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 ただ、時系列でいくと、前に進むしかない。後ろに下がることは実質できないし、前に進むにしても、そのスピードは、基本変えることはできない。
 下手に変えて、せっかくバランスを保っていたものを壊すようなことはできないし、壊してしまうと、
「自分がどこにいるのか分からなくなってしまう」
 ということになってしまうだろう。
 一度、父親が、愚痴だったのか、戒めだったのか、子供の橋爪にその時の心境を話してくれた気がした。
「俺は、いつも吊り橋の上で立ち止まったりしたら、一度後ろを振り返って、必死になって、来た場所に戻ろうとするんだろうな、それだけ、前に進んで戻ってこれなくなった時が怖いんだ」
 というのだった。
「でも、後ろに戻って、ちゃんと戻れなかったら、後悔しちゃうでしょう?」
 と聞くと
「そんなことはない。自分の考えに従って決めたことであれば、何があっても、受け入れるという気持ちだよな」
 というのだった。
「そんな簡単に割り切れるんだったら、結論もすぐに出るんじゃない?」
 と聞くと、
「ああ、それはそうだろうね、逆に時間を掛ければ掛けるほど自信がなくなってきて、どっちとも選べなくなる。だから、それが嫌で、即行で決めることにしているんだよ」
 というのだった。
「それは、選ぶのが怖くなるから?」
 と聞くと、
「いや、時間に余裕を持てば持つほど、自分の決定に自信がもてなくなって、どうしようもなくなるんだよな」
 と言っていたのを思い出していた。
 やはり、命にかかわるような選択は、ある意味、一度投げやりになる感覚の方がいいのかも知れないな。
 というのだった。
「時間というものは、何に比例し、何に反比例するんだろう?」
 というような、一種不思議な感覚に陥ったのだ。

                 地元愛

 都会に住んでいると、気にしなくてもいいようなことを気にするようになる。
 誰も気にしているわけはないのに、隣近所。
 自分が変な音を出しているわけではないのに、まわりが出す変な音。さらには、何かがこすれるような音、そして、夜中になると、急に、
「ドーン」
 という音がしたかと思うと、またしても、静けさが襲ってきて。さらに空気が重たくなり、冷え切ってしまうような気がするのだった。
 そんな音が一度聞こえてくると、今度は、気が立って眠れなくなる。静けさが増しているせいで、耳鳴りが激しくなり、余計に眠れなくなる。
「耳栓をしていると、何かあった時に逃げられない」
 と思ったが、さすがに、背に腹は代えられない。
 一生懸命に耳栓をし、それに慣れるまでにも時間が掛かった。
 何といっても、違和感がハンパではないのだ。空気が乾燥しているのか、それとも湿気を帯びているのか、それすらも、感覚として分からない。
「自分の城ともいうべき、やっと憧れていた一人暮らしだったのに」
 と、
「こんなはずではなかった」
 そう思えてならなかったのだ。
 まわりのうるささに耳を塞ぎながら、必死に寝ようとしていると、寝ることができなくなる。
「もし、起きれなければどうしちょう」
 という思いである。
 ここ何度か、起きることができず、遅刻したことがあった。
 一度は目が覚めたのが、昼過ぎだったので、さすがにいいわけもできず、無断欠勤扱いにされてしまった。
「気が緩んでいるんじゃないか?」
 と上司から小言を言われ、その顔は、
「お前の代わりなんか、いくらでもいるんだぞ」
 と言わんばかりだったのだ。
 時代的には、なかなか、若い連中が会社に定着せず、平均年齢が、40代後半という会社が多くなっていたので、若い人を育てるということが、企業での一番取り組まなければいけない事業であった。
 募集はたくさんあるのだが、なかなか若い連中が固定化しない。
 一時期、ある事件で、世界的に大きな不況に見舞われた時、日本でも、その対策として、それまで企業がたくさん抱えてきた、
「非正規社員」
 の連中を、一気に解雇という形を取ったところが多かった。
 つまりは、3カ月に一度の、更新を、派遣先の会社が、打ち切ってきたのだ。
 別に、派遣社員が、
「何か悪いことをした」
 というわけではないのだ。
 企業側の都合ということで、一つの会社だけではなく、かなりの会社が、派遣社員の更新をしなくなったせいで、街に、
「失業派遣社員」
 が溢れる形になった。
 そのせいで、街の公園、ネットカフェなどで寝泊りする人が増え、年末の寒空の中、炊き出しが行われるというようなことがあった。
 いわゆる、企業による、
「派遣切り」
 ということによって、溢れた失業者を、ボランティアの人で助けるという、
「派遣村」
 などと呼ばれるものがあったくらいだ。
 しかし、そのうちに、企業が落ち着いてくると、今度は、会社には、若い者がいなくなり、残っている正社員は、ほとんどが、年配ということになる。
 そうなると、
「定年が60歳で、定年後の雇用が65歳までと考えても、果たして、何年で、何人が残るということになるだろうか?」
 ということであった。
 そんなことを考えていると、企業側も、本当は、若い人を育てる時代に入っているのではないだろうか?
 しかし、今の時代は難しい。
 城址も部下も、変に気を遣わなければいけなくなっている。年齢差が大きければ大きいほど、一緒にいるだけで大変だ。
 昔の、特に昭和の頃では、それが当たり前だったということも、今の時代では、
「一発アウト」
 ということも多いのだ。
 例えば、昭和の頃であれば、
「上司が、会議で定時以降も会議が続くというのであれば、誰か一人、残っていなければいけない」
 というような風潮があった。
 さすがに昭和の時代であっても、
「残っていろ」
 というわけにもいかないし、だから、居残りをさせられた社員も、
「残業手当の申請」
 などもできるわけもない。
 だからこそ、
「サービス残業」
 と言われるのだが、
 今の時代では、完全な、
「パワハラ」
 だった。
 さらに、今では信じられないこととして、
「4月1日に、新入社員が入ってくるが、ちょうど、10日くらいが、花見の見ごろの時期となる」
 ということで、
「花見の場所取りは新入社員」
 というのが、年中行事での新入社員の最初の、
「仕事」
 ということになるのだ。
 会社に出社して、すぐに、
「花見の場所取り」
 ということで、いい場所にござを敷いて、夕方になるのを待つのだ。
「どうせ、新入社員が会社にいたって、仕事にはならない」
 ということかも知れないが、これも完全なパワハラであった。
 今の時代は、そんなことは許されない。
 女性社員などに対しての態度もデリケートになった。
「そろそろ結婚してもいい時期だよね?」
 などというのも今ではアウトだ。
 昔であれば、普通の世間話だったはずである、
 さらに、
「いい人紹介しようか?」
 というのも、アウトだろう、
 もちろん、本当に真剣に紹介しようという縁結びのような上司がいれば別だが、それでも、会社で話すことではないだろう。
作品名:平均的な優先順位 作家名:森本晃次