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怪しい色彩

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 と思っていることだろう。
 しかし、女とすれば、
「私の美貌にぞっこんで、だから自分を許してくれたんだ。身体を提供しているんだから、どっこいというよりも、私の方が有利よね」
 と思っていた。
 しかし、立場としては、男の方が絶対的に有利であった。
 なぜかというと、
「相手には旦那がいて、自分が独身だ」
 ということだったからだ。
 だとすれば、
「南部に、旦那を殺す動機はない」
 ということである。
「旦那を殺してしまうと、せっかく、表から見た絶対的に有利な自分の立場を、自らで消してしまうことになるからではないか」
 ということである。
 そういう意味で、状況的に、今見えている部分でいけば、
「南部に殺害の動機はなく、ただの参考人でしかない」
 ということだった。
 だが、実際に警察に呼ばれた南部とすれば、そこまで頭が回るわけもなく、
「警察は何を考えているのだろう?」
 というところから先が見えてこないのだった。
 K署の取調室に入って、事情を聴かれたが、昔の刑事ドラマの見過ぎなのか、どうしても、まるで拷問のような捜査をされるのではないかと、内心どきどきしていたが、実際にはそんなことはなかった。
 取調室とはいいながら、普通に話を聴かれただけだった。最初は、現場で南部が話したことを、再度確認という意味で、聞き直しただけであったし、不倫というところの核心部分も、
「あなたと奥さんである、松前潤子さんがどういう関係でおられるかということは、正直我々には関係ないんですが、ただ、その奥さんの旦那が殺されたとなれば、話は別です。あなたは都合が悪いと思うことは話さなくてもいいですが、下手に隠し立てをすると、あなたのこの事件においての立場が厄介なことにならないとも限りません。それだけは分かっていただいてのお話になりますね」
 ということであった。
「あなたと、奥さんとはいつ頃からだったんですか?」
 と聞かれて、少し黙っていると、
「奥さんには、あなたが喋ったとは言いません、ただ、それもあくまでも、事件に関係のないところだったらですね」
 ということであった。
 刑事のいいたいのは、逆に、
「あなたが言わないことは、すべて、後で分かったとしても、それはあなたへの疑いになります」
 と言っているのと同じである。
 それを思うと、さすがに南部も話さないわけにはいかなかった。
「私がまだ、前の会社、つまり警備会社に勤めている時に、ちょうど彼女が客だったのですが、私が万引きの現場を見つけた時だったんです。ちょうど半年くらい前ですかね?」
 と考えながら話した。
 時期に関しては正直、曖昧で、半年というのも、正直曖昧な感じであった。
「なるほど、それであなたは、お店の方につき出したんですか?」
 と言われて、
「最初はそのつもりだったんですが、どうも彼女を見ていると急に気の毒になってきて、それに彼女がとても魅力的に見えてしまったもので、言い方は悪いですが、好きになった弱みという感じでしょうか?」
 というと、刑事の方も、グサッと来るところをつくように、
「女の色香に惑わされたというところですか?」
 と言われ、まんざら嘘ではないと思ったので、本来なら抵抗すべきところを、何も言えなくなってしまったのだ。
「なるほど、今のご様子で大体分かりました。先ほども言いましたように、我々は不倫ということに関しては、警察には、民事不介入という鉄則がありますので、何も言いませんが、不倫をしている奥様の旦那が殺されたとなると、話は別ですからね。あなたも一応容疑者ということになる。ただ、あくまでも、登場してくる人物、皆にすべて容疑者として疑うところは疑うということです。ちなみに、あなたは、昨日の夕方は何をされていましたか?」
 と聞かれたが、その答えは即行であった。
「夜出てこなければいけなかったので、昼過ぎくらいから、夜の8時くらいまでは寝ていました」
 というと、
「それを証明してくれる人は?」
 と刑事が聴くと、
「いるわけないじゃないですか? 俺は一人暮らしなんだ」
 と、少し怒ったようにいうと、
「でしょうね」
 と冷静に答えた。
 まるで答えが分かっているかのようである。
 まるで、相手を試すような、いかにも冷静で相手をあざ笑っているかのような態度に、さすがに南部もムッときたようだ。
「まあ、でも、それは一応信じるとして、奥さんというのはどういう人なんですか? あなたの目から聞いてみたいですね」
 と刑事は言った。
 その時、南部は感じた。
「そういえば、俺たち不倫をしていて、彼女の愚痴も聴いてやってはいるが、相手がどんな性格なのか、最初の頃は気にしたものだが、途中から、どうでもよくなってきたような気がしたな」
 と感じたのだ。
 だが、それを刑事に言おうとは思わなかった。
「不利だと思うことは言わなくてもいい」
 ということであったが、これなら別に後から分かっても問題ないことのように思えたからだった。
 最初の頃は、
「俺があの女を助けてやっているんだ」
 と思っていた。
 そのおかげで、
「あの身体を頂いた」
 と思ったのだが、普通であれば、
「ほしいものが手に入れば、飽きるのも早い」
 と思っていた南部であり、そもそも南部が結婚しないのは、
「好きな女と結婚したとしても、欲しくてたまらないものが自分のものになってしまうと、すぐに飽きちゃうんだよな」
 と思うことだった。
 つまり、
「俺って、飽きっぽいんだよな。刺激を追い求める性格なんだろうか?」
 と感じたのだった。
 しかも、その度合いが、どんどんエスカレートしてくる。
 だから、限界のあるものには、すぐに限界が来ることを感じ、その時に、飽きっぽくなって、下手をすれば、
「見るのも嫌だ」
 と感じるのではないかと感じるのだった。
 南部が取り調べを受けている間、奥さんの方も、別室で取り調べを受けていた。
 南部が、まさか、自分のことをそんな風に思っているとは感じていない潤子は、さすがに、刑事に対して、不倫のことを聞かれて、正直に答えたとしても、
「色仕掛けで、罪を許してもらった」
 などと言えるわけもなく、逆に、それを南部の方に言われてしまうと、困ると思ったのだ。
「たぶん、刑事は、私を疑っている。不倫をしていたという事実だけで、私は不利なのだ。南部が独身であるということを考えると、南部の容疑は薄くなるだろう。南部に旦那を殺す動機がないのだし。私に対しても、旦那の存在が、私に対してあの人の絶対的有利を感じさせているのだと思っていれば、あの男は、あることないこと話すかも知れない」
 というのが怖かった、
しかし、問題は、
「誰が旦那を殺したのか?」
 ということであり、
「それに対して、一番の今のところの疑いが掛かるのは、この私ではないか?」
 というのが、潤子の方の考えではないだろうか。
「ところで奥さんは、旦那さんとは、どういう感じだったんですか?」
 と聞かれて、
「旦那とですか?」
 と言ってから、少し考えていたが、その表情は、明らかに、
「変なこと聞かないでよ」
 とでも言いたげで、完全に自分の立場を押し出して、対決姿勢に見えた。
作品名:怪しい色彩 作家名:森本晃次