今回ばかりは、言わせておいた。
そもそも、
「少々の犯人であれば、迫田刑事がここまでいうことはないはずだ」
ということを分かっているので、何も言わないのであった。
「桜井刑事、今度の事件をどう考えればいいんですかね?」
と、人に意見を求めるほど、頭が混乱しているようだ。
それだけ。勧善懲悪の性格を、自分としても、恨んでいるのかも知れないのであった。
今回の福原という人物がすぐに判明したことで、容疑者と思われる人間が、絞られてきた。
しかし、この男を殺そうというyほどの動機を持っていた人間は、さすがにそこまではいないようだった。
ひどい目に遭わされた、いわゆる、
「被害者から被害を受けた女性」
のほとんどは、今は幸せに暮らしていたり、自殺はしたが、それも相当前のことなので、いまさら復讐をするということも考えられない」
ということであった。
そんな中で、一人の男が浮かんできた。
その男というのは、実は脇坂だったのだ。
脇坂というと、そう、第一の事件の発見者ではないか。
脇坂は、以前から、福原のことを、
「殺してやりたい」
とまわりに話していたという。
しかし、まわりの人は、
「普段から冷静で、あのようなことをいうような人ではないんだけどな。もし、人殺しを企んだのなら、自分から、人を殺したいだなんていったりはしないはずなんだけどな」
という風に見られていたようだ。
福原という男が殺されて、やはり知り合いも、
「脇坂の犯行ではないか?」
と思ったようだが、それは直感で感じただけで、すぐに、
「それも何かおかしい」
と思うようになったという。
実際に、今回の脇坂に対しては、アリバイらしきものがない。第一の犯罪においては、あれだけのアリバイがあったにも関わらず、脇坂にはないということを考えると、共通点としては違う部分であっただろう。
ただ、ここで脇坂という男が浮上してきたということは、最初の殺人と今度の事件との間に、
「やはり何かかかわりがあるのではないか?」
と思うのは当然であった。
そこで、捜査されたのが、脇坂と、第一の被害者である。加藤という男の関係である。
これに関しては、一切出てこない。ということは、
「第一の犯罪に関しては、脇坂には、動機はまったく見当たらない」
ということになる。
もっとも、第二の犯罪も、
「動機があり、実際に殺してやるとまで言っていた脇坂だったのだが、証言から考えると、どこかわざとらしさのようなのがあることから、本当に犯人なんだろうか?」
ということにもなるのだ。
一応の、重要参考人であるが、第一の犯罪が引っかかって、どこか釈然としないものがある。
ただ、第二の殺人の重要参考人ではあるので、取り調べは行われた。
彼の動機というのは、
「福原という男が、自分がつき合っていた女性を寝取り、妊娠までさせて、自殺に追い込んだ」
ということがあったことだった。