元ソーリ暗殺未遂
と言いだしたことだった。
この弁護士は、
「自分の好みの事件しか引き受けないことで有名で、しかも、自分の身近な人は私情が入るからあまり弁護はしない」
ということで有名だったという。
それなのに、
「どうして今回は、自分から申し出たのか?」
ということで、事前に、殺害された被害者と、弁護士の関係について探っていたのである。
その弁護士は、最近、上司の娘との婚約が決まり、その時、上司から、
「身辺はキレイにしておくように」
といわれたという。
たぶん、この弁護士のことは、ウワサからなのか、それとも性格的なものなのか、女遊びがあることは分かっていたのだろう。
ただ、上司としても、
「女遊びを否定はしないが、自分の娘婿には、きれいでいてほしい」
という親心は当たり前のことであろう。
それを考えると、
「この弁護士が一番怪しいというのは、もう決定的だった」
だから
「容疑者を、この弁護士だ」
ということで見ていると、ドラマも面白くなる。
最初に犯人が誰なのかということが分かっているからこそ、
「犯人を追い詰める刑事」
というのが、引き立つということである。
そんな時、もう、本当であれば、これだけ、
「法曹のプロ」
が集まっているのだから、犯人が誰なのかくらいは、分かりそうなものなのだが、それでも、
「裁判というものの形式」
を守ろうということなのか、変に取り乱すことなく、裁判官は、厳粛に対応していた。
だが、ここで、本来なら、冷静沈着なやり方で、被告を無罪に持っていくはずの弁護士が、完全に浮足立っているのだった。
そのうちに、何でもかんでも被害者の悪いところばかりを並び立てるのだった。
そもそも、この弁護士は、一度被告に、
「ウソをつかれていた」
いや、性格には。
「ウソを付けれたわけではなく、本来であれば、弁護士が知っておかなければいけないこと」
というものを隠していたのだ。
というのか、それだけ、この男は刑事でありながら、、
「情けない刑事」
だったのだ。
そんな状態で、弁護士が取り乱したように、被告の不利になることを口走手いたが、さすがに裁判官がビックリして、
「弁護人、あなたは、被告の権利のために、そこにいることを忘れないように」
と諭すシーンがあり、やっと冷静に戻ったのだ。
だが、弁護士がここまで必死になっているということは、
「いよいよ自分が危ない」
ということが分かってきているということであった。
そんな状態で、当然、弁護士も、
「自分が疑われている」
ということは、分かっているはずだ。
どのあたりからヤバイと思い始めたのかは、ドラマを見ている限りでは分からないが、結構最初の頃から分かっていたのかも知れない。
そして、最後に刑事が犯人は、その弁護士だといい当てると、弁護士は、完全に観念した。
そこで、刑事は弁護士にいった言葉が印象的だったのだが、
「あなたは、被告となった彼を、利口ではないので、簡単に操れると思って被告に選んだんだろうけど、彼は、あんな感じではあるが、自分の周りに来た相手が、敵か味方かということには、結構敏い性格なんだよ。だから、まるで動物の本能のように、ヤバいやつというのは、分かるようになっていて、その拒否反応というのは結構すごいんだよ。だから、あなたも、彼にいっぱい食わされたと思ったことも何度かあったんじゃない? それとも、こんなつもりではなかったはずだと思ったこともあるはず。つまりはあなたが、犯人に彼を選ばなければ、もっと他の人を選んでいたとすれば、私もここにはいなかっただろうし、彼に無意識のうちに、ペテンに引っかかるということもなかっただろうから、今頃、あなたの思った通りになっていたかも知れない」
というのだった。
「そうか、それが私の一番の失敗だったか」
といって、しばし考えていたが、
「そうでもないかもですよ?」
と彼が言った。
「どうしてですか?」
と優秀刑事がいうと、
「今から手っ取り早く司法試験を合格してください」
と弁護士がいう。
「どういうことですか?」
と刑事がいうと、
「あなたが、私の弁護をするんですよ。あなたなら、きっと私を無罪にしてくれるはずですからね」
というと、刑事は、手で、
「お手上げ」
の恰好をして、諦めの態度を取っていた。
何も言わないのは、とてもつらいことだった。
「まあ、しょうがないか」
といって、ドラマは終わったのであった。
そんなドラマを思い出しながら、
「今回の弁護士は、どんな奴がくるのだろう?」
と考えるのであった。
ある投書
津山の弁護士がやってきたのは、自首してきた翌日のことだった。
どうやらやり手の弁護士のようで、名刺を貰うと、そこには、
「弁護士:黒川」
と書いてあった。
黒川と名乗る弁護士は、見た目は普通の弁護士であったが、話を始めると、どこか、恐怖を感じるところがあった。
急に、何をいうか分からない雰囲気になり、弁護士は黙ってしまった。何かを考えているのだろうが、こちらからは、まったく何を考えているのか分からず、
「まるで雲をつかむようだ」
と思わせた。
少なくとも、
「やり手弁護士」
というわけでもなく。ドラマの敏腕弁護士という感じでもなかった。
まあ、あの弁護士の場合は、普段の弁護力には長けていたが、犯人としては、相当抜けていた。
それも、弁護士としての自信が、どこか邪魔になったのだろう。
それを思うと、
「あの俳優がうまかったんだよな」
と考えさせられる。
そう思って、今回の津山の弁護士も、ドラマにもいるような感じであり、どちらかというと、人を煙に巻くタイプの人で、まったく、
「食えないタイプだ」
ということではないだろうか。
この弁護士を見ていると、どこか二重人格的なところがあり、弁護士としての仕事をしている時は、輝いているタイプではないかと思ったのだった。
だが、話をしてみると、どこか抜けているのだ。
それを甘く見ていると、こちらを沼に嵌めるかのようで、嵌ってしまった沼から、抜けられないこちらを見ながら、容疑者と二人で、初めて本性を現して、その上から目線の恐ろしさに、
「一番バカだったのは、俺たちじゃないか」
と思うことで、初めて、弁護士の恐ろしさを思い知らされる気がする。
「弁護士というと、依頼人を守るためなら、人殺しだって平気でするくらいの心構えを持っているのかも知れない」
と思うのだ。
確かに弁護士というのは、
「何をおいても、依頼人の利益を守るのが、弁護士だ」
ということである。
そういう意味で、
「依頼人」
という言葉は、
「何気に最強なのではないか?」
と思うのだ。
探偵だってそうではないか。
「依頼人裏切ったら、尾張なんだよ。この世界」
というセリフも聴いたことがある。
「殺し屋」
だって、依頼で人を殺すのだ。
依頼人が、
「殺せ」
といえば、相手が、大統領だって殺そうとするだろう。
それだけ依頼人というものは、依頼を受ける人間に絶対的な優位性があるのだろう。