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パンデミックの正体

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「老先生が、決してこの話をしない」
 からであった。
「そもそも、鈴村美亜という女の子は、親父を慕ってくれていたはずなのに、その親父が美亜の話をしないというのは、何かある」
 ということだったのだ。
 若先生は、奥さんとこの話をした時、
「親父は頑固なところがあるんだよ」
 という。
「どういうことなの?
 と、奥さんがいうと、
「親父は、話をしたくないことに関しては、本当に一切話そうとしない。本当であれば、したくない話であっても、気になるということは結構あるはずなので、それをしようとしないということは、それだけ、気になっていても、話してはいけないことがあるのだろうから、余計に、何も言えなくなる」
 というのだった。
 もし、老先生がそれでも、聞かなければいけないと思った時は、それだけ、その時に起こった事件がセンセーショナルなものなのだろう。
 逆に、老先生が余計なことを言わなくなった時は、何があったか気になるところではあるが、それ以上に相手に気を遣ってのことなのか、それとも、相手を刺激しようと思わないことなのか、とにかく、相手にリスペクトしているのか、逆に、それだけ恐れているのかということになるのだろう。
 ということであった。
「親父が素村美亜という女の子と、どういう辛みがあったのか分からないけど、そのことも重要なのかも知れないが、彼女との間に溝ができたのか、逆に、大いに関わってしまうことができたのか、分からないけど、梶原先生から聞いた話では、彼女はちゃんと生きているということだったので、それでも親父が何も言わないということは、それだけ彼女との間の何かが気になるのだろうな」
 ということであった。
 その時、奥さんとは、そのあたりで話を終えたのだが、それ以上に今度は、梶原先生との話の方が厄介だった。
「美亜が毒を煽って自殺未遂をした」
 ということは事実として聴いた。
 ショックは残るかも知れないが、命に別状はない。
「彼女に一体何があったというのだろう?」
 ということが問題だったのだ。
 それを考えると、若先生は、彼女のことを実はほとんど知らない。ただ、
「親父の患者だ」
 というのは分かっているだけで、少々の精神的な悩み相談くらいには乗っていたということも分かっていたのだった。
「娘のような感覚なのかな?」
 とは思ったが、娘としては、年が離れすぎている。
 父親は、奥さんともそこまでハッキリ話ができるわけではない。
「話題についていけない」
 というのが正解であり、しかも、若い人に話を合わせるのが苦手なタイプだということは分かっていたのだ。
「だから、美亜という少女と話が合うということは、それだけ美亜が、年寄り受けをするのか、それとも、親父のツボに入っているということなのか?」
 ということを考えさせられてしまうのだった。
 お互いに、気まずさもあったので、それぞれの病院から離れたところで待ち合わせをするようにした。少し都心部の方がいいというとことで、しかも、都心部に近いところでの待ち合わせになった。
 もちろん、このことは親父に話せるわけもないし、奥さんにだけは、話をしておいた。
 奥さんからは、
「あまり深い話になったら、余計なことは言わない方がいいわよ」
 といわれたので、
「うん」
 といって頷いていたが、
「深い話になったら、少しは突っ込まないと、話が成立しないということで、敢えて話をし始めれば、突っ込んだ話になることは必至だ」
 と思うのだった。
 そのせいもあってか、待ち合わせで出向いた時、いつもであれば、
「予備知識くらいは自分の頭の中に入れておこう」
 と思うのだが。この日は、そんな気分にはなれなかったのだ。
 というのも、
「下手に先入観を植え付けてしまうからだろうな」
 と感じたのだが、その理由というのが、
「父親が、渦中の人として絡んでいるからだ」
 ということであった。
 それも、分かっていることが最初からもっとオープンになっているのであれば、まだ分かるのだが、実際に考えてみると、自分があまりにも知らないことが多すぎるということからであった。
 実際に、父親と、美亜という少女が、どれほどの話をしているのかも分からないし、それは自分が子供の頃から、そんなに父親からかまってもらえる子供でもなかったということ。
 かといって、構ってもらえなかったことを恨んでいるわけでもないし、それよりも、逆に、
「構われないで放っておかれることの方が気が楽だ」
 ということを教えてくれたという意味で、ありがかたったといってもいいだろう。
 それを思うと、
「美亜という少女が女の子である」
 ということが逆に気になるのだ。
 どちらかというと、
「親父は朴念仁だ」
 と思うところがあった。
 それは、母親がいたから、うまくバランスが取れていたというのもあるだろう。
 間違いなく、両親は愛し合っていたし、愛し合うということよりも、もっと別の意味での結びつきもあったということが分かっていた。
 それが、
「男女の間の友情」
 というものだろうか?
 と感じた。
 そもそも、
「男女の間に、友情などあるのだろうか?」
 と思うのだが、若先生にはないと思っている。
 というのは、
「夫婦としていいパートナーに出会えた場合、そこに、友情などというものが存在するというのは、ありえない」
 と思うのだ。
 だから、余計に、他のカップルの中に、友情というものがあるとすれば、それは、夫婦という意味では成立しないと思うのだ。
 そうなりと、別れは必須である。
「夫婦だって別れる時は別れるじゃないか」
 といわれるが、
「別れない場合」
 もあるというわけで、ただ、友情というものは、必ず別れが訪れると思うのだ。
 それは、男女間だからであって、同性同士であれば、絶対に別れることはないだろうと思うのだ、
「男女の友情は、別れが前提だ」
 ということになるのであれば、そもそも、男女間での友情など、絵に描いた餅であり、存在しないのではないかと思えるのだった。
 梶原先生と面会した若先生は、主に話として、もちろんのことであるが、美亜という女の子がどういう女の子なのかということを聞きたかったことと、毒薬についても聞きたかったようだ。
 一人の中学生の女の子が毒薬など、普通持っているわけもなく、それを所持している場合であれば、かなり限られていると思ったからだ。
 かといって、梶原先生は刑事でもないし、そんなことを知ったからといって、何かの特になるわけでもない。せめて、
「美亜と、どう接すればいいのか?」
 ということが分かるだけのことであった。
 しかし、美亜がどういう女の子なのかということも、ほとんど彼女と接しているのが、父親なだけに、分かるはずもない。
 だから聞かれた時も、
「申し訳ないんだけど、俺は、彼女のことをほとんど知らないんだよ。昔からの患者さんは、親父が見ることが多いからね。特に昔小児科として見ていた子は、彼女に限らず、俺はほとんど知らないんだよ」
 という。
「ところで、美亜ちゃんというのは、自殺ということを聞いているけど、本当にそうなのか?」
 と若先生が聴いたが、
作品名:パンデミックの正体 作家名:森本晃次