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損得の犯罪

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 しかも、子供が小さかったりすると、育児放棄状態の親が、片方は宗教にのめりこみ、もう片方が、愛人のところに嵌ってしまうなどということが当たり前となり、子供がまだ未成年であったりすると、家庭相談所が介入し、子供を守るというようなことが、普通に、当たり前のごとく行われている様子だった。
 そんな状態の中で、
「宗教における二世問題」
 と呼ばれるものが起こってきた。
 子供をほっぽらかして、親が勝手なことをする。もちろん、親が引き取りにきても、渡すわけはないのだが、最近では、迎えにくる親もいない。
 下手をすると、親が、
「生きているのか、死んでいるのか分からない」
 というほど、消息が分からないことも多いようだ。
 特に、ここの宗教では変なウワサもあり、
「信者として抱え込んで、女は幹部のおもちゃにされ、飽きれば、風俗にでも売られてしまう」
 ということである。
 この時点でも、宗教への依存度は激しいので、
「教団のために」
 ということで、風俗で働くことを、
「自分の生きがい」
 と思っているようだ。
 もちろん、独り身であって、旦那子供などいなければ、それで構わないのだが、家族を放っておいて、収入はすべて、教団に吸い取られて、それでも、ヘラヘラしているというようなことが、許されてもいいのだろうか?
 さらに、これが男だったら、どこかの怪しい組織に売られ、幹部の用心棒などとして働かされているのだ。こちらも、宗教への依存度から、
「これでいい」
 と思い込んでいる。
 つまり、
「自分は宗教から離れると、一人では生きていけない」
 ということを刷り込まれてしまうことで、逆らうこともできなくなってしまうのであった。
 それを思うと、
「子供は、そんな親や宗教から、まず切り離して、人間らしく暮らすことを教えなければいけない」
 ということになる。
 子供も、完全に親の喧嘩を見たりしていて、すっかり怯えているようだった。ちょっとしたことでも、臆病になり、何かの音を聞いただけで、大きなトラウマになってしまうということなのではないだろうか。
 ここで死んでいた山形という男は、どうやら、そんな、
「二世問題の走り」
 だった頃の子供のようだ。
 今はだいぶ、宗教団体に染まってしまった親のことが少し分かるようになってきたので、親がいなくても、だいぶ元に戻すことができたようだが、この子たちくらいの子供は、どうしても、中途半端な教育しか受けれなかったことで、
「社会に出すのにも、いろいろ試験のようなものを施す必要があった」
 というではないか。
 この子はギリギリ合格したようで、言い方は悪いが、
「一番中途半端な子供だ」
 といってもいいのではないだろうか?
 それを考えると、
「一番可哀そうな子供」
 ということであり、ある意味、モルモットとして使われたふしもあったのだ。
「大きな犯罪を犯すことはなかったが、ちょっとした犯罪は犯すということは結構あったと思います」
 と言われていた。
 そんな男が殺されたことは、ビックリすべきことでもなく、
「いずれはこんなことになるのでは?」
 という話もあったにも関わらず、それでも、今回は、
「昨日まで、規制線が張られていたような場所で、よりによって同じような恰好で死体で見つかるなんて」
 ということだったのだ。
 これを連続殺人として捜査していると、どうやら、
「第二の被害者である山形にも、第一の被害者の陸奥を殺す動機があったのではないか?」
 ということで、詳細に調べてみると、
「いや、一番の重要参考人となっていたはずの人物だ」
 ということが分かってきた。
 それも、山形が殺されたことで、急遽浮き上がってきたことだった。何しろ、山形側から見なければ、見えてこない陸奥への殺意だったからだ。
 というのも、山形の母親が宗教に入信したのは、元々、あの自費出版という詐欺によって、莫大な借金を抱えてしまったことが原因だった。
 母親が入信していたのだが、最初は借金で困っているところを、
「お金を貸してあげよう」
 という甘い言葉で信者にしておいて、そこからのマインドコントロール。
 彼女のような信者は結構多く、この宗教のひどいところは、
「人の弱みに付け込むのが巧みだ」
 ということだった。
 それこそ、昭和にあった、
「老人を狙った犯罪」
 に匹敵するような、悪徳だったのだ。
 しかも、これが、
「宗教法人」
 というからたちが悪い。
 陸奥殺害の容疑者として一番に浮かび上がった山形だったが、誰に殺されたのかということだった。
 だが、第一の犯罪の時、彼には鉄壁のアリバイがあった。だから、
「犯人ではありえない」
 と言えるだろう。
 しかし、彼が殺されたことで、分かってきたのが、山形と、どちらも第一発見者とあった新聞杯ツインの坂上の関係だった。
 これも、山形側から見ると見えてきたことで、第一発見者にはなっているが、実は陸奥とも関係があったのだ。
 そうなると、俄然、
「坂上による犯行」
 というのが、取りざたされた。
 坂上は、確かにこのマンションの特徴を分かってはいたので、あのような怪しい犯行を行うことで、被害者を特定させ、一番の容疑者である山形のアリバイを完璧にした。
「なぜそんなことを?」
 と考えたところで、ふと、桜井の頭の中に、おかしな、いや、思いついた自分が、
「いやいや。そんなことはない」
 という問題が浮かんできたことだった。
 それが何かというと、
「交換殺人」
 というものだった。
 この犯罪は、
「小説以外にはありえない」
 と考えるもので、なぜかというと、
「先に誰かを殺した人間が圧倒的に不利」
 だからであった。
「自分が殺してほしい相手が死んでくれたのだから、自分は、これ以降、知らず存ぜずで、いればいいだけだ」
 ということだからだ。
「少なくとも相手は実行犯。動機はどうであれ、逃げなければいけない。彼が捕まると、殺人ほう助になるかも知れないが、彼が逃げている間は、こっちは安全だ。だが、彼が疑われることはない。何しろ動機がないのだから」
 ということになるのだ。
 こうなると、最初に犯行を犯す人間は、完全に不利である。だったら、同時に犯行を犯せばいいということになるのだろうが、それでは、完璧なアリバイを作れない。それだと、別に交換殺人の意味がないからだ。絶対に時間差が出てくるのは当たり前で、しかも、その間が離れていればいるほど、有効だ。
 だが、今回は、あまりにも時間が短すぎる。ということは、二人の間に何かがあったということなのかも知れない。
 と思うのだった。
 坂上を捉えて尋問をしてみるが、なかなか口を割る様子もない。
 この男、どうも、
「根っからの悪」
 ということのようで、そう簡単に口を割るような輩ではなかったのだ。
 警察も、拷問のようなことができるわけもなく、何とかジワリジワリ尋問を繰り返したが、決定的な証拠があるわけでもないので、逮捕状など取れるわけもなく、当然、証拠不十分ということで、釈放ということになった。
作品名:損得の犯罪 作家名:森本晃次