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怪しい色彩

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「だってそうじゃない。不倫というのは、それぞれに、何かしらのリスクを負っているわけでしょう? 女だって男だってね。そちらかに配偶者がいたり、バブル不倫のように、どちらにも配偶者がいる。どちらにもいる場合は、そういう意味では対等なのかも知れないけど、どちらかに配偶者がいる場合というのも、似たようなものなのよね。だって、もし片方がフリーだとしても、配偶者の不倫相手ということで、その不倫が証明されれば、相手から、それぞれ慰謝料請求される可能性だってあるわけでしょう。そして、そうなると、間違いなく、訴えられるということね」
 ということであった。
 それを考えると、南部という男、まったくシロだと言い切れなくなってしまった気がした。
 奥さんにも、旦那を殺す理由があるのだが、もし奥さんが怪しいとすれば、問題になってくるのは、
「旦那の不倫相手」
 ということになる。
 ただ、奥さんが、最初に旦那が不倫をしたということで、自分も勢いからなのか、当てつけからなのか、自分も南部という男と不倫に走った。この場合は、妻から旦那に対して、慰謝料を請求することはできないだろう?
 となると、相手の女に請求するということはできるのだろうか?
 刑事はそのあたりのことは、よくわからなかった。
 まあ、とりあえず、
「旦那の不倫相手を探すことが先決」
 だったのだ。
 旦那の不倫相手というのは、なかなか見つからなかった。
 彼の会社に行っても、
「松前さんですか? うーん、あの人はどちらかというと目立たない暗いタイプの人でしたね? 不倫ですか? 私には分からないですね。しているというイメージはなかったですね。元々が、コソコソしている雰囲気なので、よくわかりません」
 と部下だったという男に聞くと、そういう捉えどころのない回答しか返ってこなかったのだ。
 先ほどのOLの話を思い出して、
「なるほど、対等でなければ、社内不倫は難しいということか?」
 と考えてみると、
「不倫自体が、もっと難しいことなのかも知れないな」
 と感じるようになった。
 不倫というのは、
「始めるのは簡単だが、きっと辞めるのが、かなり難しいのではないか?」
 と思う。
 どうしてそう思うのかというと、
「継続自体が、かなり難しいので、継続できなくなって辞めるということは、最悪であり、一歩間違えれば、そこで人生が終わってしまうのではないか?」
 と感じるからだった。
 それを思うと、
「これは、不倫だけではなく、結婚にも、もっと言えば戦争などでもいえることなのではないだろうか?」
 ということを考えてしまう。
 戦争であれば、よく言われるのが、相手が、自分よりも強大で強い国であれば、
「完全勝利は望めないので、ある程度、最初に相手を叩いておいて。相手が戦争継続の意思が薄れてきたところで講和を持ち込んで、有利な辞め方をする」
 という方法しかないということである。
 それが、日本における。
「日露戦争」
 であり、
「大東亜戦争」
 だったのだ。
 日露戦争ではうまくいったが、大東亜戦争では、そうもいかなかった。
 というのも、
「あまりにも最初に勝ちすぎたため、辞めるタイミングを見失ってしまい、戦争継続に邁進してしまったことで、墓穴を掘った」
 ということであろう。
 もちろん、他にも要因がたくさんあっただろうが、あそこまで日本本土が焦土になったり、
「無条件降伏」
 などという憂き目にあうこともなかっただろう。
 何と言っても、日本は、被爆国。
「二発も原爆を落とされた」
 という唯一の国なのだ。
 戦後復興も、本当に奇跡であり、世界情勢が少しでも変わっていれば、一歩間違うと、今頃日本は、
「アメリカの属国」
 となっていたかも知れない。
 いや、それは、表面上のことだけであって、実際には、
「アメリカの属国」
 という他にないではないか。
 そんなことを考えていると、捜査は少し難航してきた。
「すぐに見つかるだろう」
 と思われた旦那である松前の不倫相手が、なかなか見つからない。
 そんなことをしているうちに、捜査本部では、
「本当にそんな女が存在するのか?」
 という、
「不倫否定説」
 というものが、現れてきた。
 ただそうなると、それに平行して深まってくるのが、
「奥さんの犯人説」
 であった。
 ちなみに、奥さんは死亡推定時刻、
「一人で部屋にいて、テレビを見ていた」
 と証言しているが、番組の内容を聴いたところで、信憑性はない。
 録画していたものを見ているとすれば、分からないからだ。
「それを証明してくれる人は?」
 と聞いたが、
「いません」
 と奥さんが答えた時点で、奥さんである潤子のアリバイが成立しないということが確定したのであった。
 奥さんの不倫相手である(この時点では不倫相手と確定はしていなかったが)南部の方も、アリバイは曖昧で、
「夜の警備のために、昼間寝ていた」
 というのは、正直、当たり前の話で、誰も証明できないということだったので、彼のアリバイが成立しないことが確定している。
 実際に調べて、不倫相手が見つからない以上、もう一度潤子に聞くしかなかった。
「本当に旦那さんは、不倫をしていたんですか?」
 と聞くと、
「ええ、そうよ、だから私も、当てつけにしてやったのよ」
 というではないか。
 そこで刑事は思い切って、
「でも、奥さんの方も不倫に走ると、いざとなって、旦那に慰謝料請求をしようとでもすると、奥さんが不倫をしているということになると、不利になるんじゃないですか? それを承知で腹いせに不倫をしたとおっしゃるんですか?」
 と刑事が聴いた。
「それはそうかも知れないんだけど、でも私は慰謝料を請求する気にはなりませんでしたよ」
 というではないか。
 この奥さんのように、
「腹いせに自分も不倫を」
 という人であれば、まずは、旦那に慰謝料を請求する方を優先しそうなものなのだが、それについて言及すると、
「だって、慰謝料を請求できる相手なのか、私には分かりませんでしたからね」
 と潤子は言った。
 それを聴いて、刑事は顔を見渡して、
「どういうことなんだ?」
 と不可思議に思ったが、
「それはどういうことなんですか?」
 と聞くと、
「さあ、そこから先は、警察の領域です。ちゃんと捜査してくださいね」
 と言って。奥さんは、警察を煙に巻いた。
「一体どこからが警察の領域だというのか?」
 と桜井刑事は考えたが、奥さんのいう言葉の意味を、図りかねていた。
「どういうことなんですか?」
 と聞いても、ここまで言い切るのだから、話をしてくれるはずもない。
 不倫相手一人を見つけることができない警察も無能をあざ笑っているのか、奥さんの態度がいつになくでかく感じられたのだった。
「警察のメンツにかけて、不倫相手を探すしかないか」
 ということで、桜井刑事は、しっかりと、先を見ようと考えたのだった。

                 大団円

 桜井刑事を始め、捜査陣は、暗礁に乗り上げた。
 どうみても、旦那に不倫の影が見えてこないのだ。
「だったら、奥さんの狂言では?」
作品名:怪しい色彩 作家名:森本晃次