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自殺後の世界

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「非常口の明かりがつくということは、予備電源が作動しているということではないだろうか?」
 と考えると、勘がられることとしては、この部屋だけ、予備電源が作動していないということになる。
 何と言っても、
「予備電源が作動しないということは、この時間であれば、人工呼吸器や、生命維持装置に繋がっているような人はどうなるのか?」
 ということであった。
 この病院は、確かに、外科ということもあり、不治の病のような人はほとんどいないのだが、一人だけ、今も生命維持装置で生きながらえている人がいた。
 本当は大きな病院に入るのは普通なのだろうが、どうも、本人が望んでいることのようで、この病院で、生きながらえている。
 すでに、
「家族も本人も覚悟の上だ。これが最後の親父の望みだから」
 という息子さんの、父親もそれを望んでいるということでの話とすれば、病院側もむげにはできないというものだ。
 昔から、何かあれば、この病院で治療してもらい、いざとなった時は、自宅か、この病院ということだったので、しかも、できるだけの延命ということになると、
「病院の方がいい」
 ということだったのだ。
 できるだけの延命といっても、それは、本人の意識がある間の、
「生きる努力」
 ということで、それ以上ひどくなったり、昏睡状態になれば、無理な延命は行わないということだったのだ。
 だからと言って、停電などで生命維持装置が働かないというのは、論外であり、
「本人にも家族にも、まったくいいところはなくて、死んでも死にきれないのではないだろうか?」
 ということであった。
 だから、息子たちも先生に委ねてはいるが、それなりの覚悟はしている。ただ、それだけに不慮の事故というのは、想定外ということで、あまり考えられることではないということだろう。
                 大団円

 ナイフがなぜ、そのベッドの上にあったのか? それは、後で聞いた話だが、ここに入院していた高持という男が、
「かつて、人を殺したことがある」
 といっていたのを、思い出したのだった。
 どういう内容だったのか分からないが、ナイフを突き立てるような真似をして脅かしたという、たちの悪い冷やかしをする患者で、看護婦からも嫌われていたのだという。
 ただ、高持を見ていると、兄を思い出すようなところがあった。どこかが似ていたということであろうか、そんな高持が自殺をしたという話が伝わってきたのは、それから、数日が経ってのことだった。
「あの人、私にだけは、何でも話してくれたのよ」
 と話す看護婦がいたが、その話をよく聞くと、どうやら、今までにも何度も自殺を試みたことがあったというのだ。
「どうして、そんなに自殺を繰り返すのか聞いたことがあったんだけど、自分でも、分からないというの、気付けば自殺をしようとしていて、いつも寸でのところで我に返って、自分でも、怖くなると言っていたわ。でも、この話を誰にもしたことがなかったんだけど、君だけにするんだよ」
 と彼女に言ったようだ。
 警察の調べでも、彼が自殺の常習犯だったことは間違いないようで、何度か救急搬送されたことがあったという。今回の入院は別の事情だったのだが、今までの救急搬送された病院と違い、看護婦も優しかったので、ついつい看護婦に甘えたのだろうということだった。
 実際に彼女がいうには、
「彼は今まで彼女がいたこともなくて、自分が、初めての女だった」
 ということであった。
「彼にとって、私は、今まで見えなかったものが見えたというの、今まで見ていたものが別のものだったような気がする、だけど、そんな中でいつも私は見えないけどそばにいて、ただ光を発していないだけだったんじゃないかって思うと言っていたわ。私が、光を発しない星のようねというと、そうだって言っていたわ」
 という彼女の話を聴いて、さらに、昔聞いた、
「光を発しない星」
 の概念を思い出した。
 しかし、昔聞いた話とは若干違っていたが、理屈は似ている。この微妙な感覚の違いというものが、
「この人を、自殺に追い込むのかも知れない」
 と思うのだったが、彼女はもう一つ、言ったのだ。
「これは、彼と私の共通の気持ちなんだけど、自殺するのに、理由なんて関係ないと思うの、あくまでもm何かの細菌に犯されてしまって、その菌が悪戯することで、自殺を試みてしまう、だから、自殺を繰り返す人は繰り返すんだっていう思いね、私は半信半疑だったけど、彼が本当に自殺したと聞いて、その瞬間に確信したわ。やっぱり、あの話は本当のことなんだってね」
 と、彼女はいう。
 そう、まさしく
「自殺菌」
 という考えではないか。
 みゆきも、その思いを実は密かに持っていた。この話をしていたのは、実は兄だったのだ。
「兄のいうことだから」
 ということで、無視はできなかったが、俄かに信じられる話でもないので、何とか信じようとしたけどできなかった。でも、結局死んだことで、
「あれは自殺だったんだ?」
 と思った。
 そう思うと、行方不明になった理屈も分からなくなく、兄の話を確信したという意味では彼女の話も理解できる気がした。
 みゆきは、最近、気分的に鬱の状態に陥りかけていた。今までにこんなことはなかったのだが、幼馴染の新開のことをよく思い出すようになっていた。
「逢いたいんだけど、会っちゃいけないんだろうな」
 と感じたのは、
「何かの覚悟が弱まるせい」
 なのではないかと思うのだった。
 みゆきは、今、新開が何を感じているのか分かっている気がした。
「そう、私のことを心配してくれているんだわ、あの人昔からそうだった」
 と思うと、彼の考え方も大いに分かる。
 しかし、お互いに気の遣い合いをしていることで、疲れるという反面があった。特に今のような鬱状態では、
「誰にも会いたくない」
 と感じることが、一番きついのだが、自分の本当の性格に近づいている気がしてきた。
 最近では、
「親ガチャ」
 などと言われることがある。
「生まれてくる親を選べない」
 ということであるが、
「死ぬことも選んではいけない」
 ということになると、自由というのは、本当にどこにあるというのだろうか?
 そのことを、気付いた人間が、自殺菌に狙われるのかも知れない。それが高持だったとすれば、何度も自殺を繰り返したのも分からなくもない。今までは未練ではないただの恐怖があったことで、死にきれなかったのだろうが、今回は、
「天使のような看護婦」
 に出会ったことで、思い切ることができたのだろう。
 彼が今度生まれ変わることができるとすれば、
「親ガチャ」
 のない世界であればいいと思ってのことだろう。
 今の宗教などでは、
「自殺は自分を殺す殺人と同じことだ」
 ということで、罪悪の一種と言われているが、それはあくまでも宗教的な発想、ひょっとすると、自殺することで、今の、
「負のスパイラル」
 とでもいうような、
「親ガチャ」
 に代表される悪夢のような今の世界での転生から、別のパラレルワールドのような世界に転生し、そこでは、不公平のない、決して、
「親ガチャなどではない」
 という世界に生まれ変わるのではないだろうか?
作品名:自殺後の世界 作家名:森本晃次