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自殺後の世界

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 会社から、見舞いに来た人は、本部の総務部長さんということで、本部は離れているので、当然のことながら、ケガ一つしていないのだ。
「この人本当に心配して見に来ているんだろうか?」
 と感じるほど、その他人事という雰囲気が伝わってくる。
 しかし患者の方は、
「大丈夫です」
 といって微笑んでいる。
 爆発の原因はどこにあるか分からないが、ケガをした従業員がいるのに、へらへら笑っているのを見ると、腹が立ってくる。
 みゆきはなるべく腹を立てないようにしながら、
「本当に困ったものだ」
 という感覚になっているようだ。
「けがや病気は、しょうがない」
 と最初から思っているとすれば、この総務部長に対しても、複雑な気分になるのは仕方がないことではないだろうか?
「お見舞いありがとうございます」
「早くよくなってくださいね」
 という、ベタな会話に、どれだけの意味があるのか、正直分からなかったのだ。
 そんな危険な爆発事故というものも、そんなにしょっちゅう起こるものではない。普段は、平和な街なので、入院もそんなにはいないということで、ちょうどいまくらいが、ちょうどいいくらいの入院患者であった。
 みゆきの住んでいる、K市というのは、県庁所在地から、電車で約40分くらいであろうか? 十年くらい前には、このあたりを新幹線も開通したので、約15分くらいではないであった。ただ途中にもう一つ駅があり、その駅とがかなり近いので、
「新幹線も、あっという間なので、スピードが出せないのではないか?」
 と感じるほどだった。
 実際に、直線距離で平野を走っているので、晴れ上がった日は、
「向こう側の駅が見えるかも知れない」
 と思うほどだった。
 ここの都市は、人工が、40万人くらいだったか、県内で、3番目の規模を誇る都市だったのだ。
 ここは、意外と昔から芸能人やミュージシャン出身者が多く、それで知られている場合も多かったりする。ちょっと北に行くと、山脈のような山々が聳えているが、そこから、数キロ先の市内からは、大きな平野が広がっていて、この街を、
「県を代表するほどの都市」
 に仕立て上げたのは、市内を流れる大河川があればこそであろう。
 ここは、夏になると、河川敷での大花火大会も有名で、本来は、近くにある全国でも有名な神社に奉納するための花火だったというから、
「歴史ある街」
 といってもいいだろう。
 戦国時代にも、この街が戦場となることはあまりなかったが、まわりにある城では、大きな戦いもあったようだ。平野部のため、戦国時代のような山城が作れないこともあったが、そもそもこのあたりも土地は、海抜がマイナスになるくらいに、低かったりする。
 だから今では、
「異常気象による水害」
 に見舞われたりするのだが、昔は織豊時代の近代城郭が作られるようになると、
「水濠のお城」
 が多くなったことで、このあたりも、大きな城が築かれたりしたものだった。
 だが、江戸時代になって。
「一国一城令」
 などというもののせいで、せっかくの城を廃城にしなければいけなくなった。実にもったいない話であった。
 そんなK市であったが、近くには、ケミカル工場が多かった。特に、タイヤ関係では、日本でも有数の、いや、かつては世界にも名前が売れた会社の本社があったりすることもあって、
「攻城の爆発などという問題がまったく起こらない」
 ということはないだろうと思われていた。
 ただ、最近は、防犯や爆発しにくいような材料が使われるようになったことで、大きな問題は起きなくなっていた。それだけに、警察の方としては、
「これは事故というよりも、誰かがわざと爆発させた事件」
 ということではないかということで、事件と事故の両面から、捜査を行っているのであった。
 そんなことは警察が考えることであるが、みゆきは、兄のことがあったので、
「どうせ、警察なんてあてにならないわ」
 と、思っていた。
「兄だって、ちゃんと警察が捜索願いにしたがって捜査してくれていれば、死なずに済んだかも知れないのに」
 と思うと、たまらなく悔しかった。
 しかし、もっといえば、
「警察というところは、捜索願じゃ動かないよ。事件性がなければ、まず動かない。たとえば、何かの事件の重要参考人だったりというれっきとした、警察が動くだけの理由がなければ動かないよ」
 と幼馴染の新開はいうのだった。
「もし、お兄ちゃんが、遺書を残していれば?」
 と聞かれた新開は、
「微妙なところだけど、よほどその遺書に信憑性がないと動かない気がするな」
 という。
「そんな、遺書が残っているだけでも、自殺を考えている人がいるという証拠じゃない。それなのに、無視するというの?」
 と聞くと、
「そうだね、その遺書だけでは動かないかお知れないね」
 というので、みゆきは落胆なのか、怒りなのか、
「そんなバカな」
 と、いかにも本音を漏らしたのだ。
「警察というところはそういうところだよ。どんなに切羽詰まっていても、上からの命令がなければ動けない。捜査本部の決定に逆らうことは、管理官であっても許されない。そんな堅物の塊のようなところさ」
 というのだ。
「まあ、それだったら、お兄ちゃんが見殺しにされたわけも分からなくもない」
 と感じた。
「警察どころか、国や自治体が、そんな感じじゃない。どうせ皆、自分たちの保身や、利益のためなら、国民なんてどうなってもいいとしか思っていないさ」
 と新開はいう。
 今までであれば、
「そんな、国や自治体は、私たちのために動いてくれてるわよ」
 というのだろうが、兄のことがあって、
「そんなことは、茶番でしかないんだ。国や自治体を信じるのは、本当に、世間を知らない頭の中がお花畑の人だけなんだ」
 と思うようになっていた。
 それを、
「大人になった」
 であったり、
「逞しくなってきた」
 ということになるのだろうが、まさにその通りであろう。
 だから、このF県にしても、県庁所在地である、F市の市長にしても、以前流行った、
「世界的なパンデミック」
 の際に、その対応が、国レベルで、ズタボロ状態であったため、ネットではボロクソに言われていた。
 もっとも、一番ひどかったのが、国家だったので、
「さすがに、政府ほどひどいことはないだろう」
 と思ったが、
「しょせんは、政府と同じじゃないか」
 ということで、少しは希望を持っていた自分が恥ずかしかったくらいである。
「あの時のパンデミックでは、最初こそ、あれだけ国民の自由を縛って、人流抑制などと言って、感染拡大にシビアだったが、なかなか正体もつかめない。経済団体からは、経済がまわらない」
 といって、急き立てられるので、国家も別の舵を切った。
「だいぶ収まってきたので、行動制限をしない」
 と言い出して、
「表ではマスクもいらない」
 などというバカなことを言い出したのだ。
 それで経済を回すというのだから、
「ここまで政府がクズだとは思わなかった」
 といってもいいだろう。
 経済を回すとしても、それは、
「感染対策をしっかりしたうえで」
 であれば、100万歩ゆずればいいかというくらいであるが、それずらしないのだから、
作品名:自殺後の世界 作家名:森本晃次