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パンデミックの正体

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「人を使う」
 というところでの責任者としての立場はよく分かっていなかったのだ。
 だが、
「俺がやっているところというのは、厄介なところだ」
 ということは自分でも分かっていて、そこを振ってくれたのだから、
「よほど期待してくれているんだ」
 ということは、分かっているつもりであった。
 それでも、何とか大学病院を辞めて。実家に帰ってくると、思った以上に、父親の生活が堕落していることに驚かされた。
 料理することもない。
 洗濯はコインランドリー。
 部屋の掃除はおぼつかない。
 そんな状態だったのだ。
 病院側は、看護婦がキチンとしてくれているので、きれいになっていたが、それはそもそも当たり前のこと。
 それに仕事場である以上、医者としての仕事はしっかりしていたのだから、まだよかったのだ。
 もし、仕事もできないようだったら、
「生きる屍」
 だったといっても過言ではないだろう。
「本当にキレイになっている」
 と若夫婦は、病院側を見ると感じた。
「あんな自宅部分を見せられたら、どんなところでも、マシに見えるわな」
 とそれぞれ思っていたが、さすがにそれを口に出すようなことはできないと思ったのだった。
 そういう意味で、
「看護婦がよほどしっかりしているんだろうな」
 と思ったが、まさにその通りだった。
 その看護婦は、葬儀の時もしっかりしてくれていた。
 半分、放心状態の父親を尻目に、彼女が一人切り盛りしていた。
 父親は、喪主というだけで、それ以上でもそれ以下でもなかったのだ。
「私たちもお手伝いします」
 と、まだ結婚もしていなくて、一度両親には、
「結婚を前提につき合っている」
 といって話をしたことがあったが、その時に、一度看護婦とも会っていた。
「しっかりしていそうだな」
 とは思ったが、ここまでのやり手だったとは、思いもしなかったのだ。
 年齢としては、まだ、30代後半くらいだろうか、ちょうど、若夫婦から見れば、
「少し年の離れたお姉さん」
 と言ったところだろうか?
「どこかお母さんに似ているんだよな」
 と、いつもニコニコと、まわりを暖かくするタイプの女性なのだが、
「決めるところはしっかりと決める」
 という毅然とした態度が取れる女性だといってもいいだろう。
 父親には、
「彼女のような人がいてくれるのは安心だけど、やっぱり二人では、心配なことに変わりはない」
 と若先生は言っていたが、奥さんも、
「そうよね」
 と相槌を打つのだった。
「やっぱり帰ってきて正解だったよな」
 と、言って、病院側と家庭側で、それぞれ若奥さんと、看護婦がいてくれることがこの病院にとっていかにいいことなのかということが分かるのだった。
 奥さんが亡くなってから、半分、腑抜けのようになっていた老医師も、仕事の時だけは、一生懸命に働いていて、
「働いている時だけは、妻がいないことを忘れられる」
 という意識で、却って、医療にのめりこんでいるような感じだった。
 看護婦もそれを分かってはいたが、
「私に何かできるわけでもないので」
 ということで、しょうがなかったのだった。
 そんな時に、若先生が帰ってきたのだから、看護婦としても安心だった。しかも、若先生夫婦と、老先生の仲がいいのは、
「願ったり、叶ったり」
 ということであろう。
 だが、そんな病院であったが、最近、老医師が少し疲れてきているのが見受けられた。何かに悩んでいるというのか、本人とすれば、
「妻が亡くなって、腑抜けのようになった時期もあったが、いいタイミングで息子たちが帰ってきてくれて、それなりに、順風満帆のはずなのにな」
 と、老医師本人は思っていた。
 何も悪いことなどないはずなのに、心の中にポッカリと、穴のようなものが開いているのだ。
「やはり、妻がいないからかな?」
 と、以前のような腑抜けから抜け出しているにも関わらず、いまだに自分が理解できない老医師は、心の奥に何か詰まったものを感じるのだった。
 そんなことを、老医師が感じているということを、まわりの人は誰も分かってはいないだろう。
「最近、お義父さん、元気になってよかったわね」
 と、若奥さんがいうと、
「ああ、そうなんだよ。親父は思い詰めると、とことんまで思い詰めるところがあるからな」
 と若先生がいう。
「そう、そんな風には見えないけど?」
 と言われ、
「そうだろうな。俺も子供の頃には分からなかったさ。だけど、お母さんは分かっていたようで、時々、お父さんがまた何かに悩んでいるようだわということを言っていたんだよ。子供心に、お母さんが何を言っているのか分からなかったんだけど、今ならその言葉の意味が分かる気がするな」
「それは、一度表に出てから戻ってきたから?」
 と、若奥さんは、若先生の気持ちが分かっているかのように、さも、
「分かって当然でしょう?」
 と言いたげに聞いたのだった。
「ああ、そういうことなんだよな。お父さんというのが、どういう人なのかということにやっと気づいた気がするんだ」
 と、若先生は言った。
「お義父さんがそんなに、悩みの深い人だったとは、ちょっと意外だったけど、言われてみれば分からなくもないわね」
 と、若奥さんは言った。
 若先生も、彼女が何を言いたいのか分かってはいたが、
「どういうことなんだい?」
 と、あらためて聴いてみた。
「だって、あなたを見ていれば分かるもん」
 とばかりに、若先生が想像していた、
「一語一句と変わらない言葉」
 と同じだったのだ。
 それを思うと、
「ふふふ」
 とほくそえむしかなかった。
 苦笑いとまではいかないが、認めなければいけないということとしての態度を考えると、「この態度をとるのが、一番自然だ」
 ということになるのだろう。
 それを思うと、
「俺たちって、想像していたよりも、お似合いの夫婦なんじゃないだろうか?」
 と思い、再度、ほくそえんでいるのを見て、
「何よ」
 と彼女は冷やかすが、それは、若先生が、
「思い出し笑いでもしているのではないか?」
 と若奥さんが感じたからではないだろうか。
 若奥さんは、夫婦仲に関しては、
「可もなく不可もなく」
 だと思っている。
「そもそも、どこからが、合格ラインなのか?」
 ということが分からない。
 というよりも、
「それを分かるというのは、傲慢なのではないだろうか?」
 と思っていた。
「終わってみれば、可だった」
 というのが理想であり、むしろ、
「分かっていないという方が、ふさわしい」
 ということではないかと思うのであった。
 つまり、
「分からないからこそ、夫婦生活は面白いのだし、分かったからといって、自分に合う合わない、さらには、できるできないというものがあるのだろうから、一概には言えないのではないか?」
 と考えるのであった。
 そういう意味では、若奥さんは、結構あっさりと、しかも、深いところで考えているようだ。
「冷静沈着」
 と言えば聞こえはいいが、
「冷徹人間」
 といってしまうと、身も蓋もないといってもいいだろう。
 ただ、若奥さん自身は、自分の本性を、
「冷徹な人間だ」
 と、思っているようで、だからこそ、
作品名:パンデミックの正体 作家名:森本晃次