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パンデミックの正体

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 タイミングがいいことに、二人が結婚する少し前に辞めた看護婦がいたのだが、二人阿時々、カラオケに行っていたという。
「あの頃は看護婦という仕事のストレスを発散させるために行っていただけなんだけどね」
 と言っていたので、
「ストレスがあっただね」
 というと、
「当たり前よ。私が、ノーストレスで仕事をしているとでも思っていたの? どんなに好きな仕事であっても、自然とストレスというのはたまるものなのよ。むしろ、好きな仕事ほどそのことに気づかないから、疲れやすいというような勘違いをしてしまいがちになるのよね」
 というではないか。
「そうだよね。済まなかった。きっと俺もそうなんだろうけど、気付いていないだけだったのかも知れないな」
 と若先生がいうと。
「そうよ。その通り。だから、あなたのような人ほど何か趣味を持つのはいいことなんだろうと思うわよ」
 というと、
「まあ、医者仲間と時々ゴルフには行っているけどね」
 と若先生がいうと、
「確かにゴルフもいいかも知れないけど、それだけは本当のストレス解消にはなってないわよ。だって、ゴルフ仲間というのは、仕事に直結している相手でしょう? 趣味に高じる目的としての、気分転換に、完全にはなっていないような気がするのよね」
 と奥さんはいうのだった。
「それもそうだ」
 といって、若先生も何か趣味を探してみたが、見つかるものでもなかった。
 若先生が、家に帰るというのは、実は前々から考えていることだったようだ。
 そもそも、今の大学病院に勤めているのも、自分では、
「家を出た」
 とは思っていなかったのだ。
 どちらかというと、
「いずれは戻るのだが、それまでの、経験値をたかめるため」
 というのが、本当の理由だった。
 だから、結婚を考えた時、奥さんには、最初から、
「いずれは実家に戻って、親父を助けながら、病院経営をしていこうと思う」
 といって、奥さんを説得しようと思ったが、奥さんの方も、
「それはいいことね。私もあなたに先のビジョンがあることには賛成だわ」
 といって、最初から納得してくれているようだった。
 それを聴いて若先生も納得し、
「そういってくれると嬉しい」
 といって、二人はこの件に関しては、スムーズに落着したのだった。
 そんな二人が実家に戻ってくると、家族三人、うまくいっていた。
 そもそも、若先生が、本気で実家に戻ろうと思ったのは、若先生がインターンとして大学病院に通い始めて3年目のことだった。
 その頃には、
「いずれは実家に戻って」
 ということは、そこまでハッキリとしたビジョンではなかった。
「いつまでも、インターンでもないよな」
 と大学病院というものに、どこかやりがいを見失っていたからだった。
 大学病院というところは、
「論文を発表してなんぼ」
 というところであった。
「患者を治す」
 という医者としてのポリシーとは少し違っていて、
「なるほど、将来的に医学会の発展という意味では、研究は大切なことである。医療や薬学というところで、将来を切り開くということでの仕事だと思えば、それはそれでやりがいは感じられる」
 というものだった。
 しかし、実際にやってみると、どうにもしっくりとこない。
「俺には不向きなのかな?」
 とも考えるようになり、それ以上に、
「一度疑問を呈してしまうと、一気に考えが後戻りしてしまう」
 という悪い癖が彼にはあった。
 だから、なるべく、ポジティブに考えていなければ、一気に戻ってしまうと、それだけの時間がまったく無駄だったということになり、そう感じることが一番の苦手なことだということになるのだった。
 そういう意味では、奥さんは、若先生の、
「操縦方法」
 をよく理解していて、
「お互いに、補える部分を補う」
 という、最高のカップルでもあったのだ。
 実家に帰ってきてから二人を見ていた老先生も、そのことはよくわかったようで、二人が戻ってきてくれたことに、一点の曇りも疑いもなかったのだ。
 だから、奥さんが、時々でかける、
「趣味のカラオケ」
 も、老先生は嫌な顔はしない。
 若先生から、
「俺が勧めたんだよ」
 というと、
「おお、そうかそうか。だったら、それでいいんだ」
 と、
「もし、息子の知らないところで勝手にやっているのなら問題だよな」
 と思っていたが、
「この夫婦のことだから、最初から納得ずくだったんだろうな」
 というのは、周知のことであったのだ。

                 違法性阻却の事由

 そもそも、若先生が戻ってくるきっかけとなったのは、
「母親の急死」
 だったのだ。
 その頃まで、
「結婚も、家に帰るというのも、頭の中で描いていることではあったが、そのタイミングに関しては、分からない」
 というのが、本音だった。
 母親は、交通事故に遭っての、即死だったということであったが、苦しむところを見ることはなかったので、まだよかったのだろうが、父親には、心の準備ができていないだろうということで、そこが一番気になっていたのだった。
 案の定、父親はずっと放心状態だった。
 実際には、すぐに病院を再開し、今までどおりに患者を診ていたが、一人になった時の様子は、
「見ていられないほどだ」
 と、老先生をよく知る近所の人は、
「老先生も心労で倒れたりしないだろうか?」
 と心配していたようだ。
 その証拠に、見るからに、
「負い方が激しい」
 と言われるようになり、実際に、腰の痛そうなところや、髪の毛の白さなどは、その苦しみが、
「見ているだけでは分からないものがあるに違いない」
 とまわりを心配させるに十分だったのだ。
「そんなにひどいのかな?」
 とその話を伝え聞いた若先生は、その時に、タイミングというのが、
「今でしょ」
 とばかりに感じたというのだ。
 その時、奥さんにプロポーズをして、まずは、結婚からだというのが、最初だった。
 結婚相手に関して、父は何も言わない。
「お前が選んだ相手だからな」
 というだけだった。
「かなり重症なのかな?」
 と思ったが、父親の気持ちとしては、誰もが思っていることをいったまでのこと、
 逆に母親がいないことで、父親も余計なことを考えないという、角が取れて、丸くなってきたようだった。
 結婚してから、実家に戻ってくるまで、結構バタバタだったのだが、結婚から実家に戻るまでに少し時間が掛かったのは、
「大学病院を辞めるのに、少し時間が掛かった」
 というのが理由だった。
 というのも、ちょうど研究していたことを、自分一人でやっていたわけではなく、プロジェクトを組んでいて、最初は、個々で研究し、それを持ち寄って一つの学説につなげるというもので、その研究内容を引き継ぐ必要があったのだ、
 その引継ぎがうまく進めたとしても、少しは時間が掛かるというもので、特に若先生の進めているところは、結構時間がかかる厄介なところでもあったのだ。
 研究所の責任者からは、
「君を失うのは、非常にきつい」
 といってくれていたが、正直どこまでが本音なのか、よくわからなかった。
 確かに、難しいところを研究しているのは、分かっていることであったが、
作品名:パンデミックの正体 作家名:森本晃次