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自殺後の世界

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 しかも、内科のように、急変する病気を持っているわけではないので、痛み出した患者や、ギブスなどで身体の自由が利かない人が、ナースコールというのが、多いくらいだろうか。
 それに、ほとんどの患者が眠っているだろう。本当に、
「深夜の見回り」
 と、ほぼ変わらなかった。
 その日も、みゆきの当番の時間では、何も異変はなかった。いつものように、20分もかからないくらいの時間で見回りを済ませ、ナースセンターに戻ってきた。
「異常ありませんでした」
 と、報告するみゆきに、同僚は、
「ご苦労様でした」
 といって、ナースセンターで、二人は、少し、自分の仕事をしていた。日勤ナースからの引継ぎの、いつもの、
「カルテの整理」
 であった。
 本当は日勤ですべてができるのだろうが、夕方のバタバタした時間の整理分は、
「残業してまでする必要はない」
 ということと、
「夜勤の時間に、眠気覚まし程度にできる」
 という点で、日勤から夜勤の引継ぎとして、だいぶ前から、恒例になっていた。
「患者をおろそかにしなければ、別に夜勤の時間、無理な仕事をする必要はない」
 というのが、ここの先生の考え方で、そういう意味では結構楽な職場だったのだろう。
 それに、職場環境も、昔と違い、
「コンプライアンス重視」
 ということも言われるようになり、
「ブラック企業の代表」
 とでもいわれるような、看護婦業界の夜勤もそこまでひどくはないようだった。
 昔は、本当に、前の朝出勤して、そのまま夜勤に突入などという病院も多かったようだが、
「今はそんなことをすれば、労働基準局が黙っていない」
 ということで、減ってきていた。
 もちろん、病院によっては、看護婦の数が慢性的に足らず、入院患者もたくさんいて、しかも、毎日のように、亡くなる人がいたり、救急患者も受け入れるような病院であれば、「それくらいのブラックは、当たり前」
 ということになるのかも知れない。
 そんなブラックというのは、病院が大きくなればなるほど、ひどいものだが、逆に個人病院のような、小さなところも、結構、労働条件は粗悪だったりするようだ。
 もちろん、病院によって、ピンキリなのだろうが、それも、院長先生の胸三寸というべきであろうか、看護婦にとっては、運がいいか悪いかの2拓であろう。
 どちらでもないこの病院は、比較的安心できる病院のようで、看護婦も気楽に仕事ができていた。
 やはり、精神的な余裕も、いくら緊張感が必要な病院といえど、必要である。
 比較的、安心できる病院ということもあり、ここの病院は、近所でも、
「安心できる」
 ということでは、有名なようだ。
 奥さんたちのウワサなどでは、病院というと、
「あそこは、やぶだ」
「あの病院は安心できない」
 などという、ネガティブなウワサは結構あるくせに、
「あの病院なら安心できる」
 というウワサは、そうは思っていても、誰もしないようであった。
 そのおかげというべきか、
「ウワサのない病院が一番安心だ」
 と思えたからだ、
 だから逆に、
「安心できる」
 などというウワサは、中途半端な感じで、まともに、信用できないという感じになるのではないだろうか?
 だから、この病院も、最初は、
「本当に安心できるのかしら?」
 と言われていたが、実際に悪いウワサが本当に流れてこなかった。
 そういうウワサを一体どこから仕入れてくるのか、一部の奥さん連中は、そのあたりのマスゴミよりも、情報を持っていたりする。
 それも、根も葉もないウワサなどでなく、実際に信憑性のあるものだったのだ。
 そのウワサのおかげで、実際に、
「やぶ医者に当たることなく、無事にいられるのだ」
 それだけに、ウワサというのは、意外にも安心できるもので、まんっざら、バカにできるものではないのだった。
 みゆきの病院はそんな中でも、レストランで言えば、三ツ星レストランというところであろうか。治療は丁寧だし、先生の腕もいい。しかも、看護婦の質もいいということで、平均的にすべてにおいて、いい点をつけられていたのだ。
 一つ苦言があるとすれば
「院長がイケメン」
 というところであった。
 院長といっても、40過ぎくらいであるが、先代から病院を受け継いですぐのことだったのだ。
 元院長は、そろそろ70歳くらいになるので、まだ引退というわけではないが、息子に後を託すには、ちょうどいいタイミングでもあったのだ。
 だから、今は、新旧二人の先生が、患者を診ていた。
 そのうちに、院長も引退することになるだろうが、それまでに、もう一人くらい、先生を募集する必要があった。だがいざとなれば、元院長の顔の広さで、インターン一人くらいは、すぐに用意してくれるという状態にはしていたのだった。
 現院長も、父親あのウワサは聞いていたが、最初は、
「そのせいで、親父と比較されるのは、嫌だな」
 と、自分がインターンの時代は思っていた。
 そういう意味で、
「早く、親父の病院に戻りたい」
 とは思っていた。
 ただ、すぐにでも院長を引き継ぎたいなどということはなかった。いずれは引き継ぐことになるのだろうが、それよりも、
「今は気楽にできればいい」
 ということで、実際に、彼は、
「気楽に生きられればいい」
 と、よく言えば、
「楽天的な天真爛漫な性格」
 と言えばいいのだろうが、悪くいえば、
「能天気なお花畑思想」
 といってもいいだろう。
 そういう意味で、
「今の院長は、つかみどころのない人だわ」
 と看護婦からも言われていて、そもそも、イケメンというのは、そういう人が多いと感じている彼女たちに、違和感はなかったのだ。
 患者の方としても、無意識にそのことを思っているのか、能天気なところよりも、イケメンなところにばかり目がいき、
「何かあったら、他のやぶ医者にいくよりも、このイケメン先生に診てもらった方がいいんじゃないか?」
 ということで、皆、この病院にやってくるのだった。
 そんな、この病院であったが、さすがに、外科で、そんなに入院患者が絶えずいるというわけでもない。
 特に、最近では、どこの病衣も、
「なるべく入院期間を減らす」
 というのがモットーになっているようで、
「病院が悪戯に入院させて、儲けているようだ」
 という世間のウワサに敏感に反応したからであろう。
 だから、この病院でも、そんなに入院が長い人もいない。
 さすがに、どこか近くで数人を巻き込む大事故があったりして、救急車で運ばれなかった人がこっちにまわってきたことがあったが、その時には、脚の骨が折れているということで、入院を余儀なくされた人がいた。
「一応、大事故だったので、後から何か容体が急変してもまずい」
 ということで、
「念のため入院」
 という人もいたりした。
 そんな人は、平均で、
「2週間くらいの入院であろうか?」
 というのが、基本的に足の骨が折れているので、松葉づえだけではきついという人を、簡単に放り出すわけにはいかないということであろう。
作品名:自殺後の世界 作家名:森本晃次