小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

自殺後の世界

INDEX|9ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 

 それだけ、命というものを考えていないというのか、確かに、生まれた後には、必死で考えて、
「このまま不幸になるのだったら、コインロッカーに」
 ということであるが、だったら、なぜ、生まれ落ちる前に始末をしなかったのか?
 ということである。
「いやいや、途中から下ろせなくなる」
 というが、
「一体いつだったら、いいというのか?」
 ということだ。
「この時期までは、いいけど、ここから先はもう下ろせない」
 というが、それは、何を基準に行っているのか?
 ひょっとすると、
「ここで下ろすと、子供が産めなくなるなどという問題が生じる」
 ということであったり、
「母体の側に問題ができる」
 ということだという、母体側の問題だったとするならば、ゆゆしき問題ではないだろうか?
 というのも、
「そもそも、そんなことをするやつには、本来なら、不妊手術を施すくらいが当たり前ではないか?」
 と思う。
 自分の勝手な快感を得たいという思いで、子供を作り、下ろそうと思えば下ろせるタイミングがあったにも関わらず、結局産んで、育てられないといって、子供を殺すのだ。
 それこそ、
「何のために産んだんだ?」
 ということになる。
 殺人に問われるのは当たり前のことであり、
「もう、二度と子供が作れない罪に処するくらいが、まずは前提条件となるのではないか?」
 と思うのだ。
「動けない子供で、しかも自分のものだから」
 などという思いを持っているとすれば、とんでもないことだ。
「もし、これが自分だったら」
 と思わないのだろうか?
 人間、ここまでくると、なかなか自分に置き換えて見ることは、決してできないことであろう。
 兄は、さすがにそこまで非情な人間だとは思っていなかったが、
「子供の自分に、どうして、そんなっ仕打ちをするんだ?」
 と思った。
「お兄ちゃんだって、私よりも年上だけど、まだ、子供なのに」
 とも思った。
 だが兄の、妹が見て、
「信じられない行為」
 というのは、その時だけだった。
 それからも、みゆきは苛められることもあったが、その時は、兄がさっと出てきてくれて助けてくれた。
 その時は、最初に言っていた、
「限界」
 という言葉を一言も言わずにいてくれたので、
「お兄ちゃん、あの時のことを、覚えていないのかしら?」
 と感じるほどだった。
「そのうちに聴いてみたい」
 と感じているうちに、みゆきも、苛め対象から外れてしまったようで、もう、苛められることもなくなったのだ。
「よかったわ」
 と思うようになって、みゆきもお兄ちゃんからいわれた言葉の、
「限界」
 という言葉を自分でも忘れてしまっているようだった。
 そのことを思い出したのが、兄が行方不明になる、数か月前だった。
 その頃になると、
「ああ、昔、そんなことも言われたわね」
 という程度で、いまさら聞いても仕方がないと思ったのだし、それ以上に、
「きっと、お兄ちゃんも忘れているわ」
 ということで、聞いたはいいが、まったく知らぬ存ぜぬで無視されるとすると、それはそれで辛いというよりも、寂しさがこみあげてくるようだった。
 それを思うと、聞くに聞けない状態で、中途半端な気持ちが、少しもやってきてしまったのだ。
 しかし、そのうちに、兄が行方不明になる。
 その時みゆきは、急に。
「あのことを聞いておけばよかった」
 と思った。
 聞いておけば、
「兄は行方不明になんかならなかったかも知れない」
 という、まったく根拠のない思いが頭を巡ったのだ。
 しかも、兄がなかなか見つからない。さらに、警察も調べてくれている様子がない。
 なぜなら、捜索願を出した後、まったく何も言ってこないではないか。
「見つからないなら見つからないで、説明に来てもいいものだ」
 と思うと、余計に不安が頭をもたげてくる。
「まさか」
 という、最悪の予感が巡ってくると、
「お兄ちゃんが帰ってこなかったら、あの聞きたかったことも聞けないじゃない」
 という思いがよぎった。
 本来なら、兄の安否を気にしなければいけないはずなのに、何を思ったのか、聞けなかったことを心配するなんて、どういうことなのか?
 みゆきは、自分の頭の構造を疑った。
「そういえば、本当に悲しい時、人間は、笑い出してしまったりするというではないだろうか?」
 と考えた。
 それを思うと。
「今、究極の悲しみを、自分の中で抱いているのではないかしら?」
 と感じた。
「お兄さんは、事故死のようですね」
 と警察にいわれた時、
「殺されたのでは?」
 と考えると、その怒りの矛先は、警察に向けられた。
「警察が真面目に探してくれていたら」
 と思うからだった。
 ボートが沈んだことにより、数人で遊びに行っていていたのだが、そのうちの、二人が死んでしまった。5人で遊びに行っていたようだが、「どうやら、二人は、ボートに乗れずに、そのまま溺れたようだというのだ。
 刑事の話として、
「かなり水を飲んでいた」
 ということだった。
 その中で、みゆきは警察に必死に訴えた。
「兄は、泳ぎは得意だったはずなので、泳げば、岸まで行けたはずだ」
 ということだった。
 だが、
「これだけ水を飲んでいるので、きっと泳ごうとしたかも知れないけど、急に溺れてしまったことで、水を飲んでしまったんじゃないかな? 呼吸困難に陥れば、いくら泳ぎが達者な人間でも、助かることはないだろうからね」
 というのだった。
 助かった人たちも、一人が入院することになった。いくら生きのこったといっても、そう簡単に助けられたという感じではないだろう。水で濡れた身体で、しばらく彷徨っていたということで、3人ともかなり衰弱していたということであった。
 二人は入院というところまではいかなかったが、しばらくの間は、事情聴取も待ってもらっていたくらいに、神経も衰弱していたようだ。
 話ができるようになってから、徐々に状況も分かってきた。
 五人は友達どうして、サークル仲間だったという。
 真夏を避けて、秋のキャンプを楽しんでいたということであるが、平日キャンプなので、そんなに人もいるわけではなかったし、ましてや、ボートに乗る人もいなかったという。
「わーい、貸し切りだ」
 とばかりに、ボートに乗り込んだ5人だったが、急にボートが転覆したのだという。
 助かった三人は、それぞれ、その時、なぜボートが沈んだのかということの理由は分からなかったようだが、それもそのはず、後で調べたところでは、ボートに異常はなかったという。
 きっと、いきなり沈んでしまったのだろう?
 皆、湖に流された。
 その湖は、
「池というには広すぎるが、湖というのには狭い」
 という。
 ただ、通称として、湖と言っているようで、
「なるほど、刑事さんのいうとおり、岸まで泳ごうとすると、少々泳ぎが達者な人でも難しいかも知れないわ。ましてや、水を飲んでいたとすると」
 と、一応、刑事の説明には、信憑性があり、
「これでは、刑事は簡単に事故として処理することくらいは、当然だろうな」
 ということであった。
 ただ、一応、三人は、警察から疑われたようだった。
作品名:自殺後の世界 作家名:森本晃次