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輪廻転生のバランス(考)

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 といっても、それはあくまでも仕事で遅くなるのであって。同じ道を帰っている時であっても、仕事と遊びでは、まったくちがった趣があるのだった。
 その日は、本来なら、
「まだ、10時」
 という意識なのだが、意識としては、
「最終電車で帰ってきたかのような感覚だ」
 と感じるのだった。
 仕事で遅くなる分には、遅くなるだけ、
「一生懸命に仕事をした」
 という充実感があるが、これが遊びとなると、
「普段は、遊びに出ても、夕方には帰っていたのに、こんなに遅くなるなんて」
 と、何か後ろめたさのようなものがあった。
 やはり、仕事の充実感を感じるはずの時間に、遊びで、しかも、充実感どころか、後ろめたさがある分、楽しくも何ともない感覚に、同じ時間の同じ道であるだけに、余計に、違和感が付きまとうのであった。
 そんな中において、何の前触れもなく。
「いや、湿気だけは、前の時と同じだったかな?」
 と感じたところで、そのとたん、不安が頭をよぎったのだ。
「そもそも、この不安って、どこからくるのだろうか?」
 とも感じたのだ。
 その不安によって、歩いている自分が、歩いているという感覚を感じていないことを悟った気がした。
 まるで、
「雲の上を歩いている」
 いや、
「雲の上を歩かされている」
 という、そこには、自分の意思が感じられなかったのだ。
 そんなことを考えていると、急に眩しさを感じ、その場に立ちすくんだ。目をカッと見開き、その流れからか、鼻でだと思うのだが、息を呑んだという感覚になった。
「一気に吸い込んで、その場で止める」
 という、まるで、
「健康診断での、レントゲン撮影の時」
 のようだったのだ。
「レントゲン撮影を思い出すなんて」
 と思った瞬間、またしても、デジャブを感じた。
 腕には、点滴の針が突き刺さっていて、簡易ベッドに寝かされた自分は、身動きもできず、ただ寝ているだけだった。
 幼少期の記憶がよみがえってくるのだが、明らかにあの時よりも、恐怖を感じる。
 幼児の頃が、
「怖いもの知らずだった」
 ということなのだろうが、それよりも、
「今の方が、いろいろ経験し、状況が読めるようになったことで、このような状況に陥った時が、恐怖の原点のように思える」
 と感じるようになったのだろう。
 そういう意味で、
「大人の方が、感じる恐怖はリアルであり、ガチなのかも知れないな」
 と感じるようになっていた。
 田所は、点滴を打たれている自分の状況に不安を感じながら、身動き取れないことで、天井の明かりを見つめているしかなかったのだ。
 ただ、鮮明に覚えているのは、最後に意気を吸い込んだ時に嗅いだものだと思われる、
「あの生暖かさ恒例」
 といってもいい、
「血の臭い」
 を感じたことだった。
 しかも、それが、子供の頃の城で後ろに落ちていった時の記憶をフラッシュバックさせるのだ。
 ただ、いつもの自分であれば、子供の頃の、
「木造の、急階段」
 を、思い出してしかるべきなのだろうが、今は、その感覚を思い出せるわけではなかった。
「おかしいな。いつもだったら、臭いを思い出したのだから、あの階段の光景も一緒に浮かんでくるはずなのにな」
 と感じるのだった。
 そんな恐ろしさを伴っている記憶がよみがえることで、恐怖を煽るはずなのに、今回は記憶がないのに、恐怖が煽られる。
 だから、どうすることもできない自分の感覚に、ただ、天井をぼんやり見つめることしかできないことが、却って、もどかしさと、恐怖の代わりに、
「言い知れぬ不安」
 のようなものが渦巻いているのだった。
「恐怖はさほどでもないが、不安だけが、どんどん募られる」
 この感覚は、リアルな痛みが身体に襲い掛かっているからではないだろうか?
 子供の頃も確かに、リアルな痛みはあったはずだが、今回は、
「本当は襲ってきたはずの恐怖を、身体の痛みが吸収してくれた」
 という不可思議な感覚に陥らせたことで、感覚の方に残るはずの恐怖が残ることなく、一緒に残っているはずの不安だけが自分の中で鮮明に意識されたのであろう・
 その、
「恐怖と不安が一緒に襲ってくる」
 という感覚は、子供の頃に感じたものと、大人では、若干違うものだろうと、自分で勝手に想像していた。
 それが、今回味わう機会があったにも関わらず、味わうことができなかったのを、
「本当によかった。命があって」
 と思えばいいのか、それとも、
「命があっても、味わえるはずだから、残念だったと思うのか?」
 という両極端なことを考えていた。
 それぞれにバランスが取れた考えなのかどうなのか、難しいところであるが、やはり、
「命あってのものだね」
 ということなので、
「あまり奇抜なことは考えない方がいい」
 ということであろう。
 病院のベッドで仰向けになって、天井を見ていると、
「落っこちてこないか?」
 と思うのは、今までもそうだったように、お約束の感覚であった。
「何度、天井が落ちてくるという、衝動に駆られたか?」
 それを思うと、
「ゆっくりベッドで寝ているのも、恐怖を煽る原因の一つなんだな」
 と感じた。
「恐怖を感じないのは、それだけ、本当に意識を失っていたからなのかも知れないな」
 と思い、何気なく、過去のことを思い出そうとしてみた。
 すると、
「あれ?」
 と感じたのだが、その感じた理由というのが、
「おかしい、過去のことを思い出そうとすればするほど、思い出した瞬間、空気が抜けるように、思い出したはずのことが消えていく」
 と思った。
 しかし、実際によく考えてみると、
「思い出したことは、消えるわけではないのだが、その近くの記憶が消えていくのだ」
 と思ったのだ、
 それを先生に話すと、
「ああ、なるほど、君は思い出そうとして、違う記憶を思い出しているのかも知れないな。だから、その記憶を思い出した瞬間。今まであった他の記憶がウソだと自分で認識し、それを忘れてしまうということが、稀にだがあるんだ」
 と医者は言った。
「これは、まだ学説としても、信憑性がないということで、発表もされていない理論だが、これが証明されれば、学術界で大きな話題となり、大変な発見ということで、クローズアップされることになるだろうな」
 ということであった。
 それを聴いた田所は、その話を、
「半分、聴いて、半分は、鵜呑みにできない」
 と思った。
 そう思うことは、自分の意識を、どこまで信じていいのか分からないという証拠であり、やはり、それだけ意識を失っていた時間が長かったのか、それとも、遠い世界だったということなのか、実際には、まだこっちの世界に戻ってこれているわけではないということなのだろう。
「病院のベッドというのは、どうしてこんなに硬いんだろう?」
 と、すぐに腰やお尻に痛みが走るのを感じた。
 痛みというか、だるさといえばいいのか、じっとしていることで、身体が固まってくるという感覚だった。
 その痛みが、意識が戻ってくるとともに、増してくるのは、それだけ、意識が戻ってきているという証拠なのだろう。
 だが、実際にはそうではないというのは、やはり、気を失っている間、