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怪しい色彩

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「会社に連絡を取ってみますと、どうも被害者の松前という男は、3日前から欠勤しているようですね。体調が悪いということだったそうです。ただ、PCR検査では陰性だったということを報告しているようで、会社も、このご時世、出てこいなどとは言えるはずもなく、一応、一週間の休暇を与えたということでした」
 と坂下がいうので、
「なるほどそれで、家に連絡がついたかね?」
 というと、
「奥さんが出られたので、とりあえず、こちらに向かってもらうことになりました」
 と坂下は、そういって、当たりを見渡した。
 そして、その目が、南部のところで止まったかのように、感じた南部本人は、一瞬ゾッとし、たじろいでしまったが、もう、この状況には慣れているのか、今度は、立ち眩みを必死で抑えることができたのだった。
「それにしても、会社に、体調が悪いと言って休んでいる本人が、ここにいるということはどういうことなのだろうね? 会社に、ずる休みをするため、体調が悪いと言って連絡したのか、それとも本当に体調が悪くて、休んでいたが、その体調が治ったのが、昨日だったということなのか? それとも、体調が悪いといって休まなければいけない理由があったのか?」
 と桜井刑事は、いくつかの見解を口にしていた。
「いろいろ考えられるでしょうが、まずは、奥さんの話を聴いてみることなんでしょうね」
 と坂下刑事がいうので、
「奥さんがこっちに来るのはいつ頃になるかな?」
 と聞かれて、
「そうですね、住所から考えて、うちの署の人間が迎えに行ったとして、20分くらいじゃないですかね? 私が一報を伝えてから、そろそろ10分は経とうとしているので、あと10分くらいではないでしょうか?」
 と坂下刑事は言った」
「そうか、あと10分ということはすぐだな。話を聴いているうちにそんな時間になるというものだ」
 と桜井刑事が言った。
「ん? それにしても、10分も連絡に掛かったのかね?」
 ということを桜井刑事が聴くと、今度は桜井刑事を目で促すようにして、二人は、端の方に行って、コソコソと話し始めた。
 どうやら、他の人には聞かせてはいけないことでもあったのだろうか、それを聴いて桜井刑事は驚いたというよりも、意外そうな表情になったかと思うと、急に、にやりと表情が変わった気がした。
 それを見て南部は、少々、気持ち悪い気がしたが、
「あくまでも警察署内でのことだろうから、気にすることはないだろう」
 と思ったのだ。
 それよりも、南部は少し怯えているようだった。
 その雰囲気は、他の誰にも悟られるという感覚ではなかったが、
「何か皆から見られているようで、気持ち悪い」
 という感覚が、南部の中にあったのだった。
 南部は、震えはなくなったが、不気味な寒気のようなものが残っていた。それがどこから来るものなのか、分かってはいたが、
「それを自分で納得するのが怖かった」
 と言ってもいいだろう。
 そんなことを考えていると、遠くの方からパトカーのサイレンの音が聞こえた。
 徐々に近づいてから、音は消えたのだ。
 だが影になっているところで、パトランプが回っているのか、赤い色が周期的に変わっていくのを感じたのだ。
「バタン」
 という乾いた音が聞こえ、
「どうやら、車から誰かが出てきた」
 ということが分かると、南部には、
「ああ、警察が奥さんを連れてきたんだな」
 ということが察知できた。
 まるで産まれたばかりの馬が立ち上がろうとしているかのような足のおぼつかなさであるにも関わらず、それでも気持ちだけは先に進んでいるのだろうが、まったく気持ちとは裏腹に前に進んでいないその様子に、
「これはどうしようもないな」
 と思うほど、絶望的に進んでいない状況を、普段なら滑稽に思って見ているのだろうが、この時の南部は、そんな気には、とてもではないがなれなかった。
 それでも、急いでいる奥さんを見ていると、何とか息を切らしながら走ってきたのが分かり、神は振り乱されて、まったく、
「どこの誰だろうか?」
 としか思えないその形相は、
「気持ちを一緒に表しているんだろうな」
 としか思えないほどだった。
「桜井刑事、坂下刑事、ご苦労様です。被害者の奥さんを連れてまいりました」
 と、敬礼しながらもう一人の刑事が言った。
「ありがとう、あとはこちらでやろう」
 と言って再度敬礼すると、もう一人の刑事も直立不動で敬礼すると、踵を返して、パトカーの方へと戻っていった。
「きっと、この奥さんは、事情を何も知らないんだろうな」
 と桜井刑事は思っていて、それだけでやりきれない気持ちになるのだった。
 奥さんがやってくると、すぐに旦那のところに駆け込むと思ったが、一瞬たじろいだのを、南部は気づいた。
 そもそも、南部も奥さんを注視して見ていたので、気付くのは当たり前というものだが、これにほぼ同時に気づいた人がいた。
 もちろん、まわりの誰もそのことに気づいた人はいなかったが、それこそが桜井刑事だったのだ。
「さすがは、刑事の勘」
 というところであったが、実はもう一人気づいた人がいた。それが、奥さんである、松前潤子だったのだ。
 奥さんが、
「聡い性格である」
 ということは、南部が知っていた。
 この様子でも分かるように、少なくとも二人は初対面ではない。しかも、桜井刑事が睨んだ通り、かなり、深い仲のようだ。
 そこで頭に浮かんでくるのが、
「不倫」
 という言葉だった。
 だが、二人は、お互いに、
「不倫をしている」
 という意識はなかった。
 もちろん、不倫であるのは間違いないことなのだが、潤子の方に、その意識が最初からなかったのだから、独身である南部に、
「不倫という意識を持ちなさい」
 という方が無理ではないかということであった。
 不倫というのは、二人の共通した意識として、
「お互いの伴侶を裏切ることだ」
 という意識であった。
 潤子とすれば、
「最初に裏切ったのは相手なんだから、私のことを不倫だなんて言わせないわ」
 ということだった。
 二人の間に、どういうことがあったのか分からなかったが、その不貞と言えることが、今回の殺人事件にどういう関係があるのか、正直、今のところは分からないかに思われた。
 しかし、この時、奥さんを連れてきた刑事から、耳打ちをされて、桜井刑事に入った情報は、実に面白いものだった。
 人が殺されているのに、
「面白い」
 などというのは実に不真面目なことであるのだが、長年刑事をやってきた桜井としては、この情報は、今までの刑事経験の中で考えても、
「興味深いことだ」
 という意味での、
「面白い」
 だったのだ。
 この時、もう一人の刑事からもたらされた情報というのは、
「実は、この事件に関してというわけではないんですが、この事件の登場人物という意味で、興味深いタレコミがあったんです」
 というではないか。
「ほう、それはどういうことなんだい?」
 と、桜井刑事がいうと、
「待ってました。食いついた」
 とばかりに、話しかけた刑事は、自分の中でも、面白いと感じていた。
作品名:怪しい色彩 作家名:森本晃次