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損得の犯罪

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 どこまで社長は従業員に話したのか分からないが、ほとんどのことは知らないように思えるのだった。
 それを思うと、
「あまり下手なことは言えないのかも知れないな」
 と、迫田は感じたのだった。
「どうして、その話を? 誰から聞いたのですか?」
 と訊ねると、
「社長さんが」
 というではないか。
「まあ、社長から聞いたのであれば、話をするくらいはいいだろう。もし、こっちが欲しい情報がもらえれば、それに超したことはない。同僚からの方が、結構いろいろ聞けたりするだろう」
 と思ったからであった。
「ええ、まあ、社長さんがどこまでお話になったか分からないので、私の方も迂闊なことは言えませんが、その通りです」
 というと、
「やっぱり、まだ、あの人恨まれるんだな」
 と、彼はボソッと言った。
「ん? 恨まれるというと、彼には、そんな何かがあったということですか?」
 と聞くと、相手は、一瞬、
「しまった」
 という顔になったが、相手は警察、話してしまった以上、隠し立てをすることが、自分の立場を危うくするということは分かっているのだろう。
「どういうことなのか、できればお話いただけると嬉しいですね」
 と下手に出るかのように、迫田刑事は言った。
 別に取り調べではないのだから、強く言ったとしても、相手を頑なにするだけのことである。
「刑事さんは、今から10年ちょっと前くらいに流行った、「自費出版社系」という出版社というのを聞いたことがありますか?」
 と言われた。
「いいや」
 と答えると、彼は、少しでも分かりやすくということで話をしてくれた。
「自費出版社系の出版社というのは、昔、新聞や雑誌に載っていた、「本を出しませんか?」
であったり、「原稿をお送りください」というような内容を掲載していて、原稿を募集していた会社のことです」
 という。
「その会社がどうかしたんですか?」
 と聞くと、
「あの会社は、いわゆる「詐欺商法」のようなところで、一時期、本を出したいという人が、バブルが弾けたおかげで俄かに増えたのですが、それは、結構皆、甘い考えを持った人たちだったんですよ。最初は、小説が書けるようになれば、すぐにデビューできるというくらいに考えていた人たちが、どんどん原稿を送るわけです」
 というので、
「ええ、分かります」
 というと、
「でも、世の中そんなに甘いわけではなく、そんなに本を出しただけで売れるくらいなら、今は、本だけで世の中溢れかえっていますよね。作家というと、自分にできないことができているというだけで、リスペクトしてしまう立場にいるだけに、作家というものに、それだけでもなれるわけはないと思いながらも、ワンチャンあるとでも思うんでしょうね。そうなると、少々お金がかかっても、本を出せば売れるかも知れないと思うんでしょう。営業は、そんな作家の自尊心をくすぐりながら、お金を出させようと必死なわけなんですよ」
 と、いうのだった。
「なるほど」
 と相槌を打つと、彼はさらに話始めた。
「陸奥さんの仕事は、そんな原稿を送ってきた人の作品を読んで、批評をして、それに、見積りを書いて送り返すようです。その時、基本的には、まず皆に、協力出版を呼びかけるそうです」
 というので、
「協力出版というのは?」
 と迫田が聞くと、
「共同出版ともいうんですけども、要するに、あなたの作品はいい作品なんですが、出版社が全部出資するには、リスクが大きい。だから、お互いが出資しましょうというんです。でも本屋には並べるし、当然流通コードも取るということでした」
 というので、
「なるほど、それで、それが何か恨みを買うことに繋がるんですか?」
 と迫田が聞いた。
 迫田もさすがにこのあたりまでくれば、何となく、カラクリが見えてきた気がしたのだが、漠然としているので、ハッキリと聞いてみないことには、判断ができないと思うのだった。
「ええ、その出させる金額が、経済学の理屈に合っていないんですよ。定価よりも高い金を筆者に要求するわけなので、出版社は一銭も使わずに、商売ができるというものなんですよ」
 という。
「じゃあ、出版社が丸儲けですか?」
 と迫田が聞くと、
「おっと、どっこいそうもいかないわけです。というのも、本を本屋に並べるなどというのができるわけはないんですよ。毎日のように、プロを含めて、新刊が何十冊の出ているので、人気作家であっても、売れなければ、数日で返品です、それが、アマチュアで名前も売れていない人の作品が、本屋に並ぶわけなどあるわけないじゃないですか?」
 ということであった。
 ここまでくると、冷静に見えたこの男が、かなり熱くなっているのが分かってきた。
「この男、よほどの恨みでもあるのだろうか?」
 と。迫田刑事は感じたのだ。
「それは、まるで詐欺ですね」
 と、迫田刑事は、詐欺だとは分かっていたが、相手の出方を見るという意味で、やんわりした口調になって。
「ええ、まさにその通りなんですよ。やつらのやり口はそんなところにあった。だから、今度は実際に本屋に自分の本が並んだことがないということに気づいた読者が、裁判を起こすことになるんです」
 というではないか。
「でも、そんなにいきなりすぐに裁判を起こすものなんですかね?」
 というと、
「きっと、読者が、営業に詰め寄ったんじゃないですか? それで営業の態度が、それまでのへりくだった態度から、完全に開き直って逆ギレをしたような感じになってくると、出資者も、キレてきて、じゃあ、裁判を起こすということになったんでしょうね。裁判を起こされれば、勝ち目はないでしょうね」
 と、彼は言った。
「どういうことですか?」
 と聞くと、
「だって、被害者は、基本的に本を出した人全員ですからね。そのうちの一部の人間が裁判を起こしたとしても、集団訴訟か、訴訟数が渋滞するのかというだけのことで、かなりのものになるでしょう。そうなると、出版社は、虫の息ですよ。しかも、それが評判になると、もう誰も本を出そうという人がいなくなる。それまでが自転車操業だったので、一気に先ゆかなくなって。破産宣告するようになったんですよ」
 という。
「なるほど」
 と聞いていると、
「似たような出版社が、まるでハイエナのようにできていたので、一つが暴露されると、それらの会社皆が破綻することになる。だって、そんなに猫も杓子も会社を立ち上げるということは、それだけ、甘い汁が吸えるということでしょうからね。そうなると、もう、どうしようもないということですよね」
 と、いうのだった。
「そんな出版社に陸奥さんは努めていたということですか?」
「ええ、そういうことになるでしょうね。だから、彼がこの話を打ち明けてくれた時、会社が詐欺だって言われ出して破綻してくる時は、僕たちは怖かったですよ。やっていたことは詐欺なんですからねと言っていたんです。それを思い出せば、今回の事件が、その昔の尾を引いていると思うのも無理もないことでしょうね」
 というのだった。
「そんなに、被害者は多かったんですか?」
 と聞かれて、
作品名:損得の犯罪 作家名:森本晃次