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怪しい色彩

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 といっても、いい意味での楽天家ではなく、
「楽な方に流れようとする意識が働いている」
 というだけのことだった。
 だから、この男は、最初から警備に無頓着だったのだ。
「どうせ、このビルは烏合の衆で固まっていて、団結などないわけだから、いまさら攣るんだってしょうがない」
 と思うだけだった。
 そんな彼が考えていたことは、
「なるようになる」
 ということと、
「なるようにしかならない」
 ということであり、どちらにしても、
「今慌てたとしても、どうしようもない」
 ということであった。
 だから、日課ともいうべき、店の換気と、掃除くらいをしておいて、
「いつ、宣言が解除になっても、店ができるようにしておけばいいだけだ」
 と思っていたのだ。
 だが、彼の考えは、実は一番的を得ていたのかも知れない。
「今できるだけのことをしていく」
 という意味では、
「100点満点だ」
 といってもいいだろう。
 そんな店を独自のマイペースで見に来たその時、薄暗い通路に何かが横たわっていた。普段から誰もいないので、党是通路に電気がついているわけではない。自動で電気がつくような仕掛けにはなっておらず、自分で電気を入れないと薄暗いままだ。
 彼は、いちいち通路に電気をつけるようなことをせずに、店までいくつもりだったので、そこに横たわっているものを見て、とっさに、
「誰かが倒れている」
 と感じたのだ。
 その思いは間違っておらず、近づいてみると、確かにそれは人間だった。
「うわっ」
 と驚いて、とっさに電気をつけにいくと、うつ伏せに倒れている男は、完全に死んでいるのが分かった。
 見開いたその目は虚空を見つめ、瞬きもしていない。倒れた胸のところから真っ赤なものが流れているようで、すでに、固まりかかっているようだった。
 乾いた空気の中に鉄分を含んだ気持ち悪い臭いに、吐き気をもよおしそうになり、急いで、警察に連絡を入れたのだった。
 これが、この事件の警察への第一報だったのだ。

                 万引き犯

 その死体が発見される3カ月くらい前の頃だっただろうか。事件現場とさほど離れていないところにあるスーパーで、一人の万引きが捕まった。
 その人は、主婦のようで、店の店員もスタッフもよく見知った顔で、
「いつも、買い物にきてくれる奥さんじゃないか」
 ということで、皆ビックリしていた。
 買い物かごに入れたものを、レジを通さずに表に出たということで、実に、単純な犯行だったのだ。
 警備員が、
「すみません、奥さん」
 と言って声をかけて、事務所に連れていく。
 最初は警備員も一緒に店長のところに赴いたのだが、すぐに、
「ああ、いいよ。君は自分の部署に戻っても、ご苦労さん」
 ということで、警備員は、そのまま帽子をかぶり直し、自分の部署に戻っていった。
 店長が、奥さんにいろいろ話をしていたが、その奥さんが、初犯であり、反省もしているし、何よりも、お得意様ということで、様子を見ていても、
「魔が差した」
 としか思えなかったので、店長も、
「今回だけは、大目に見ますが、今度やったら、警察を呼びますので、覚悟しておいてくださいね」
 と、厳しく言いつけて、その日は彼女を家に帰したのだった。
 確かに、彼女は、最近精神的にノイローゼ気味になっているようで、近所の人も、
「大丈夫かしらね? あの奥さん」
 とは話をしていたが、奥さん自体、まわりと馴染むということのない人で、いつも一人孤独な人だったので、誰もかまわないというところであろうか?
 そんな彼女を、
「まあ、しょうがない。あんな奥さんもいる」
 ということで、他の奥さんたちは、気にしないようにしていたのだ。
 昔であれば、数段生活の中の、しかも、主婦仲間というと、
「一人孤立している人がいると、集団での苛めのようなことがあった」
 という時代もあった。
「もし、ゴミの分別などが、ちょっとでも違っていれば、ゴミ袋を裁く形で、その奥さんの玄関先に置いておいたり、集合ポストに来た郵便物が表にばらけていたり、自転車に乗っている人だとすると、自転車をわざとパンクさせられたり」
 などという、嫌がらせも結構あったりした。
 そう、中学、高校生にある、
「苛め」
 のようなものだ。
「大人が、しかも、母親がそんな嫌がらせをするんだから、その子供が学校で苛めをしていても、それは当たり前というものだ」
 と言えるのではないだろうか。
 意外と不思議なもので、母親が、他の主婦に苛めをしているところの子供も、同じように苛めをしていて、苛められている主婦の子供も苛められる運命にあるようで、やはり遺伝による、
「極悪性」
 や、
「狂暴性」
 というものは、本当にあるのかも知れないと思っても無理もないことに違いない。
 その主婦も、いつも苛められているという環境にあり、当然、家族のことに目を配るだけの余裕があるわけもない。
「まさか、息子も苛めを受けているなんて」
 と思っていることだろう。
 旦那は、そんな家庭のことを、
「見て見ぬふり」
 をしているようで、それだけならいいのだが、変に被害妄想があるのか、家で落ち着けないのは、
「家族に原因がある」
 ということで、癒しを求めて、不倫に走ったりしていた。
 それでも、まったく悪びれた気分ではない。
「どうせ、家族のせいだ」
 と、すべてを家族になすりつけ、自分に正当性があると思い込もうとしていたのだ。
 そういう意味では、一番悪いのは、この旦那なのかも知れないが、少なくとも、この時点で、家庭崩壊をしているのは間違いない。
 だが、それに関して誰もよく分かっているわけではなく、
「これが家族というものだ」
 と、皆それぞれ思っていて、父親以外は、自分のことでそれどころではなく、父親は、自分の正当性だけを主張して、不倫をしているのだから、どうしようもない。
 もっとも、奥さんは、それでも、今まで結構頑張ってきた。
 毎日のように嫌がらせを受けていて、必死で精神を持たせてきたのは、ある意味、
「よく頑張った」
 と言えるだろう。
 そんな奥さんのことを分かっている人がいなかったのは、一つ辛いことだった。
 さて、実はこの奥さん、本人は、初めてのことだったのだが、そのわりに、店長の口調が少し厳しかったということに気づいていないようだった。
 もっとも、自分が悪いことをしているという自覚が、十分なほど奥さんにはあるので、
「ただ、平謝りをするしかない」
 ということであったが、それ以上に、
「奥さんにとっては、可愛そうだ」
 ということを、あの警備員は感じていたのだ。
 というのは、あの奥さんが、なぜ、店長から少々厳しく言われたのかというその理由を知っていたからだ。
 逆に言えば、
「知らないのは、奥さんだけだった」
 と、あの場面でのこととして警備員が感じていたが、その理由が何かというと、
「奥さんの息子が、この店で、以前に万引きをして、同じように捕まったことがあった」
 ということからだった。
 その時に捕まえたのは、やはりというか、当然、この警備員だった。
作品名:怪しい色彩 作家名:森本晃次