怪しい色彩
そんな状態で、見回りをするようになったので、見回りをするのは、2人体制、何とか全部で6人を集めてきたので、とりあえずこの体制を、3交替で行うようにした。
時間としては、基本的に、午前0時から、午前6時までの6時間。だから一組、2時間ペースということであった。
「一応、自治体には、見回りの人を手配してもらうようにしています。一応、2人をお願いしているので、その人数が集まれば、少しは楽になるでしょう」
と、いう話だったが、皆、あまり信じていないようだった。
「自治体に要請したって、いつになるか分からない」
というのだ。
というのの、
「自治体が出してくれるはずの補助金も、なんだかんだと理屈をつけて、なかなか手元にこない、
「どうせ、出し渋ってるのさ」
と、いうのだが、間違いはないような気がする。
今回で二度目の宣言発出になるが、最初の補助金も、なかなか降りないということがあったので、
「もう少し、宣言が長引いていれば危なかった」
というギリギリのところだったというところも少なくはなかっただろう。
宣言が終わった時は、確かに、ほとんど患者がいなくなり、
「もう、これで大丈夫だ」
と思った人もいただろうが、専門家の話で、
「今だけのことで、またいずれ波がやってくる」
という人もいたり、
「伝染病というのは、変異を繰り返すということなので、すぐにまた、患者が増えてくる」
という人もいた。
結果としては、そのどちらも当たっていた。
「今までの従来型の患者に合わせて、変異株というものの流行も始まっている」
ということで、従来型の波と、変異に対しての波とが同時に襲ってきて、変異型に関しては、そこまで増えることはなかったので、まだそこまでのひどさではなかったが、第2波の患者は、第一波の時よりも、かなり感染力が強く、簡単に収まることもなかった。
さすがに政府も完全な人流制限を掛けることはできず、店舗には、時短営業と、酒類の提供を辞めさせた。
ということになれば、夜が中心の居酒屋関係や、水商売は上がったりだった。
昼間にお弁当を作って、公園前などで、サラリーマンに提供していた。そういう意味で、公園や通りで、お弁当の直売が流行したのは、この頃の一種の風物詩だったといってもいいだろう。
だが、さすがにその程度で持ちこたえられるわけもなく、宣言が解除され、実際にまともに営業ができる店も少し減ってしまったようだ。
そうなると、失業者が街に溢れる形になる、
ホームレスも増えたのではないだろうか?
「リーマンショック」
により、一時期、
「被雇用者の集団解雇」
なるものがあり、
「派遣切り」
などと言われた時代があり、そんな彼らを助けるという意味で、ボランティアによる、炊き出しなどが、大きな公園などで行われ、
「派遣村」
などと言われた時代があったが、あの時は、一部の派遣労働者が割を食った形になったが、今回は、大げさにいえば、
「国民全員が苦しんでいる」
ということになる。
それを思うと。
「人のことなんかにかまってはいられない。明日は我が身だ」
ということで、助けが及ぶことはない。
だから、
「犯罪は増えるだろうな」
ということも言われていた。
当然のごとく、休業要請や、時短となり、夜中ずっと開いていた店が、休業するのだから、その間、ゴーストタウンになることも分かっている。
しかも、
「警備など必要ない」
ということで、警備をおろそかにしてきたつけが、回ってきたのだった。
確かに、夜中開いているのだから普通に考えれば、警備も必要ないのかも知れない。
だが、これが、オフィスビル街であれば、ビル全体が警備を掛けられるようになっていて、警備が破られれば、すぐに警備会社に連絡が入り、10数分くらいで警備が飛んでくるということだ。
最近のオフィスビルでは、
「ワンフロアに、一つの事務所」
というような、縦に長いビルも少なくない、
その方が、警備も掛けやすくなっている。
そういう形式でのビルであれば、1階の集中パネルで、警備を掛けたり、解除したりするのだが、
基本は、エレベータと、非常階段の移動ということになる。
「エレベータの故障」
でもない限り、普通は、
「エレベータでの移動」
ということになる。
「ワンフロアに、一つの事務所」
ということにしておけば、例えば3階の事務所のその日の業務が終了し、全員が退社し、最後の一人が事務所のカギをしめると、下の警備を掛けられるようになる。
そして、3階の警備を掛けると、エレベータと連動していて、エレベータは、その階には停車しないことになっているのだ。
つまりは、ビル内のすべての警備が掛かってしまうと、どこかを解除しない限り、エレベータではどの階にもいくことができない。後は非常階段だけだが、こちらも基本、表から鉄の扉をあけて、その階の踊り場に入らなければいけない仕掛けであった。
もちろ、非常階段の扉にもセンサーがついているので、開けた瞬間には、警備が飛んでくるというわけだ。
もちろん、不備な部分もあるかも知れないが、基本、警備員が飛んでくるということであるし、防犯カメラもしっかりとついているだろうから、犯人が途中で逃げたとして、その姿はバッチリ映っているというものである。
だが、飲み屋街には、警備会社の連動などもちろん、防犯カメラすら設置されていない。せめて、消防法の観点から、スプリンクラーが設置してある程度だろう。
そんなところであれば、泥棒も入り放題。ピッキングのプロであれば、入り口のカギなど、簡単に開けられることだろう。今までなら、警備も来ないので、狙われるところは、簡単に狙われるというものだ。
金庫ごと金を持っていったり、高い酒ばかりを物色したりというところであろう。
もっとも、金庫を持っていっても、中身はほとんど入っていないだろうから、持っていった方は、空振りだといってもいいだろう。
今回、この、
バー「フェルマー」
が入ったビルでは、今まで泥棒に狙われなかったのが、不幸中の幸いというべきか、
逆にいえば、それだけ、
「金銭的にロクなものが店にはない」
ということを、泥棒も調査済みということであろうか?
ということになると、犯人は、
「内部に詳しい人間」
ということになる。
もっとも、最初に疑われるのは、内部犯行説であろう。
何といっても、真っ暗闇の中で、いくら、誰もおらず警備が掛かっていないとはいえ、物色をするのだから、結構長い時間滞在していることになる。それだけリスクが高まるというもので、見張りもいるだろうが、長い間の泥棒行為も、かなり疲れるに違いない。
それを考えると、
「本当なら、こんなこと、情けないと思うんだろうが」
と思うのだが、それもこれも、、
「パンデミック」
のせい、
誰を恨めばいいのか分からないが、とにかく、このままでは、どうしようもないということからの、犯行なのだろう。
そう思うと、気の毒なところもないわけではないのだ。