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怪しい色彩

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「どうしても言わないといけませんか?」
 という言葉が、明らかに相手を責めているようにしか聞こえず、
「相手が刑事であっても、私は私」
 という性格に見えて仕方がなかった。
 桜井刑事も、
「さすがにここまでとは思わなかった」
 と思うほどに、自尊心とプライドの高い女であるということを思い知ったのだった。
「そうですね、できればお願いしたいですね」
 と、少したじろぎながら話をした。
「うちの旦那とは、ほとんど夫婦生活はありませんでしたね。最初の頃は結構まわりがうらやむくらいの仲だと思っていたんです。でも次第にお互いにすれ違っていったというか、正直に思うのは、相性が合わなかったのかも知れませんね。夜の生活も決してあっていたと思ったことはなかったくらいですからね。結婚したら誰もが思うじゃないですか? こんなはずじゃなかったってですね。そんな感じでしょうか」
 というので、
「これをいうと、仕方のないことかも知れないんですが、離婚は考えなかったんですか?」
 と、もう一人の刑事が聴いてみた。
 本当は、
「この質問はしてはいけない」
 と思っていたことだっただけに、口から出てしまった以上、しょうがない。これを却って庇ってしまうと、話がややこしくなるだけであるのは分かっている。
 そうなると、このまま突き進むしかない。
 相手も、あからさまな嫌な顔をしたが、それも一瞬で、
「別れようと思った時もありましたよ。でもそれをしなかったのは、お互いに楽しめることがあるのなら、この状態でもいいじゃないかと思ったんです。別れるなら、本当に別れた方がいい瞬間に別れればいいという感覚ですね」
 というのだった。
「本当に別れたらいい瞬間?」
 と刑事が聴いた。
「ええ、そうですよ。人間、結婚する時、結婚するには一番いい時ってあるでしょう? 相手が決まっていない時は、結婚適齢期という幅の広い時期で考える。相手が決まっていれば、結婚するのに一番いいと思った時期に、プロポーズして、結納、そして結婚式となるわけじゃないですか? 別れる時というのもあると思うんですよね」
 と言い始めると、誰も口を挟む人はいなかった。
 彼女はそれをいいことに、話を続ける。
「世の中には辞め時というのがあるでしょう? 例えば、ギャンブルのようなものだったりですね。結婚生活だってあると思うんですよ。さらにもっといえば、始めるよりも、辞める方が何倍も難しいというじゃないですか。結婚もその一つであり、特に戦争などの場合などによく言いますよね」
 と彼女はいう。
「確かに、それはいいますね。我々の仕事でもたまにありますよ」
 というと、彼女はにっこりと笑い、
「そうでしょう? その通りなんですよ。戦争だって、始めるのも確かに難しいけど、終わるタイミングが難しい。相手が強い時は、ちょうどいいところで和平に持ち込むとか、こっちが強い時は、もっと難しい。相手を完膚なきまでにやっつけてしまうと、あまりにもひどい状態に陥ってしまうと、血も涙もないというような言われ方をするでしょう? 実際に勝ち続けても、まわりが受ける院長を違った形で与えてしまう。まわりから、恐ろしいと思われる、どうしようもなくなるでしょう?」
 というのだ。
「なるほど、それを結婚にも当てはめるというわけですね?」
 と、彼女の話が若干強引に見えるところから、少しそれを制する形で、その核心をつくような聞き方をしたのだった。
 今のところ、彼女の話が大きくなりそうなところを、少し諫めたというところであったのだ。
「あなたたちが聞きたいことは分かっています。私が不倫をしていると思っているんでしょう? たぶん、どこからかご注進でも入ったのかも知れないんだけどね。ええ、私は不倫をしているわよ。でも、これだって、元々不倫をしたのは、うちの旦那の方が先なんですけどね。もっといえば、結婚も、本当は旦那の計略だったんだけどね。私はそれも知らずにバカな結婚しちゃったと思ったわよ。でも、御苦労様ですね。私が不倫をしたことで、旦那を殺害したとでも思ったのかも知れないけど、そんなことはありえないわ」
 というではないか。
 それは、聴いていて、完全に自信を持っている言い方であった。正直、
「この自信は、一体どこから来るのだろう?」
 明らかに動じていない、もし、動じているのであれば、こんな話をするはずもないというものだ。
 それを感じた刑事たちも、
「これ以上のことを下手に聴いて、相手のペースに引き込まれるのは、本意ではない」 
 と思っていた。
 仮にも彼女は、今の立場は、
「被害者の奥さん」
 であり、被害者側と言ってもいいだろう。
 もし、犯人と思えるような何かがあったとしても、いきなりそのことを追求するのは、捜査上としても、少し厄介なことであろう。
 それを思うと、刑事も、
「この奥さんを追い詰めるのは得策ではない」
 と思ったのだ。
 特に、このように、警察に食って掛かるような人は、本当にそういう気性が荒いということなのか、それとも作戦で、相手の捜査を紛らわそうとしてやっているのか、その解釈によって、まったく違った性格になってしまうこともありうるのであった。
 それを考えると、
「とにかくは、何か証拠でもないとしょうがないんだな」
 ということであったが、今の奥さんのセリフから、一つだけ新たな真相らしきものが出てきたではないか。
「最初に不倫をしたのは旦那で、しかも、旦那はこの不倫のために、結婚した」
 という話ではなかったか。
 意味がハッキリと分からなかったが、これが、今回の事件の謎であることは分かったのだ。
「奥さんは、その不倫相手を誰か知っていますか?」
 と刑事はわざとぶつけてみた。
「この奥さんだったら、きっと刑事を煙に巻こうとするに違いない」
 ということが分かったからだ。
「そうね、知ってるわ。でも、あなたたちには教えない。私の口からは言えないもん」
 と言って、とぼけているようにも見えるが、明らかに、警察をあざ笑っていた。
 それでいて、
「本当に奥さんの口からは言えないんだろう」
 と思わせ、それが、
「奥さんのプライドを傷つけるものなのか?」
 それとも、
「この事件の核心を掴むことで、教えたくはないのか?」
 ということだと思ったが、結論からいうと、
「その両方」
 であった。
 そのことを奥さんがどのように考えているのか、正直、自分の立場がそのまま、警察に対しての皮肉な気持ちを素直に表しているものなのか、見ている限り、奥さんが楽しそうなのは本当のようなので、
「その気持ちは分かるんだろうな」
 と感じているのだった。
 奥さんのプライドというものが、これから、この事件にどう響いていくのか、これからが見ものというものではないだろうか?
 奥さんの尋問は、それ以上やっても、埒が明かないということで、出てきた証言を洗い出すしかない。
「奥さん、タレコミのことを分かっていたんですかね?」
 と聞かれて、桜井刑事は、
「分からんが、ありえないことではないだろうな」
 というのだった。

                 旦那の不倫

 潤子は、警察での話は、ある意味、
作品名:怪しい色彩 作家名:森本晃次