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自殺後の世界

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「違いなんて、正直ないんだ。違いなんてあると思えばあるし、ないと思えばないというだけのことなのさ。僕はそれが言いたかったんだけど、それがさらにどういうことなのかというと、耽美主義というのは、悪魔という言葉をタイトルに書いているわけえはないだろう? だから、その本が耽美主義なのかどうかということは、読み終わらなければ分からない。でも、違いというのは、本当はそこじゃないんだ。これが入り口であり、もっといえば、宣言していないということは、すべての小説が耽美主義なのではないか? と思えば思えるのではないかということなんだよ」
 という。
「えっ? 言っている意味が分からない」
 というと、
「まぁ、そりゃそうだろうね。悪魔というのは、最初に悪魔というのをタイトルで分かるだろう? だから、悪魔を探そうとする。だけど、耽美主義というのは、もし、最初からあらすじのところで、これが耽美主義の小説ですなどと言って書かれていたとしても、耽美主義という言葉の意味が分かっていなければ、分からない。もし、意味を知っている人が読んでも、最初に耽美主義の小説だと宣言されて、実際に、はい、そうですかって読むと思うかい?」
 という。
 それでも、まだ、分かりかねて考えていると、
「だって、もし、小説の内容を、ネタバレの部分まで、あらすじに書いていたとして、それを最初から、ネタバレだって思ってみるかい? そんなことはないよね? 読み終わって、初めて、あれがトリックだったんだということが分かって、どう思うかだよね? やられた、作家のトリップに引っかかったと思って、分からなかった自分の愚かさを感じるか、それとも、作家が明らかなルール違反をしたとして、怒りをあらわにして、もうこんな作家の作品は読むまいかと思うだろうね。つまり両極端であり、諸刃の剣なのだよ。どんなにいいものでも、やり方によって、どう見られるか? それを考えると、恐ろしいけど、冒険をする作家もいるかも知れない。その感覚を、作家が、自分の追及する作品であり、それを耽美主義的な考えだと思ったとすると、これは、作家にとっての、一世一代の冒険というべきか、賭けのようなものなのかも知れない」
 というのだった。
 それでも、まだよくわからなかったが、兄がその後も少し説明をしてくれたが、一つの言葉だけが、印象に残っていたのである。
 その言葉というのが、
「宣言していないから分からないだけで、逆にいえば、耽美主義というのは、誰が見ても最終的に、すべてが耽美主義だということなんじゃないかな?」
 と言えるのではないだろうか?
 そんな話を思い出していると、急に、今度は、目の前で光っているナイフをじっと見ていたはずなのに、そのナイフが急に消えてなくなった気がした。
「あれ?」
 と言葉を発したようなのだが、声になっている感じがしなかった。まったく何も見えなくなったことに気づくと、
「ああ、ナイフが見えないのはそういうことか?」
 と納得した瞬間、急に背筋が寒くなってくるのを感じたのだ。
 背筋が寒くなったというのは、何かに怯えているか、不安を感じている時に相違ないと思ったのだ。
 その不安は、恐怖になり、怯えになってくるのに、最初から怯えの時があると思うと、その怯えは、
「恐怖ではない怯え」
 なのであないかと思ったのだ。
「恐怖とは違う怯えがあるのだとすれば、それは、どこから来るものなのかということを考えると、何か、循環するものがあるのではないか?」
 と感じるのだった。
 これも、兄が話をしていた、兄独自の考え方で、
「さっきから、兄のことばかりを思い出しているけど、それだけ、夢が深いということなのかしら?」
 と、あくまでも、自分が夢の中にいるのだということを、考えないわけにはいかないようだった。
「真っ暗な世界を歩いていると、急に足元の扉が開いて、奈落の底に叩き落される恐怖を感じるという夢を何度か見たことがある」
 と兄は言っていた。
「どういうことなの?」
 そういって、思わず足元を見てしまう。
 見た足元は、想像しているよりも、かなり向こうに地面があるようで、模様のある床などであったら、まるで
「騙し絵」
 を見ているような錯覚に陥り、身体の安定が保てなくなってくるように、感じるのだった。
「真っ暗なところを歩いている恐怖を感じたことがないのであれば、じゃあ、吊り橋の上にいて、風が無性に吹いてくるので、進むにも戻るにも、どっちもできなくて、どうすればいいかということを考えたことはなかったかい?」
 と言われたので、
「ああ、それならある気がする」
 というと、
「じゃあ、みゆきは、どっちにいく? 前に進むか、後ろに下がるか」
 と聞かれ、その場面を想像してみた。
 前も後ろも同じ距離、しかし、後ろを振り向くのも怖いので、首だけを回すと、とてつもなく遠くに感じられる。しかし、それは、
「一度後ろを向くと、二度と前を向けない気がするので、後ろを向けないことから、距離を錯覚したまま考えようとする」
 ということであったが、そこで、自分が我に返ったのを思い出した。
「後ろに戻るかしらね」
 というと、兄は、
「どうしてだい?」
 と聞いてくる。
 すると、
「だって、前に進んでも、結局、また同じ道を戻らなければならないところだったら、最初からいかないという選択肢しかないでしょう?」
 というと、兄は腕組みをしながら、
「なるほど、さすがに冷静な考え方だ。お兄ちゃんも同じことを考えるのさ。この考えを持っていれば、余計なことを考えることはない。つまりは、危険なことであっても、最小限にすることができるということになるからね」
 というのであった。
 それを思うと、
「冷静に考えるということは、褒められていると思っていいのかしら?」
 と、みゆきは感じたのだ。
 ただ、今はそんな昔のことを悠長に思い出している場合ではなかった。ナイフがなぜ見えなくなったのかということを冷静に考えなければいけない。それを考えなかったのは、その理由が分かっていて、それを自分で納得させないだけの何かを感じたからなのかも知れない。
 まず、真っ暗な状況ということは、普通に考えれば、
「停電した」
 ということである。
 しかし、ここは病院なので、少々何か、台風や、近くの電線が誤って切れたりした場合は、
「予備電源が作動する」
 ということくらいは、常識として分かっている。だから、そこまでは気にしないのだが、今回は、少し時間が長いような気がする。実際に、芽が慣れてきて、真っ暗でも、少々なら見えるようになったということは、思ったよりも、時間が経っているということだ。
 となると、
「もういい加減に電源がつかないわけにはいかない」
 と思うだろう。
 しかし、明かりがつくという気配はないではないか。それを思うと、のんびりもしてはいられない。
 だが、表から、そんなに慌てふためく声も、小走りに走っているような音も聞こえてこない。相変わらずの静かな夜であった。
 目が慣れてくると、表の明かりが見えるが、それは、どうやら、非常口の明かりのようだ。
 だが、
作品名:自殺後の世界 作家名:森本晃次