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損得の犯罪

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「ということは、このビルは、3階がエントランスで、ロビーのようになっているけど、正面玄関の土手の部分から見れば、1階にしか見えないということで、地下2階があるという錯覚を受けるのかな?」
 と、刑事が言った。
「ええ、そうですね。このあたりは昔から、山の麓に街ができている形になっているので、山から流れ出る川が結構たくさんあるんです。これくらいの一級河川は、一キロくらいにまんべんなくあるような感覚で、こういう感じの土手に建ったマンションというのも、珍しくはないんですよ」
 ということであった。
 すると、もう一人の刑事が、
「ああ、そうですね、このあたりは、天井川というのも、結構あったりしますからね」
 というと、警備員が、
「まさしくその通りです。このあたりは昔から水害が多いところだったので、それなりに、街中でも、いろいろな工夫がされているところが多いんですよ」
 というのだった。
「天井川というのは?」
 と、よくわかっていない刑事が聴くと。
「このあたりは、昔から鉄道が結構早い時期に施設されていたのですが、川を鉄道の下で通すと、途中が急になってしまう懸念があるので、鉄砲水というものの危険を考えて、鉄道を敢えて、川の下に通すという工事をしてきたんです。それを、天井川というようになったんです」
 と説明した。
 配達員も、そのことは分かっていたので、話を聴きながら、
「うんうん」
 と、頷いているのであった。
「そうか、いろいろと工夫がされているんだな?」
 と聞くと、
「ええ、このあたりは、戦前に鉄砲水の被害が深刻だったことで、山からの水の流れには敏感なんです。だから、土手をそのままにしたうえでのマンション建設というものも必要になってきたんですよ」
 と、警備員が説明した。
「じゃあ、この建て方にも、何か意味があるのかな?」
 と聞かれたが、
「そのあたりは、専門家ではないのでハッキリと分かりませんが、今は、建設技術も、災害に対しての対策も取られているので、大丈夫なようにしていると思いますよ」
 と答えた。
 しかし、その言葉にどこまで信憑性があるか分からない。
 実際に、地震による耐震基準に満たないマンションが、散見されているのを考えると、
「どこまで手抜き工事をせずにやれているか?」
 ということであった。
 逆にいえば、
「手抜きさえなければ、安心なんだ」
 ということになるのだろう。
「専門家が計算し、その通りに作ってさえいれば大丈夫だ」
 ということは、実際の実験でも証明されていることであろう。
 ただ、世の中のゼネコンというものが、どのような仕組みになっているのか分からないが、
「政治家との癒着」
 などという、
「グレーなウワサが飛び交っている」
 ということも、まんざらでもないようだった。
 それを考えると、
「何を信じていいのか分からない」
 ということになる。
 実際に、前述の、
「自費出版詐欺事件」
「老人を標的にした詐欺事件」
 さらには、
「霊感商法などの手口を使った詐欺を行っている。政治家とズブズブの団体」
 というものを考えると、
「ゼネコンの手抜き工事」
 などは、日常茶飯事なことではないか?
 と思えてならないのだった。
 ただ、このマンションが、
「手抜きかどうか?」
 というのは、今のところ関係のないことであり、目の前の事件が、大切であった。
「何か身元を証明するようなものは見つかったかい?」
 と言われ、
「何とも言えないですね、免許証が見つかったわけではないですからね」
 というのを聴いて、配達員が、
「あっ、そういえば」
 と言い出した。
「どうしたんだね?」
 と聞かれたので、
「集合ポストに引っかかっていたんですが、これは何でしょうね?」
 といってそれを見せたのだが、それは、集合ポストの一人の入り口に、真ん中で支えるように、パスケースが引っかかっていたのだ。刑事はそれを取って中身を見ると、キャッシュカードや免許証、定期券などが見つかったという。
「住所を見る限りでは、マンションの住人のものではなさそうだ」
 ということで、早速免許証の写真と、被害者の顔を見比べてみたが、
「どうやら、本人のもののようですね?」
 ということであった。
 なぜ、あんな場所に引っかかっていったのか分からなかったが、犯人が、ポケットを漁って、そこから抜いて、あそこに引っ掛けたのだろうか? 実におかしな行動であるとしか言えないのだった。
 集合ポストに引っかかっていたものを、今から思えば触ってしまったことを、
「しまった」
 と思った。
 しかし、警察も分かっているのか、
「あとで、指紋の採取にご協力ください」
 と言いながら、
「大丈夫ですよ、疑っているわけではありません、あなたが、今手で触ったので、あなたの指紋がついていますからね」
 と言われたのだ。
 しかし、その時、ふと、前に読んだミステリー小説を思い出した。
 その話も指紋関係の話だったのだが、その話自体は、かなり昔の時代設定で、書かれたのも戦後すぐくらいであった。しかもその時代設定が、ちょうど、戦前の、しかも、大正時代から後の、いわゆる、
「東京の街全体が、焦げた臭いがまだ残ってるようだった」
 という説明があったのが、印象的であった。
 というのは、その設定というのが、ちょうど、大正時代の末期くらいだったので、その少し前に、
「未曽有の大災害」
 があったではないか。
 というのも、その時代に起こったことは、
「大日本帝国で、2度目の戒厳令が発令された時」
 だったのだ。
 つまりは、いわゆる、
「関東大震災」
 が起こった時で、ほとんどの家が焼け落ち、皆。大八車に荷物を載せ、逃げ回っている時であった。
 しかし、よく考えてみると、
「よく大八車を用意して、家財道具を積み込んで逃げることができるな?」
 ということであった。
 普通であれば、火がいつまわってくるか分からないのに、よくも逃げられるというもので、そんな状態の中、必死に逃げている人がたくさんいるのに、よくぶち当たりもせずに、走れるものだ」
 と思うのだった。
 そんな時代のことであったが、ほとんどの家が焼けて、皆避難する。もちろん、避難所になっているところにたくさんの人が逃げ込んでいて、ごった返している状態で、必死になって生きることだけを考えていただろう。
 少し落ち着いてくると、今度は親戚などを頼って、帝都や横浜などの街から、どんどん、大阪だったり、名古屋などに疎開するような形になると、帝都の人口は一気に減ってくる。
 そのうちに、復興が始まり、まだ燃え落ちなかった場所もあるので、そこに住んでいる人が街に残る形になるだろう。
 その後に起こった大東亜戦争などであれば、
「東京が火の海になったからといって、近くの都市に疎開という形を取ると、今度は数日後にそっちが大空襲に見舞われる」
 ということで、
「日本中、どこに逃げても逃げられない」
 ということであれば、一体どうすればいいというのだろう。
 大震災の時は、それでも、まだ東京に残っている人たちがいて、その人たちだけで、帝都の火をともしている形になっていた。
作品名:損得の犯罪 作家名:森本晃次