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怪しい色彩

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 そんな状態なので、もし、入り口に侵入してきて、警備会社に連絡が行って、出動してくるのに、十数分かかったとしても、相手は、実際の事務所に向かうまで、エレベーターが使えない、そのため、非常階段を使うことになるが、その非常階段もカギが掛かっているので、そこでピッキングをすることになる。
 やっと、その愛のフロアに出たと思うと、今度はさらに、事務所のカギのピッキングということになるので、ほとんどの場合、ここまでに警備が来ることになる。場合によってはフロアの非常階段を開けようとした時点で警察に通報が入る場合もあるので、ほぼ、空き巣が成功する可能性はゼロに近いであろう。
 もし、逃げることができても、防犯カメラに映っている。そのあたりを考えると、完全にリスクの方が大きいといってもいいだろう。
 そういう意味で、オフィス街に忍びこむやつはいないだろう。
 企業の場合は、空き巣などが怖いというよりも、
「個人情報の漏洩」
 の方が怖いと思っているはずだ。
 そもそも、金目のものは、パソコンなどの大きなものくらいだろうし、基本的に現金などもおいておらず、あっても、大きな金庫の中にしまってあるに違いないからだ。
 だから、オフィスビルに盗みに入るということは、まずは考えられない。それでも犯行を行い、もし成功したとしても、犯人は一気に絞られる。
「内部犯行」
 つまり、内部の事情をある程度知っている人がいないと、この犯行が成立しないのだと考えると、犯人が絞られるということでも、リスクの方がメチャクチャ重たい。
 だが、飲み屋などの雑居ビルでは、警備すら入っていない。泥棒の入り放題であった。
 だから、毎日のようにニュースになり、有志が募って、警備団を結成するなどということになるのだ。
 しかし、警備団を即席で結成しても、その足並みが揃うわけもない。最初は皆、士気が高く。
「俺たちの店は、俺たちで守るか」
 といって、威勢もよかったのだが、次第に、テンションも下がってくる。
 というのも、
「それぞれの店のオーナーが出資して、ビルの警備を行えるように、進めていくので、それまで、皆申し訳ないが、警備団で頑張ってほしい」
 という約束だったものが、どうも、その約束が、
「反故にされているのではないか?」
 というウワサが聞かれてきたのだ。
「そんなバカな」
 といって、皆ショックを感じていたのだが、そのせいもあってか、次第に警備への集まりが減っていった。
 最初の方こそ、
「まあ、士気も下がってきているので、しょうがないところもあるかも知れないな」
 ということであったが、一人減り、二人減っていくうちに、今までの2時間の割り振りが、3時間にしないと回らなくなってきた。
 そうなると、
「2時間だから、何とか出てきたけど、3時間だったら、もういい加減きつい」
 という人も出てくるのだ。
 正直、まわりを鼓舞していた、リーダー格の、
バー「フェルマー」の酒田氏であっても、
「俺だって、3時間と言われるときついよな」
 と感じていた。
 そうなると、夜中に時間が空くが、それも仕方がない。
「しょうがないですね。今の6時間体制を4時間体制にしましょうかね。それに平行して、ビル側に、警備員を探してもらうように、募集だけはせめてかけてもらうようにしようと思います」
 ということであった。
 そこまで約束できれば、とりあえずは、時間を短くして、警備隊を再結成することになったのだ。
 だから、警備としては、とりあえず、午前0時から、午前4時までということになった。その理由は、
「早朝であれば、街の清掃員が、若干ではあるがいる」
 というのが理由であったが、2時間のロスをどこで補うかというと、もうその時間しかないということだった。
「今の冬という時期は、厳しいけど、夏だったら、5時くらいから明るくなるしな」
 という意見もあった。
 ただ、
「夏まで続けないといけないのか? いい加減、どうにかしてほしいよ」
 という人がいて、それも当然のことだった。
 そんなことを言っているのを聞かれてでもいたのか、事件が起こったのは、その頃のことだった。
 例の早朝の警備がいない時間、その事件は発生した。
 しかし、それは、皆が予感したような案引きではなく、殺人事件だったのだ。
 この殺人事件は、今まで、誰かが、いや、皆が心の中で、
「起こるかも知れない」
 と思っていただけに、
「殺人事件が発生した」
 と聞いた時、さほど、驚きというものはなかった。
 それよりも、
「殺されたのは誰なんだ?」
 ということの方が気になっていた。
 もし、誰かが殺されたとなると、その人は、
「このビルの関係者か、警備に関わっている人たちに他ならない」
 ということだったからである。
 警備といっても別に街をパトロールするわけではなく、ただ、誰も来るはずのない店内で、店番をしているだけのことだった。
 それだけに、
「店を開店していれば、お客がいて、自分が料理を作ったり、お酒を出すことで、賑やかになり、それが楽しく、それでお金がいただけるのだから、それこそが生きがいだ」
 と思って店をしていた人も多いだろう。
 もちろん、そんなことは理想で、それほど儲けがあるわけでもなく、基本的には、
「自転車操業」
 なかなかうまく経営できるわけでもない。
 しかも、ビルは、オンボロだし、
「もう少しキレイなビルだったら、客も、収支でプラスになるくらいに、来てくれるんだろうけどな」
 と、店の改修に、かなりのお金をかけて開店しただけに、バー「フェルマー」というところは、酒田氏にとって、半分は自分の分身のようなものだった。
 だから、この今の生活を守るために、執着する気持ちは、他の経営者に比べれば大きいのだろう。
 しかも、彼は昔から、特に学生時代から、目立ちたがり屋だったことから、特にそう感じているのだった。
 そんなビルで起こった殺人事件は。ビルの警備の時間が短縮されてから、1週間も経たないうちに起こったのだ。
 最初の発見者は、昼間に自分の店を確認に来た。3階のスナックのオーナーだった。
 この男は、ビル警備に関しては、最初から乗り気ではなかった。
 酒井氏の提案にも、耳を貸そうとすることもなく、集まりも最初の頃に、1,2度出た程度で、後は、まったくの、
「なしのつぶて」
 だったのだ。
 だから、彼は独自に、昼間定期的に店にやってきて、換気や、簡単な店の掃除だけをして、1時間くらいで帰っていた。
 それを週に2回ほど繰り返す程度で、どうやら、
「店を手放すことになるなら、それはそれで仕方がない」
 と思うのだった。
 元々、脱サラで店を始めたのだから、
「またサラリーマンに戻ればいい」
 という程度に考えていたことだろう。
 しかし、今の困窮は確かに、会社よりも、店の方が、直撃を食らっているのだが、次第に会社にも影響が出てくることで、もう少し、世間を分かっていれば、
「いまさらサラリーマンというのも、地獄から地獄へと行くだけではないか」
 と、思ったであろう。
 ただ、この男の、もう一つの性格として、楽天的あところがあったのだ。
作品名:怪しい色彩 作家名:森本晃次