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完全犯罪の限界

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「平野聡子」
 の線から浮かんできたのだった。
 彼女は、脇坂の想像通り、夜の店で働いていた。
 いわゆる、
「キャバクラ嬢」
 というもので、元々は結婚していて、普通に生活をしていたのだが、何やら奥さんが借金を作ってしまったということで、離婚となったようだ。
 しかも、その借金は、半端な額ではないようで、キャバクラで働き始めたのも、そのためだったという。
 ただ、しかも、借金を作るのは初めてではなく、前にはもっと高額の借金だったようだ。その時は、ソープ嬢をして、短期間で返したというのに、懲りることがないというか、いつの間にかまた借金が増えていたという、
 旦那が愛想を尽かすのも、当たり前というものだろう。

                 アリバイ

 平野聡子の行方もそうなのだが、とにかく被害者が誰なのかということを突き止めるのが、先決であった。
 しかし、死んでいた男は、身元を示すものは一切持っていなかった。死んでいた時の恰好も、アロハシャツにジーンズというような、まるで昭和の時代であれば、
「チンピラ」
 という様相であった。
 だから、そのいでたちから、いわゆる、
「街のチンピラ風情」
 を中心に探すことになったのだが、該当するような人物は現れない。
「こんなにも、見つからないものか?」
 と思うほどで、行方不明者の捜索願も漁ってみたが、そこにも該当者がいなかった。
「やはり、奥さんの線から探してみるしかないか」
 ということで、奥さんの身元調べが行われたのだが、これがなかなかの、
「転落人生」
 だったようだ。
 この奥さんのキーワードとして、浮かんできたのが、
「ある新興宗教」
 というのが絡んでいるということであった。
 奥さんの借金というのが、どうやら、その宗教団体への寄付、いわゆる、
「お布施」
 といわれる、
「上納金」
 だったのだ。
 この宗教団体は、ウワサがいろいろ飛び交っていて、他の宗教のように、一筋縄ではいかないようだった。
「奥さんのような人が入信するのに、男が巧みに近づいて、肉体的な寂しさを感じている女性や、一見社会的に満足しているような人の、心の隙をついて、関係を持つことで、入信させる」
 というものだ。
「男による女に対しての色仕掛け」
 が、やつらの手口だった。
 寂しさや、満足感の中に密かなストレスを抱えているような女性は、えてして、自分の本当の気持ちを分かっていない。
「私は寂しいんだ」
 あるいは、
「私は、満足しているつもりで本当はストレスを抱えているんだ」
 という風に、女性は思っていないのだ。
 しかも、奥さんともなると、世間体であったり、旦那の目というものがあることで、余計にその気持ちを隠そうとする。そうなると、教団による誘惑、つまりは、あてがわれた男による誘惑に、コロッと騙されるのだろう。
 だから、この宗教団体の信者のほとんどは、女性である。
 しかも、主婦が多いというのも、特徴で、団体のスタッフ側にはほとんど男しかおらず、もし女がいるとすれば、信者からの内部昇格ではないだろうか。
 女の中には、想像以上にしたたかな女もいるようで、なかなか色仕掛けに乗ってこない女は、次第に教団のやり方に気が付いてくるのだった。
 逆にそんな女の方が、今度は男に揺さぶりをかけてくる。教団としては、
「こういうやつは、騙される側ではなく、騙す方としての才能がある」
 ということで、幹部として雇い入れているのだった。
 この教団は、結構、犯罪もどきのことも裏でやっているようだった。
 その代表例が、
「美人局」
 であった。
 少々金を持ってそうな、それでいて、騙されやすいような男を、信者となった奥さんが、今度は色仕掛けで、ホテルに連れ込む。
 そこで男が現れて、
「お前、俺の女になにを?」
 というわけだが、彼らのやり口は、巧妙なようだ。
 美人局というのは、本当につまらない犯罪だ。
 そんなにたくさん金がとれるわけでもないのに、失敗することも少なくない。ある意味、
「割に合わない犯罪」
 といってもいいかも知れない。
 だが、この教団は巧みであった。
 美人局をやっても、決して。こちらの素性を明かすようなことをしない。
 元々、女と、ヒモのようなチンピラ風情がやる、
「ちんけな犯罪」
 なので。自分たちが、
「こんなにちんけな犯罪しかできないような、クズ」
 であるということを自覚していないから、騙される人を、
「本当にバカな連中だ」
 としか思っていない。
「バカがバカにしかける犯罪」
 ということで、ある意味、どっちもどっちということだ。
 そうなると、立場は圧倒的に被害者が不利ではあったが、せっかくの有利さを使うすべのない加害者側は、その頭の悪さと、クズであるがゆえに、結果としては、自滅のような形になり、別に相手の立場が悪いという中であるにも関わらず、
「犯罪が白昼の下に晒される」
 ということになるのだった。
 だから、普通の団体が、
「団体からっみ」
 で行うようなことはないのだろうが、ここではそれをやっているのだった。
 しかし、さすがに素人のようなへまはしない。
 逆に、
「割に合わないという風味見えるからこそ、警察も相手も騙せるのだ」
 と思っていた。
 水面下で、やっていて、警察も、
「宗教団体が、まさか、いまさら美人局のような、そんなことをするわけはないだろう」
 ということでタカをくくっていたのではないだろうか?
 そして、もう一つ重要なことは、
「騙す相手に決して、自分たちのことを悟られてはいけない」
 ということであった。
 いわゆる、
「尻尾を出さない」
 というのが大切なことであり、特に男の側は、その存在を
「世間に知られてはいけない」
 ということであった。
 もちろん、
「宗教団体の幹部になっている」
 ということは、元々の家族には分かっていることだろうが、まさか、
「陰で美人局のような、ちんけな犯罪をやっている」
 などとは思っていないだろう。
 だから、それだけにこの団体の幹部は、一切表と接触することはない。やっているのは、
「寂しそうな主婦」
 を物色し、自分が色仕掛けで、誘惑してくるということだった。
 彼らは、
「善悪の見極めには疎く、本能だけで生きているような男で、悪知恵がはたらくような男であれば、それに超したことがない」
 というのが、幹部にはふさわしいということであった。
 さらに、そんな彼らは、女の身体に飽きるということはないようだった。
「もう、この女の身体に飽きた」
 ということであれば、使い物にならないからだ。
「一人の女が信者として、自分はそれをつなぎとめる幹部として、二人三脚で、教団を支えている」
 ということになるのだった。
 そういう意味では、
「他にはない、歪な宗教団体である」
 と言えるに違いない。
「こんな宗教団体、歪としかいいようがないではないか」
 と、もし、その全容が分かれば、誰もが感じることであろう。
 平野聡子は、宗教団体に入信していて、実は、以前に、
「美人局疑惑」
 があった女だった。
作品名:完全犯罪の限界 作家名:森本晃次