小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

自殺後の世界

INDEX|15ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 

 ということを考えると、それは、効果音と、光による演出ではないだろうか。
 刃が重なった時に飛び散る火花であったり、鮮血が、襖や障子に飛び散る時など、さらには、倒れこみながら、障子を爪でひっかくようにして倒れる時など、その迫力が最大限に表現される。
 だが、どうしても、
「これがウソだ」
 と感じる時がある。
 それが、
「夢を見ているのではないか?」
 と感じ時であった。
 というのも、どういう時なのかというと、
 怖いものを見ている時というのは得てして、まず最初に、
「これは夢なんだ」
 と自分に言い聞かせようとするではないか。
 つまり、
「夢だと自分に思わせたいと感じる時ほど、自分が一番怖がっているという時ではないだろうか?」
 ということであった。
 夢というものを感じる時、普通は、リアルさを求めるのに、そのリアルさが浮かんでこない時こそ、
「これは夢だったんだ」
 と思う。
 どんなに怖い夢を見た時でも、それが夢だと分かって、
「ああ、夢でよかった」
 と感じるだろうか。
 それよりも、
「ああ、やっぱり夢だったんだ」
 ということで、間違いがないことを確認できただけで、ホッとするのではないだろうか?
 つまり、夢であることに安心する方が、夢でなかったことがよかったというよりも強いからだ。
「どっちも同じでは?」
 と思うかも知れないが、同じことをしているようでも、向いている方向が違えば、まったく違うものになってしまうことだろう。
 それを思うと、
「夢というものを、リアルに感じるということは、夢でよかったという感覚を感じた時と、いかに違うことなのであろうか?」
 それを考えると、
「夢というものは、感じることができないというもので、見えていたり、痛かったり、臭かったりなど、普段と変わりはないと思っているはずなのに、感じることができないのかというと、本当に夢ではない世界でも、本当に五感というものを自分で感じることができているものなのだろうか?」
 と感じさせるものではないだろうか?
 夢ということで、すべての言い訳をするための、何かをでっち上げるにふさわしいものが、夢以外にはないからではないか?
 と感じるのだった。
 その最近見た夢に、
「もう一人の自分」
 が出てきて、誰か知らない人に寄り添っているようだ。
「誰なの?」
 と、声を掛けたが聞こえないようだった。
 その人に見覚えはあるのだが、シルエットになっていて、誰だか分かりそうな雰囲気は、喉の奥まで出てきていて、少なくとも、嫌いな人ではないことはよくわかった。だからこそ、苛立ちを覚えるのだった。
「これが嫉妬というのかしら?」
 と、今までみゆきは、嫉妬というものをしたことがなかった。
 男とつき合ったことはあったが、次第に気持ちが萎えていく。最初は百点だった相手が、気が付けば、赤点になっていて、そこまでくると、男性と付き合っている理由は、
「自分にとって、利点となるかどうか」
 ということなので、赤点の時点で、利点を考える以前となったのだ。
 つまり、
「好き嫌いはもちろん、肉体的にも満足もできない。そもそも、肉体の満足は、安心感がなくては成り立たないと思っていたので、精神面で自分の中で、少しは譲歩しているつもりでも、さらに、価値観が減ってしまうと、そこから上がってくることなどない」
 ということになる。
 そのうちに、男性に対して、嫌悪感しか残らなかったのだが、それでも決定的な、嫌悪にならなかったのは、自分のまわりにいた二人の男性のおかげだった。
 一人はいうまでもない、兄だった。
「兄にかなう人は誰もいない」
 と思ったのだが、そこは、どうしても血を分けた兄妹ということで、兄に対しての思いは特別の唯一無二だといってもいいだろう。
 だが、それは、
「異性に対しての思い」
 とは少し違うものがあった。
「どんなに好きになっても、兄妹で、愛し合うことはできない」
 という、モラルという意味での貞操観念は、みゆきのような女であれば、余計に強いことだろう。
 まるで、聖書の中の、
「モーゼの十戒」
 のようなものだ。
 だから、兄に対しての感情をなるべく誰にも言わないように、悟られないようにしていたのだが、そのことを看破する男が現れた。
 それが、幼馴染の新開だった。
 新開のことを、みゆきは、嫌な印象を持ったことがない。
 それに、
「彼氏にするなら、新開君がいいな」
 と、子供の頃から思っていた。
 それは、まだ異性に興味を持つ、思春期よりも前だったことで、必要以上に意識はしていない。
 ただ、最近は、新開のことを思い出すこともなかった。彼は大学に進学し、そこで彼女もできたりして、普通の大学生活を謳歌しているようだった。
 彼の方からも、何となく疎遠になり、みゆきの方も遠慮することで、二人の接点はなかなかなかったのだ。
 ただ、気を遣っているのは、彼の方であって、
「忙しくしているみゆきに、俺のような遊んでいるようなやつが近くにいたら、集中できないよな」
 と感じたのだろう。
 卒業後は、地元企業に就職し、営業をしているという。
 中学の同窓会で、2年前に久しぶりに会ったが、まったく変わっていなかった。
「新開君、久しぶり。まったく変わっていないわね」
 というと、
「お前だって変わっていないじゃないか」
 といつもの笑顔を投げてくれる。
「お前」
 という言い方も懐かしく、思わず嬉しくなってしまったのだった。
 その頃から、お互いに遠慮が目立つようになった。その感覚を、
「お互いに好きあっているからなのかしら?」
 と感じるようになったが、その思いがあるからなのか、
「今度は却って、恋愛感情を持ってはいけないのではないか?」
 と感じるようになったのだ。
 そのおかげで、
「これ以上近づいてはいけない」
 という微妙な距離が分かったような気がする。
 それなのに、高校時代、
「新開に彼女ができた」
 という話をウワサで聞いた時、顔が真っ赤になり、感情を抑えきれなかった自分を感じた。
 まわりの人に悟られたくないという思いと、
「私の気持ちを分かってほしい」
 という不可思議な気持ちが重なってか、何も言えなくなったのだ。
 そんな思いを今さら思い出すと、夢の中で、もう一人の自分と一緒にいる人が、亡くなった兄か、それとも、新開なのか、二択であることは分かったのだ。
 だが、それを感じると、ツーンという汗の臭いを感じるようになった。何とも隠微な臭いで、それは、身体を重ねた時の男の臭いだった。
 最近、男に抱かれたことがないみゆきが思い出したのは、誰だったのか、
「いや、そもそも、夢の中で、臭いなど感じるはずないのに」
 と思うと、我に返ったかのように、一瞬にして夢から覚めた。
「いい悪いに関係なく、夢というのは、ちょうどのところで覚めてしまうものだ」
 と感じたが、まさしくその通りだった。
 もう、この夢を二度と見ることはできないだろうから、結局自分と一緒にいた男が誰だったのか、永遠に分からなくなってしまったのだ。
「誰だったのか、きっと、しばらくの間、事あるごとに気になるんだろうな?」
 と感じるのだった。
作品名:自殺後の世界 作家名:森本晃次