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怪しい色彩

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 と思えるのだが、だったら、なぜそんな狂言を言わないといけない?
 自分の不倫の言い訳として、でっちあげるなら分かるが、殺されたのは、旦那である。その旦那が。
「不倫をしていた」
 などというと、まず最初に疑いが掛けられるのは、奥さんではないだろうか?
 つまりは、
「自分で自分の首を絞めているようなもので、もし奥さんが犯人だとするならば、旦那の不倫のことは、黙っておくほうがいいのではないか?
 と思われる。
 それを他の刑事に話すと、
「それはそうだな。確かに、不倫のことを言わなければ、自分が疑われるということもないわけだし、見つからないものを探させて、結局見つからないのであれば、容疑のすべては自分に向くということくらい分かりそうなものだが」
 ということであった。
 今度の事件において、まず殺されたのは、旦那であったが、旦那が殺される理由としては、今のところハッキリとしない。
「旦那が最初に不倫したことから始まっている」
 として、捜査が開始されたが、肝心の不倫相手というものが出てくるわけではない。
 そこで、容疑者は、奥さんがクローズアップされたが、そうなると、旦那の不倫を最初に言い出したこと、さらにはなぜ殺害現場があの場所でなければいけなかったのか?
 そんなことを考えていると、事件は、ひょんなところから、別の道に入ってくるのだった。
 この事件とまったく関係のないと思われた事件が、この事件に絡んでくることで、今は、まったく見えていないことで、いろいろな疑問が、割拠しているが、
「一つのことがうまく絡んでくると。事件というものは案外にきれいに解決するものなのかも知れない」
 ということであった。
 ただ、この事件がきれいに片付いたというわけではなく、キレイかどうかを判断するのは、一体誰なのか?
 そもそも、
「殺人事件というものの結末というものは、そうそう、きれいな形に収まってくれるというのは珍しいものだ」
 と言ってもいいだろう。
 だから、今回の事件、解決してほしいとは皆思っているだろうが、
「どうせ、、最後にはやり切れない気持ちになるんだろうな?」
 ということになるであろうとは、分かってるような気がした。
 そのひょんな事件というのは、隣の県にある、
「紅葉がきれいで有名な観光スポット」
 があるのだが、その少し離れたところには、
「人が入ってはいけない」
 と言われるところがあり、
「入ったら出られない」
 と言われる、樹海が存在した。
 そこは、いわゆる、
「自殺の名所」
 であり、年に何十人と、そこで自殺死体が発見されていた。
 今回も自殺死体が発見され、その被害者というか、自殺者の身元は結構簡単に分かった。
 遺書のようなものは発見されなかったのだが、身元が分かったことで、まず最初に連絡が行ったのが、南部だった。
 警察からの連絡ということで、てっきり、この間の死体発見のことかと思ったが。
「O県警ですが、南部さんでしょうか?」
 と言われ、
{O県警?}
 と聞きなおした。
 O県というのは隣の県で、自殺の名所があるところであった。
「はい、実はですね、先日、あなたの弟さんの自殺死体が発見されまして」
 というではないか。
 それを聴いて、さすがにビックリした南部は、またしても、この間の死体発見現場の記憶が、デジャブのようにフラッシュバックされたのだった。
 南部は義理の弟の自殺死体と聞いて、確かに最初はショックだったが、次第に時間とともに、冷静になっていった。
 冷静になると、今度は、
「そっか、結局自殺の道を選んだか」
 と思うと、何やら、今度の事件の様相が見えてきた気がした。
 義理の弟には、大きな秘密があった。
 その秘密というのが、
「弟は、ゲイだった」
 ということである。
 いわゆる、
「男色」
「衆道」
 と言われるものは、昔からあり、特に戦国時代などでは、それが一般的だったと言われる。
 さらに今の時代では、ボーイズラブ(BL)と言われるジャンルもあり、さすがに戦国時代のリアルなものとは、また違ったものだということは分かり切っているだろう。
 そんな時代において、弟は、どうしてあのような奇怪な趣味に走ったのか、
「ひょっとすると、父親の、偏執的な性欲が、違った形で現れたのか?」
 とも考えた。
 そして、危うく、南部も、
「もう少しで、引きずりこまれてしまいそうだった」
 と思っていた。
 それは、自分が、
「衆道の気がある」
 というよりも、
「弟のすり寄り方が神かかっているかのように、巧みだからだ」
 と言えるのではないだろうか。
「自分だから何とかなったが、人によっては危ないかも知れないな」
 と思うのだった。
 ただ、弟は、BLだからと言って、
「女に興味がないわけではなかった」
 そもそも、異例な顔立ちに透き通るような肌。美少年なのだ。
 レズの気のある女性であれば、引っかかっても無理もないだろう。
 そういう意味で、南部は弟を恐れていたのだ。
 そもそも、
「南部が、潤子と不倫をしている」
 というのも、南部としては、不本意であった。
 本当は、潤子のような女が好きだというわけでもない。
 南部は普通に女子が好きなだけなので、何も、同じくらいの女を物色するよりも、
「もう少し若い子の方がいいな」
 と感じていたのだ。
 それなのに、
「なぜ、潤子と一緒にいなければいけないのか?」
 ということである。
 表向きでは(本当は裏なのだが)、
「潤子の万引きを咎めたことで、潤子を蹂躙した」
 というように思われていたが、実際には、違ったのだ。
 普通ならそんなことを言われるのは、心外なのだろうが、それ以上に、その裏に潜むことの方が、
「バレたくない」
 ということだったのだ。
 というのは、殺された旦那の不倫相手というのが、
「実は、弟だった」
 ということなのだ。
 弟がいかにして、旦那を誘惑したのか、それとも旦那の方も衆道の気というものが十分にあったということなのか、それを思えば、潤子とすれば、
「あなたの弟がうちの旦那を」
 と言われれば、どうしようもなかったのだ。
 だから、自分が、
「奥さんを権力で蹂躙した」
 と思われたとしても、本当のことを知るよりもマシだったのだ。
 ただ、奥さんは、どうも嫉妬深い女のようで、
「旦那を愛しているわけではないが、他の女ならいざ知らず、男にうつつを抜かすということであれば、絶対に許せない」
 ということであり、しかも、その相手の義理の兄を見つけて、逆に脅迫できるのであれば、これ幸いと思っていたのだ。
 そこで、家で旦那にかなり強く出たのだろう。
「自分の方が明らかに、立場的には強い」
 そして、当てつけに、南部の勤めている先で待ち合わせをした。
 そこには、誰も来ないという思惑があったのだろう。実際に、出勤時間など、何も知らない南部から聞き出せばいいわけで、もし殺すことになったりすれば、その罪を南部にかぶせることができると考えたのだろう。
「では、南部の弟は、この事件でどのような役割を演じていたというのだろう?」
 ということであるが、
作品名:怪しい色彩 作家名:森本晃次