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減算法の都合

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「就業規則にも、会社の命令で、転属、転勤など、正当な理由がなければ、拒むことはできない」
 と普通の会社には記されている。
 その正当な理由というのも、かなり厳しいものだったりする。
「子供の学校」
 などというのは、ある意味理由にはならない。
 なぜなら、
「単身赴任をすればいいではないか?」
 ということになる。
 また、
「家族に障害者がいる」
 ということであったとしても、それは、
「介護を雇えばいい」
 などという理由を当てはめられ、その時の事情でも違ってくるが、
「転勤を断ったから解雇された」
 ということを理由に会社を訴えても、棄却されるということも、普通にあるのだった。
 そういう意味とは別に、もう一つは、
「人間の考え方が変わってきた」
 ということだ。
「旦那の家族と同居したくない」
 という人も増えている。
 もっといえば、最近は、結婚しない男女が増えてもいる。その中には、旦那や奥さんの家族と、義理の関係とはいえ、家族になるということに抵抗を覚えている人が、少なくないということであろう。
 昔のように、
「結婚適齢期」
 というものがあり、その時に結婚しなければならないなどというのは、まるで、
「都市伝説ではないか?」
 と言われるようになるまでになっているのではないだろうか?
 今がどんな時代なのか、考えれば、核家族になるのも、無理もないことだといえるのではないだろうか?
 そんな中で、本当に結婚しなくなったということが、ある意味、一番大きな問題なのかも知れない。
 確かに、
「結婚しても、どうせ離婚するんだから」
 という離婚率の高さを考え、一緒にいることの意味を見出せないのではないかと思うのだ。
 しかも、離婚した人の話などを聞くと、納得する自分がいて、
「なるほど、そんな思いをするなら、結婚などしたくない」
 と、京極も思っていた。
 というのは、京極は、最近の男の中では、若い頃から、
「肉食系男子」
 であった。
 実際には、女性を意識し始めた思春期になるのが遅かった。中学を卒業するまでは、思春期というものになっていなかったのだ。
 ただ、
「本当はあったのかも知れないが、自分で意識をしていなかったのかも知れない」
 と思っていた。
 身体の異変のようなものはあったのだろうが、それでも、他の連中に比べれば遅く。精神的には、思春期という意識はまったくなかった。
 自慰行為もしたことがなく、ムズムズという感覚もなかったのだ。正直、中学卒業までは、
「身も心も少年」
 だったのだ。
 それはまわりも分かっていたかも知れない。皆は、彼のことを、渾名で、
「坊っちゃん」
 と呼んでいた。
 親しみを込めてなのか、それとも皮肉からなのか分からなかったが、今の中学生の中には、平気でむごいことをいう人間も結構いるということであるので、これを、
「皮肉がこもっている」
 と、京極は思っていた。
「どうして皆分かったんだろう?」
 と思ったが、
「見ていて分かるものなのか?」
 と感じていたが、実際に自分がそうなって、
「ああ、これだったら分かるわ」
 と思ったのは、中学卒業と同時くらいに、声変わりを迎えたからだった。
 声変わりというのは、前から意識していたことだったが、一定期間意識していても、それが実現しないと、無意識のうちに、忘れていくものであった。
「中学生になると、声変わりをして、それを合図くらいに、思春期に入る」
 とタイミングは人によって違うが、声変わりが、思春期のイベントであることくらいは知っていたのだ。
 だから、最初は意識していたが、1年以上のその兆候もなかったので、途中から意識すらしなくなったのだった。
 だから、中学卒業とほぼ同時くらいに襲ってきた声変わり、最初は、
「風邪でも引いたかな?」
 と考えたほどだった。
 だが、そのうちに、
「これが声変わりなんだ」
 と気づくと、今度は、精神的に思春期に迎える感情が襲ってくるのだった。
 その時に、
「異性への感情」
 が、芽生えてきて、下半身がムズムズする。
 自慰行為も、人から教えられたわけでもないのに、自分なりの方法で、
「どうすれば、気持ちいいか?」
 ということを考えるようになる。
 そんな自分を顧みると、
「これが、野生の本能なんだな」
 と、いまさらながら、自分という人間が、
「野生動物と変わらないのではないか?」
 と、いまさらながらに感じるのだった。
 急に、
「大人の世界を覗いてしまった」
 と感じた。
 もし、これが他の連中と同じように、中学時代に襲ってきたことであったら、もっと違った思いになったかも知れない。
 本人としては、もっと必死に、皆に追いつきたいと思うのかも知れないが、もう皆はすでにゴールテープを切っていて、やっと自分がスタートするということで、焦りのようなものもあったことだろう。
 特に、
「異性への感情」
 には強いものがあった。
 実際にまわりでは、すでに、
「もう童貞ではない」
 という連中が結構いたりした。
 しかし、皆、童貞はすぐに捨てるという感じだが、彼女がいて、付き合っているという感覚ではない。一人の友達に聴いてみると、
「ああ、俺はもう童貞ではないよ。先輩が女をあてがってくれたんだけど、初体験をした時は、ああ、こんな感じなのかなって思っただけだったな。だけど、そのお姉さんが、とにかく眩しくて、他の同級生の女の子が、しょんべん臭いガキにしか見えなくて、やる気になれないんだよな」
 といっていたのだ。
 まだ童貞の京極には、その気持ちはよくわからなかった。だが、そんな京極にも、先輩が女性をあてがってくれて、そのお姉さんのおかげで、
「無事に童貞卒業」
 ができたのだった。
 最初は、確かに友達のいうように、
「ああ、こんなものなんだ」
 と、正直、落胆のようなものがあったのも事実だったが、またすぐにやりたくなってきた。
 友達の話とは少し違ったのだ。
 ちょうど、その頃彼女ができて、会うたびにセックスをしていた。
「まるで相手の身体をむさぼるように」
 というのが、本当のところだろうが、だからと言って、むやみやたらに自分の欲望をぶつけるようなことはなかった。
 むしろ、相手の女の子を、
「腫れ物に触る」
 というような、可愛がり方をしたものだ。
 だからと言って、相手のことを思ってというわけではない。
「触るか触らないかのような微妙なタッチの方が、より女性の反応が激しいということが分かったからだ」
 ということであった。
 自分の欲望に任せて相手に強引な態度を取ると、相手は痛がるだけで、こちらが想像しているような、艶めかしさを、表してくれるわけではない。
 男の方も、女のそういう態度に興奮するのだ。それが分かっていないと、絶対に後悔することになるに違いない。
 それを思いながら、女性を愛でていると、相手もこちらに身を任せようとしてくれる。「それが、安心感というものなのだろう」
 と思うと、
「女性は、安心感を持っていないと、あからさまに感じてはくれない」
 ということを、いまさらながらに感じた気がした。
作品名:減算法の都合 作家名:森本晃次