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完全犯罪の限界

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 それをまわりの人にこれみよがしに聞かせていたということが、刑事には引っかかっていた。
 その様子を見て、迫田刑事は、一つの仮説を立てていたのだが、今のところ、それを立証することはできなかった。ただ、気になることとして、
「第一の殺人における、死体が発見された部屋の持ち主である女の行方が分かっていない」
 ということと、
「その女の元夫が、最近、不慮の事故で亡くなっている」
 ということであった。
 脇坂の捜査を行っていると、ふとした証言が、捜査本部にもたらされたが、ほとんどの捜査員は、そのことをあまり意識していないようだった。
 さしもの、桜井刑事も、軽く流しているようだった。
 というのは、
「桜井刑事は、迫田刑事のような突飛な考えを持っているわけではなかった」
 ということからだった。
 迫田刑事は、結構昔から、探偵小説などを読んでいて、実際の事件捜査の時に、地道な調べを行っている間も、
「これが探偵小説だったら、どんな発想になると、奇抜な事件になるだろうか?」
 と不謹慎ではあるが、
「自分の中で思っている分には、いいだろう」
 と考えていたのだった。
 もたらされた情報というのが、
「脇坂と、第一の事件の死体発見現場に住んでいた平野聡子の元旦那である平野義明と、最近、接触したのを見たことがある」
 という証言だったのだ。
 ある飲み屋の証言で、二人とも行きつけのお店だったようで、
「そうですね。意気投合はしていましたね。知らない人が見れば、その日初めて会って、意気投合したかのように見えるでしょうが、僕が見る限りでは、前から知り合いだったのではないか? と思うんです。しかも、平野さんの方はそうでもなかったんですが、脇坂さんの方は、ちょっと挙動不審なところがありました。こういう店だから、酒に酔うと挙動不審になる人は多いですが、脇坂さんが、酒に飲まれるようなところを見たことはほとんどなかったので、おかしいとは思いました」
 という証言で、
「挙動不審というと?」
 と刑事が聴くと、
「まわりをキョロキョロ見ているんですよね。何がそんなに気になるのか、正直分からなかったんですけどね」
 と店の人は答えていた。
「わざとらしさがあったり?」
 と、ふと思って聞いたのが、迫田刑事だった。
「そうですね、まさにそんな雰囲気だったといってもいいかも知れません」
 というではないか。
 迫田刑事は、それを聴いて、思わず、ニッコリと微笑んだのだった。
 この時、迫田刑事の中で、何かが、閃いたかのように感じられたのかも知れない。
 迫田刑事は、自分の推理のようなものが、少し証明されたかのような気がして、素直に嬉しかった。
 ただ、自分の中では、
「実際に犯罪の中で、一番発生しにくい。いや、ある意味で、小説の中だけの世界で、実際に行うなどということは不可能だ」
 と思われた犯罪だっただけに、
「もし、行うとすれば、よほどの伏線を敷いておくか、それなりの考えがなければ、成立しないというものではないだろうか?」
 と考えたのだ。
 その中で、
「不可思議なことが多い。謎が多い」
 ということが、
「伏線だと思ってもいいのではないか?」
 と思えることだったのだ。
 一つ一つの謎を考えてみた。
 まずは、
「平野の元奥さん、部屋の住民はどこに行ってしまったのだろうか?」
 ということであるが、普通に考えれば、
「何かの理由で出てこれない?」
 と思うと、
「犯人ではないか?」
 ということになるが、それなら、なぜ死体をわざわざ、自分の部屋に放置して、発見しやすいようにしたのだろうか?
 これでは、
「犯人は私だ」
 といって宣伝しているようなものではないか。
 そう考えると、この事件の犯人の中から、一応、平野聡子を外すことになる。
 ただ、そうなってしまうと、第二の殺人の中で、あざとい素振りでわざとらしさのあった、脇坂もはじかれることになる。
 あくまでも、それは、
「発想の連鎖」
 ということで外すという共通性であって、
「一番クロだ」
 ということに代わりはないだろう。
 もう一つの疑問として浮かび上がったのが、
「なぜ、両方の殺人で、動物の血が使われたのか?」
 ということであるが、
 一つの仮説として、
「最初の犯罪を行った時、被害者もケガか何かをして、出血したのではないか?」
 ということであった。
 すると思い出されるのが、ナイフを発見し、第一の死体発見の現場で一緒になった脇坂が、
「腕に包帯を巻いていた」
 ということだった。
 あれから、かなり日が経ったにも関わらず、腕の包帯を外す様子がない脇坂に、迫田刑事は、それが気になって仕方がなかったのだが、ひょっとすると、第一の犯罪で手をケガしたのは、この脇坂であり、脇坂こそが、
「実行犯」
 ではないか?
 と考えられた。
 しかし、脇坂には、死んでいた男である、
「加藤正明」
 とはまったくといっていいほど、接点はない。
 むしろ、部屋の住民である平野聡子の元旦那が一番の毒気を持っていて、しかも、それが、
「完璧なアリバイ」
 を持っているというではないか?
 それを考えると、迫田は、自分が考えた、
「突飛な推理」
 が組み立てられるのではないか?
 と考えるのだった。
 迫田が考えた犯罪というのは、
「交換殺人」
 であった。
 それを計画したのが、脇坂であることは、もし、これが交換殺人だということになると、間違いないと思っている。
 しかし、そこに大きな誤算が起こった。
 本来であれば、第二の殺人の実行犯として考えていた平野聡子の元旦那が、
「不慮の交通事故で死んでしまった」
 ということではないだろうか?
 ただ、これも、
「本当に事故なんだろうか?」
 とも考えられる。
 事故ではないと考えると、誰かがひき逃げを計画したということになる。実際にその時のひき逃げ犯は捕まっていない。
 それを考えると、
「ひき逃げをしたのは、奥さんではないか?」
 とも考えられる。
 それは、彼女が、脇坂を何らかの理由で憎んでいて、そしてその理由を、元旦那が誰かを殺すつもりでいると考えた時、
「自分だ」
 と思ったのだとすれば、
「殺される前に、殺そう」
 と考えたのかも知れない。
 そう考えると、そそくさと部屋を出て行った理由も、今も出てこない理由の分からなくもない。
「犯人ではない自分の部屋で死体は発見されると、警察は自分を犯人だと思うだろう」
 ということで逃げていると思わせればいいからだ。
 ほどなく自分が犯人ではないと警察が判断したところで、姿を現せばいいからであった。
 ただ、このことが、脇坂の計画を完全に壊してしまった。
 自分のかわりに、実行犯になってもらうつもりだった福原が死んでしまったのだ。
 平野という男の絶対的な弱みを握っていることで、脇坂は、やつに犯行を起こさせればよかった。その効果が表れ、平野が犯行を犯さなければいけなくなってしまったというのが、飲み屋での二人の目撃ということだったのだろう。
 二人をわざと目撃させて、脇坂もリスクは背負うが、それ以上に、加藤を実行犯にさせるという必要があったのだ。
作品名:完全犯罪の限界 作家名:森本晃次