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パンデミックの正体

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「運がよかったと一瞬思い、助かったと感じたことで、有頂天になったかも知れないが、次の瞬間、助からないと悟ったことで、天国から地獄に叩き落され、実際に助けられることもなく死んでいくのだ」
 と考えると、
「これも、最後は、運が悪かったと思うしかないのだろう」
 ということになるのである。
 つまりは、
「違法性阻却の事由」
 に対しては、感情などが入ってしまうと、原告側の気持ちが収まらないということになるかも知れないのだ。
 下手をすると、
「仇討」
 とでもいうような、
「報復行為」
 になってしまうかも知れない。
 もちろん、日本ではそんなことは認められているわけではないので、許されないことであるが、感情論に入ってしまうと、それも致し方のないことなのかも知れない。
 そういう意味で、昔から、
「報復行為というのは、まるで合わせ鏡のように、半永久的に続いていくもので、決してその気持ちは消えることはない」
 と言われているのではないだろうか?
 そういう意味で、
「人間というのは、どこまで冷静になれるか?」
 ということが大切であり、時には冷徹な場合もあり、冷徹な判断が、正しかったと後から思えば言えることがかなりあるだろう。
「やり切れないよな」
 と思うことも結構あり、
「それはそれで仕方がないだろう」
 といえるのではないだろうか?

                 イシダ病院

 年を取れば取るほど、
「年を重ねるとはよく言ったもので、まわりが見渡せるようになるものだ」
 と言われる。
 それは、それだけ冷静になって物事を見ることができるということなのだろう。
 それを思うと、
「老先生は、いい年の取り方をしたのだ」
 といえるだろう。
 実際に、今から10年くらい前までの老先生は、今のように人間が丸かったわけではない。
 冷静ではあるが、
「冷徹な部分が見え隠れしていた」
 と言われているが、それは、
「冷静になろうとしているのに、実は冷徹になっているからではないだろうか?」
 と言われていたのだった。
 だが、ある時から、急に
「老先生は、丸くなってきたな」
 と言われ出したのだ。
「少なくとも奥さんが存命中には、そんなことはなかったな」
 という人がいて、
「それだけ、奥さんの死は、老先生の中で見えずに潜んでいたものがあるのか、それが表に出てきたのではないか?」
 と言われるようになってきたのだ。
「やっぱり、若先生夫婦が帰ってきたからじゃないか?」
 と言われることが増えてくると、
「そうだそうだ。きっとそうに違いない」
 とまわりは、口々にそう言っていた。
 一町医者が、ここまでまわりから気にされるというのは、老先生が、いい意味で、
「昔から、この街の象徴のようなところがあったからかな?」
 という人が増えてきたようだった。
「やっぱりこの街の象徴として、イシダ病院は、欠かせないものだったんだろうな」
 と言われるようになってきたのだ。
 老先生は、本当に丸くなったのは、
「奥さんがしっかりしていたからだろうな?」
 とウワサをしている人もいた。
 確かに、
「奥さんが亡くなったことで、放心状態になり、何も手につかない状態ではあったが、奥さんは、いつも先生にいろいろやらせていたからな」
 という人がいた。
「どういうことだい?」
 と聞かれて、
「普通だったら、奥さんがいれば、奥さんが何でもするだろう? だけど、あの奥さんは、ずっと一人でやってきたことを最近、老先生にもやらせて、一緒にするという感じだったんだよね。最初の頃は、それが楽しみなのかと思っていたけど、先生にもやらせて、覚えさせていたんじゃないかって思うんだよ」
 というので、
「まるで奥さん、自分が死ぬことを予感していたみたいじゃないか?」
 と聞かれて、
「そうなんだよね。先生はそう思っているようなんだ。先生は、奥さんと一緒にするようになった頃、冗談で、あいつは自分が死ぬのを予感しているようじゃないかって言っていたって笑ってたよ」
 というので、
「えっ? あの先生、そういうブラックユーモアを言えるんだね? じゃあ、そのせいで奥さんが亡くなったと思って。自戒の念に駆られているということかな?」
 というと、
「いやいや、そんなわけでもないようなんだ。先生は決して、後悔しているわけではないんだ。ただ、奥さんがいなくなったことに素直にショックを受けているだけだと思うよ。だから、いきなりショックから立ち直るんじゃないかと思うんだよ」
 というので様子を見ることにしたのだ。
 だが、その時、一緒に、
「奥さんが死を予見していたのは、ウソじゃないかも知れないとも思うんだよね?」
 というので、
「どうしてですか?」
 と聞くと、
「だって、あの奥さん、断捨離のようなことを始めたんだって、先生言ってたからね」
 というので、
「断捨離? あの若さで断捨離って。ただ単に整理をしていただけなじゃないのかな?」
 と聞く。
「いやいや。あの奥さんは、逆にそういう冗談は嫌いなタイプだったんだよな。だから、先生は、奥さんのことを、たまに、あいつが俺くらいに冗談が通じれば、もっとたくさんの友達ができたんだろうけど、でも、多いからいいという者でもない。彼女にとってはちょうどいいくらいなんだろうなって、先生は、一人でボケ突っ込みのようなことをしていたんだよ」
 と言っていた。
「あの先生なら言いかねないな」
 というと、
「そうそう、だから、先生がうまくコントロールしていたんだけど、今から思えば、本当にコントロールしていたのは、奥さんの方だったんじゃないかって思うんだよ。ただ、先生にはその意識はなかったんだろうけどね」
 という。
「確かにあの先生ならありえることだよな。でも、奥さんが、そんなに実直で律義とは思わなかった。奥さんこそ、おおざっぱな性格なんじゃないかって思っていたんだけど、気のせいだったのかな?」
 という。
「先生は、今でこそあんな感じだけど、すぐに復活するさ。昨日までのことを忘れたかも知れないというくらいの復活の仕方をするかも知れないな」
 というのだった。
 二人の会話は、どこかピントがずれているようで。案外と的を得ていたのだった。
 どこに的を得ているのかというと、その時は分からなかったのだが、一つだけ真実はハッキリしたのは、
「先生がいきなり復活した」
 ということだったのだ。
 復活した先生は、それから、仕事だけではなく、家事もしっかりやるようになっていた。
 それまでは見かねて看護婦がやってくれていたが、看護婦も、
「あの状態なら、息子さん夫婦が戻ってこないと、無理があるかしら?」
 と考えていた。
 かといって、
「自分がかまうのも限度があるわよね」
 と看護婦は思っていた。
「自分が先生の奥さんになったわけでもないし、そんな気もないし、かといって、放ってもいけないし……」
 ということで、ジレンマ状態になっていたといってもいいだろう。
 そんな状態だったものが、いきなり、
「すみません、今日から私がキチンとします」
 と言いだすではないか。
 最初は、
「ハトが豆鉄砲を食らった」
作品名:パンデミックの正体 作家名:森本晃次