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元ソーリ暗殺未遂

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「これが証拠だ」
 といって、突き詰めれば、白状するかも知れない。
 しかし、相手にだって弁護士くらいはつくだろう。弁護士くらいであれば、これくらいのことを言われても、
「こんなものは、証拠能力も何もない。もし、白状させられても、裁判でひっくり返すこともできるし、警察の行き過ぎ捜査ということで、こっちの追い詰める作戦にも持っていける」
 というだろう。
 そういう意味では、警察の捜査で犯人が自白したとしても、簡単にはいかない場合もある。
 検察や刑事の方でも、
「何しろ、犯罪が、元首相の暗殺ということなのだから、一筋縄ではいかないだろう」
 と思えるのであった。
「警察の行き過ぎ尋問」
 であったり、
「状況証拠だけで、犯人を自白に追い込んだ」
 ということが、被告側から聞かれると、
「裁判官の心証が悪くなる」
 ということが分かっているだけに、警察官は、状況証拠しかない時の尋問は気を付けなければいけない。
 当然、検事の方も、それくらいのことは分かっているので、
「行き過ぎ捜査」
「自供による起訴」
 というものには敏感である。
 昔であれば、
「自白というと、これ以上の証拠はない」
 といわれていたが、今では、
「警察側の自白強要をすぐに疑われ、裁判でひっくり返ることも少なくない」
 昔の刑事ドラマなどで、
「落としの○○さん」
 などという、自白強要のエキスパートは、今の時代にはいらないということだ。
 ドラマなどでは、かつ丼を出して、家族の話をしたりする情に訴えるというやり方。さらには、拷問に近い形で、ライトを顔に近づけたり、座っている椅子の足を蹴ってひっくり返らせたりなどというのは序の口で、髪の毛を掴んだり、胸倉を掴んで、壁に頭を叩きつけたりという、
「ほとんど拷問」
 のようなことがあったが、今では拷問でしかない。
 そんな警察署に、一人の男性が自首してきたのは、事件が起こって5日目のことだった。
 K警察署の刑事、桜井刑事は自首してきたという男を見て、
「これが、あの防犯カメラの男?」
 とビックリしたのだ。
 顔は確かに似てはいるが、雰囲気が想像していたのとは、かなり違う。
 どこか重厚な、まるで重戦車のような雰囲気が漂っているのに、実際の動きは俊敏で、いかにも、
「防犯カメラに映っていても、俺のことは分からないだろう」
 といわんばかりである。
 実際に、その男が映っているシーンを見たが、それこそ、カメラ目線で、こちらを見ながら、
「お前らに俺が捕まえられるなら捕まえてみろ」
 といわんばかりの自信あふれた様子に見えたにも関わらず、出頭してきたこの男は、
「まわりをキョロキョロ気にするタイプで、人の目が気になるといわんばかりに、完全に小さく閉じこもっていた」
 刑事が、早速取り調べを始める。
 まずは、名前と住所、生年月日、職業などの基本データを聴いていたが、これといって、あらためて気になるところはなかった。
 名前は、
「津山義彦」
 と言った。
 職業は無職で、年齢は28歳だという。
 無職というのは、最初からニートだったわけではなく、大学を卒業してから、コンピュータ会社に2年ほど勤めたが、身体を壊して2年で退社し、今はアルバイトなどをして、生活をしているということであった。
 K市内にて、一人暮らしをしていて、1DKのアパートで、細々と生活をしていた。
 だが、最近になって、飲み屋で知り合った人の世話で、今はその人の家に引っ越すかどうか、考えているようだった。
 その人からは、
「来てくれよ。お前がいると寂しくないから」
 と言ってくれているというのだが、まだ、今は一人で暮らしているという。悪い条件ではないので、引っ越しも考えているということだが、今は時期を考えているということであった。
「津山君は、なぜ、山根元ソーリを殺そうと思ったんだね?」
 といわれると、完全に言葉を失ってしまった。
 本人は、一念発起、勇気を振り絞って自首までしてきたのだから、それなりの覚悟があってのことだろうに、それをいまさら、何黙り込んでしまったというのだろう。
「じゃあ、君は、政治に関して、何か、山根元ソーリのことで嫌なことがあったのかい?」
 と聞かれたので、
「いいえ、そんなわけではありません。どちらかというと、山根元ソーリのことは嫌いではありませんでした」
 というではないか?
「それなのに、殺そうとしたんだね?」
 と聞くと、また黙り込んでしまった。
 ひょっとすると、殺そうとした場面をフラッシュバックさせることが恐ろしいのかも知れない。
 そんな相手に無理に突っ込んだ話をすると、せっかく話をしようとして来てくれた相手を、さらに頑なにしてしまいそうで、
「脅かすことだけは、やめにしておこう」
 と、桜井刑事は考えたのだった。
 見るからに、小さく見えるその男は、年齢を28歳と言ったが、雰囲気でいくと、まだ大学生といってもいいくらいであり、たぶん、取調室はおろか、警察署自体にほとんど来たことがないのかも知れない。
 もっとも、来るとすれば、運転免許を持っていれば、
「免許の更新」
 ということで来るくらいではないだろうか?
 もっとも、ゴールド免許の人しか来れないだろうから、結構確率としては、低いのかも知れない。
 黙り込んでしまった津山だったが、もちろん、彼が自首してきたということで、捜査がストップしたわけではなかった。
 彼の足取りはもちろんのこと、他の犯人も視野に入れての捜査も並行してなされているのだった。
 政治家、しかも、元ソーリの襲撃という事実は、当然のことながら、世間に衝撃を与え、その注目度も大きかった。
 このソーリに対しては、世間で賛否両論は大きかった。
「外交面での成果は素晴らしかった」
 という人もいれば、
「疑惑は多いし、世界的なパンデミックの時の対応の遅さはひどいものだった」
 といって、批判しかない人もかなりいた。
 正直、このソーリが死んだ時、
「襲撃されてかわいそう」
 という人が結構いたのも、事実だった。
 選挙においても、
「お涙庁代表」
 とでもいえばいいのか、ただ、それでも生き残ったことで、そこまでの騒ぎにはならなかったのだ。
 ただ、世界的には大いなる衝撃だった。
 というのも、
「日本という国は、そんなに簡単に襲撃が成功する国なのか?」
 ということも言われたのだ。
 日本としては、
「殺されなかっただけでも、警備が徹底していたからで、警備のおかげといってもいいのではないか?」
 と、警察は思っていた。
 もちろん、それは、上層部の一部のお花畑連中であって、それ以外の人は、
「やはり襲撃を受けた時点で、警備の負けだよな」
 ということである。
 当然、警察でも、SP側も、
「こんな不名誉なことを二度と起こしてはいけない」
 ということで、警備計画のさらなる検討を進めていたというのも事実である。
 自首してきた津山であるが、会社を辞めた理由というのを、彼が勤めていた会社に事情を聴きに行った時、会社側では、何やら、奥歯に何かが挟まったような言い方で、
「明らかに何かを隠している」
 というのが伺えた。
作品名:元ソーリ暗殺未遂 作家名:森本晃次