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損得の犯罪

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 と言っていたものを、コロッとひっくり返して、
「俺のおかげで協力出版の提案ができる」
 と言い出したわけで、
「お前の作品なんか、端にも棒にもかからん」
 と言っているのと同じだというわけだ。
 ここで、他の人だったら、この脅迫に屈するのかも知れない。最初から、迷っている人であれば、この言葉は大きいだろう。
 しかし、最初から
「詐欺だ」
 と思っている人間にとって、
「お前たちが、詐欺だということはこれでハッキリした。もう、関わらない方がいいな」
 と思った瞬間なのだ。
 しかも、やつらの言い分がメチャクチャなのだ。
 こちらが、怒りを隠して冷静に、
「自分は、企画出版を目指して頑張ります」
 と社交辞令で言ってやると、完全に化けの皮をはがして、
「企画出版なんて、100%ありえない。あるとすれば、芸能人か犯罪者のような知名度の高いひとだけだ」
 と、
「いってはならないセリフ」
 を口にしたのだった。
「まあ、あいつらのような詐欺集団ならキレたら、それくらいのことをいうわな」
 と思ったので、こっちは、呆れを通り越して、気の毒になったので、そんな思いを残し、ぞのまま電話を切ったのだった。
 それは、その会社との、断絶だったのだ。
 この業界が、
「詐欺ではないか?」
 ということで、問題になり始めたのが、それから半年後くらいだったか。ピークから1年後くらいのことであった。
 本を出した人が、契約にあった、
「有名書店に一定期間並ぶ」
 という約束が果たされていないということでの訴えだったが、もしこれが1件だけであれば何とかごまかせたかも知れないが、複数人が団体で訴訟を起こそうというのだから、話が変わってきた。
 しかも、それが、社会問題になり、
「本を出したい」
 という人が激減してきた。
 要するに、自転車操業がいよいようまく回らなくなってきたのだ。
 宣伝費、人件費、などは変わらないのに、売り上げが得れば、それは当然のことだろう。
 しかも、詐欺で作者から搾取した金を不当に利益としているわけだから、当たり前の話だ。
 そもそも、商売というのは、
「お金を使って作ったものが、売れて利益になるのだ」
 というのが、基本なのである。
 しかし、これはまったく逆である。
「素人の書いた本が売れるわけはない」
 という前提に、さらに、
「本屋が売れない本を陳列してくれるわけはない」
 つまり、
「陳列しても売れない」
 ということの裏返しだ。
 だから、出版社は、売上から利益を得るわけではなく、筆者から、定価に上積みした金額をそのまま利益にすることで、成り立っていたということだ。
 そうでなければ、
「1,000円の本を1,000円で作っても売れなければ、紙屑だ。だから、あたかも売れるかのように言って、作者から、いくら引き出せるか?」
 ということが問題なのだろう。
 ひょっとすると、定価1,000というのも怪しいもの。本当は、500円くらいで本を作るくらいはできるのかも知れない。
 これらのことは、冷静に考えれば、簡単に想像できそうなものだが、作者としては、
「ワンチャンあるか?」
 というくらいに考えていて、
「本を出すのは、記念の意味で」
 ということなら理解できないでもないが、それにしては、あまりにも、高額すぎるといえるのではないだろうか。
 そういう意味で、
「もし、騙される人が最初からいなければ、こういう商売は成り立たないわけで、それだけ、俄か作家が多かった」
 ということなのだろう。
 日ごろから、
「作家になりたい」
 ということで、ちゃんと業界のことや、作家になるためには、どうすればいいかなどということを意識していれば、あんな詐欺集団に騙されることなど、最初からないのではないだろうか。
 それを思うと、
「あの詐欺集団の連中も、よく、あんなやり方で、詐欺だとバレないとでも思ったのだろうか?」
 というのが疑問である。
 共同出版を言われた瞬間、普通に算数ができる頭があって、経済学の基礎が分かっているのであれば、容易に、
「詐欺だ」
 ということが分かってしかるべきだろう。
 まさか、
「数百万円くらいは、詐欺であっても、問題ない」
 などという人がいるわけはない。
 そんな人がいるのであれば、お金を持って、自分で有名出版社に売り込みに行くなどするだろう。
 そんな、新興宗教、カルト集団のような、
「いかにも怪しい」
 ところに引っかかることもないはずだ。
 だから、どうしても、この時に、本を出した人の気持ちが分からない。
 実際に、自費出版社関係の出版社が、大手有名出版社よりも年間部数で越えた年もあったのだ。
 確かに本屋に並ばないとはいえ、本を作り、流通コードを取得しているのだから、その発行部数は加算されることになる。
 ということを考えると、
「俺たちの本は、本屋に並んでいるんだろうな」
 と安心する人も多いことだろう。
 そういう意味で、出版社も、
「騙せる」
 と思ったのかも知れない。
「騙す方も騙す方あが、騙される方も騙される方」
 と思うのは、筆者だけだろうか?
 とにもかくにも、この出版社は、この後、作者からの訴えにより、企業としての信用がなくなり、結局破綻してしまうことになる。
 それは当然であろう。
 何と言っても、自転車操業でやってきたのだから、売り上げがない分、支払いもできず、破産宣告するしかないということだ。
 その後、本を出した連中、一応被害者と言われている連中の本が無事に返ってくるということはなかった。
 破産宣告をした以上、弁護士は会社側にあり、そうなると、出した本は、
「買い取り」
 ということになる。
 要するに、最後はどうなったか正直分からないが、被害者加害者、どちらも悲惨だったことに変わりはない。
「騙す方も騙される方も同罪」
 と思っているので、気にすることもなく、興味のない状態でいると、どうやら、もう会社は完全になくなったようだ。
 これが、3,4年くらいの出来事で、
「パッと出てきたかと思うと、いつの間にか消えていた」
 というのが、興味のない人から見た時の印象ではないだろうか。
 そのおかげというべきか、
「俄か作家」
 と呼ばれる連中は、クモの子を散らすかのように皆どこかに行ってしまったようで、やっと、本来の、
「作家を目指す」
 あるいは、純粋に、
「作品を書き続けたい」
 という、継続できる人だけが残ったのは、いいことだった。
「あるべき姿に戻った」
 というべきであろうか。
 それを思うと、
「小説というものは、本当に甘いものではない」
 ということであり。やはり、
「継続できる人間にしか、できないことだ」
 と言えるのではないだろうか?
 そんなことを考えていると、
「自転車操業」
 というものに、
「俄か」
 のような、ハイエナ連中がくっつけば、このような詐欺商法が出てきたとしても、誰もすぐには気づくことはないだろう。
 そして、
「騙す方も騙す方だが、騙される方も騙される方だ」
 ということで、
「どちらも同罪ではないか?」
 と考えるのも、無理もないことであろう。
 そんなことを考えると、
作品名:損得の犯罪 作家名:森本晃次