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損得の犯罪

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 と感じたからである。
「じゃあ、今日もあなたが、ここは最初だということでしょうね?」
 と聞くと、
「ええ、もちろん、だから、私が死体を発見する羽目になったんじゃないですか」
 と心なしか、きつい口調になっていたが、考えてみれば、
「こっちは普段だったら、もう大体配り終わっているくらいなのにな」
 と思っていた。
 警察に協力したことを後悔しているのは本当だが、かといって、発見しておきながら、
「俺には関係ない」
 といって、さっさと出ていくわけにはいかないからだ。
「ちなみに、坂上さんは、この被害者をご存じですか?」
 といって、第一発見者として、初めて死体の顔を見たが、
「いいえ」
 と答えるだけだった。
「この人は、陸奥敏夫というタクシー会社に勤務する運転手なんだそうですが、この糸にも心当たりは?」
 と聞かれて、
「いいえ、ありません」
 と答えた。
「そうですか」
 と、桜井刑事はそういったが、そこに落胆があるかどうか分からなかった。
 だが、もし、坂上が、
「被害者を知っている」
 といえば、どうなるだろう?
 ひょっとすると、一気に彼が、現時点における、
「最重要容疑者」
 ということになり、決して喜ばしいなどということはないに違いない。
 だから、刑事としても、
「もし、知っていたとしても、今の段階で、知っているとは決して答えないだろう」
 ということは分かっていた。
 しかし、もしここでとぼけたとしても、後から分かった方が、その疑いは、濃くなるのではないだろうか?
 果たして、それを坂上が分かっているかどうか怪しいものだ。
 とりあえず、桜井刑事は、今のところ、
「彼の証言を信じるしかない」
 と思うのだった。
「刑事さん、これは殺人事件なんですよね?」
 と、坂上は、
「いまさら」
 のように聞いてきたのだ。
「ええ、胸を刺されて刺殺事件ということですね?」
 と言った。
 やはり、真っ黒いものが流れ落ちているのを見て、あまりにも黒く見えたのが、鮮血であることは、すぐに分かったと言ってもいいだろう。
「あなたが死体を発見した時、どこかで誰かがいたということはなかったですか?」
 と聞かれて、
「いいえ?」
 と答えたが、
「まさか、刑事は自分が犯人を見ているのではないか? と感じているのではないか?」
 ということを書似ているのではないかと思った。
 しかし、
「さすがにそこまではないだろう」
 と考えたが、もしそうだったら、自分が疑われているということになる。
 もっとも、まだ何も分かっていることはないようなので、今のところ、登場人物は自分しかいないので、そのための容疑というだけのことではないかと思うのだった。
「それにしても、エレベータに人をひっかけるようにして、その死体を放置するということに何の意味があるというのだろう?」
 ということを、桜井刑事は考えているようだった。
 しかも、似たような、いや
「似て非なるもの」
 というべきパスケースの置き方に、どんな意味があるというのか。
 桜井刑事は、今のところ暗礁に乗り上げていた。
「連絡を取って見ます」
 と言った迫田刑事の方がどうなっているのだろうか?
 気になるところであった。

                 もう一つの犯罪

 タクシー会社に姿を現した迫田刑事は、早速会社社長を顔を合わせた。
「今回は、従業員の陸奥さんが、このようなことになり、お悔やみを申し上げます」
 と、迫田刑事は、新人の頃から、被害者の家族だけではなく、関わった人には、一応の経緯を表する意味で、
「お悔やみ」
 を口にすることにしている。
 相手も、刑事からいわれると、かしこまるようで、話がしやすくなるのだが、別に迫田刑事は、
「狙った」
 というわけではなかったのだ。
「ところで、陸奥さんというのは、どういう人だったんですか?」
 と聞かれて、
「そうですね。あまり会話をしたという覚えもないし、印象深かったわけでもないんですよ。ただそれは、他の運転手にも言えることなんですが、彼と会話をしなかったのは、
「共通の話題がなかったというのもそうなんですが、それだけではなく、何かあの人には、触れてはいけない何かがあるような気がしていました。こういう仕事をしていると、皆、一つや二つ、そういうこともあるんでしょうが、彼の場合は、タクシーの運転手をするようになったことを、何か自分の宿命のように思っているというか、過去にその原因があるように信じていたというような感覚があるんですよ」
 というのだった。
「というと?」
 と迫田刑事が聴くと、
「もちろん、本人から何かをいうわけではないんですが、どこか自分の中で諦めのようなものがあるようなんです。つまりは、自分が今ここにいる理由は分かっているようなんだけど、自分を納得させるだけのものを探しているようなですね。でも、だからと言って、見つかっても、まだまだ満足できないなないでしょうか? 私にはそんな気がするんですよ」
 ということであった。
 -それを聴いて、迫田刑事は、
「陸奥さんは、こちらでお世話になるようになる前は、どういうお仕事をしていたんでしょうね? まさか、最初からタクシーの運転手ということはないでしょうね?」
 と言われた社長は、
「ええ、もちろん、そうですね。彼の話では、どこかの営業にいたようですね。確か出版社のような話しをしていましたね」
 という。
「ほう、そういうお仕事をしていたのに、タクシー運転手になるということは、何かあって会社を辞めたということなんでしょうね?」
 と迫田刑事が聴くと、
「そうだとは思いますが、さすがに、それを私の立場で、根掘り葉掘りは聴けないでしょう。聞いてほしい時は相手からいうでしょうから」
 と社長は言った。
「それもそうですね。どこの出版社か分かりますか?」
 と言われた社長は、立ち上がりながら、
「彼の履歴書をお見せしましょう」
 といって、探している。
 死んでしまっていて、しかも殺人事件。その犯人を捕まえるためということなので、社長も普通に履歴書を見せてくれたのだ。
「性格はやっぱり、ずっと暗い感じの人だったんですか?」
 と言われた社長は、
「暗いと言えば暗いですが、自分から進んで何かの会話を始めようということはないようでした。きっと触れられたくないものがあったんでしょうね」
 ということであった。
 まあ、これ以上は、タクシー会社の社長も分からないようだったので、
「じゃあ、今日はこれくらいで」
 ということで、社長室を後にして、署に戻ろうとしたその時だった。
「刑事さん」
 といって、いかにもの制服を着た一人の運転手に呼び止められた。
 どうやら、洗車していたのだろう。それでも、迫田を見つけるなり飛んできたので、待っていたと言った方が正解かも知れない。
 だしぬけに声を掛けられた迫田は、少し身構えてしまったが、そこにいるのが、小柄な人懐っこそうな、相手に安心感を与えるような、好青年に見えたことで、ホッとしたからだった。
「どうされました?」
 と聞くと、
「陸奥さんが殺されたというのは、本当なんですか?」
 と聞いてきた。
作品名:損得の犯罪 作家名:森本晃次