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タイトルの「悪魔」

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 客に、その店の経営方針がどうのというのは、さほど関係がない。
 その店に来る時の基準として、一番は、いうまでもなく、
「品質がいい」
 ということが一番だ。
 だからと言って、すべて品質が一番を目指すわけではない。確かに、品質がいいといっても、高額であれば、買おうとは思わないだろう。
 普通の商品で、他の店と争うのなら、まずは、立地条件が必須。
「駅から近い」
 あるいは、
「駅から少々遠くても、他にいろいろな自分の好きな店が密集している、行動範囲となる場所の中にその店が存在している」
 などということが、一番の理由となるだろう。
 それを思うと、
「確かに、このあたりは、化粧品にしても、女性小物にしても、手軽ないいものが揃っている」
 ということで、若い女性に人気のエリアだったりする。
 一種の
「若者の街」
 ということで、結構賑やかなところで、夜になると、隣接した居酒屋やバーなど、若者が集うという
「夜の街」
 にも変貌するのだった。
 合コン、オフ会、マッチングアプリなどで知り合った相手との初対面の場所としても、結構ありがたがられる場所として、君臨していた。
 そんな場所がありがたく、昼も夜も賑やかだった。
 だから、このあたりがあることで、最後に残った地域も、人通りはさほど悪くはなかった。
 しかし、経営は、店によってさまざま、本当に、中心が全滅の状態で、こっちに来る人が劇的に減ったわけではない。しかし、だからと言って、人の数だけ売り上げがあるかというと、そんなに甘いものでもない。
 それを考えると、言い方を変えると、
「このあたりは貧富の差が激しかったんだ」
 ということになるのだ。
 今でも客が満遍なく入っているところは、
「生き残る店」
 であり、今の状態でも客が激減したところは、
「やっと化けの皮が剥がれた」
 というところであろう。
 その化けの皮は、店全体の雰囲気が一番大きいのだろうが、
「主犯は、経営陣か、それとも、現場の店員か?」
 ということを探ってみれば、それこそ、
「反面教師だ」
 といえるのではないだろうか?
 実際に、そんな店が、潰れていくのを見ていると、今度は、最初に取り潰した店の開店が、そろそろ待たれる時期になった。
「まもなく、新規ビルが開店する」
 ということになったのだが、それが、最初に開発に入るということで、ここを取り潰して、5年後のことであった。
 それが、いよいよ3か月後に迫った頃であった。第二次として、再開発予定となったビル、つまりは、来年くらいに、新しい店が次々にオープンすることになっている一帯が、いよいよ騒がしくなってきた。
「このあたりも、来年か」
 と、工事現場で働く人たちも、ある程度の山は越えたと思っているので、ある程度安心していた。
 季節は、初冬に差し掛かった頃の11月だっただろうか。
「今年は、暖冬なのか?」
 というほど、まだ寒さはなかった。
 もっとも、10月くらいまでは、普通に最高気温が30度を超えるという夏日があったくらいだ。
 そんなことを考えていると、まだまだ気分的には、
「夏の延長でしかなかった」
 といえるだろう。
 暑さが一段落して、少々寒さを感じる時もある。ただ例年は、この、
「三寒四温」
 と呼ばれる時期は、
「寒いのが当たり前で、暑さを感じると、植物が狂い咲きをするのではないか?」
 と思えていたのだが、逆に今年の場合は、
「いやいや、暑いのが当たり前で、寒い方が溜まらない」
 という気持ちにさせられた。
 ただ、少し考えてみれば、
「三寒四温」
 という時期がおかしいのであって、後者の方が普通に感じられるのは、それだけ、
「三寒四温というのが、おかしな時期なのではないか?」
 と思わせるということであろう。
 そんなことを考えていると、三寒四温の寒さが身に染みると、
「冬のおいしいものが恋しいな」
 と感じるようになっていた。
 確かに、駅前の屋台であったり、ちょっと入ったところの、飲み屋横丁。
 このあたりは、実は一番最初に、改築が行われた地域だった。
 あくまでも、昼の街ということでは、今度の半年後の開店が一番乗りということになるのだろうが、実際には、飲み屋街が一番だった。
 飲み屋街は、一度建て替えるからといって、客がいなくなっても、出来上がってしまうと、前きていた客が来なくなるということはない。それだけ、店員と客。客同士のつながりが深い。
「酒が結ぶ仲」
 というものは、それだけ親密なもので、皆が来てくれるのは、ありがたいことだったのである。
 飲み屋街のすぐそばのビルは、歯抜けになっているので、
「今までの圧迫感がないからいいよな」
 と、客は好き勝手言っていた。
 しかし、それも事実であり、店の人も笑いながら聴いている。
「でも、数年したら、また建つのよ?」
 と女の店員にいわれると、
「それはそれでいいのさ。どうせ俺たちは、日陰の夜中に出没するコウモリのような存在だからな」
 と一人がいうと、
「あら? コウモリってすごいのよ、目が見えない代わりに、超音波で回りが分かるんだっていうじゃない」
 と女の子がいう。
「そうだな。コウモリは、イソップ物語にあるような、卑怯なコウモリの話に代表されるように、ある意味したたかなのかも知れないな」
 というと、一人が、
「したたかではないだろう?」
 と言い始めた。
 店の女の子は、
「えっ、何々? どういうお話」
 といって興味を示す。
 酒に酔っている連中は、うんちくよろしく、
「ここはひとつ、私が講談してあげよう」
 と、講談が始まるのだった。
 その人は、うんちくが好きなようで、特に、酒が入ると饒舌になる。普段から話をするのが好きな人ではあったが、話始めると止まらないのは、やはりアルコールの影響が大きいのだろう。
「このお話は、鳥と獣が戦争をしているところから始まるんだけど、鳥に対しては、自分には羽根が生えているので、鳥だといって、そして獣に対しては、自分には、身体中に毛が生えているので獣だといって、逃げ回ったり、うまくその場を逃れたりしていたんだそうだ」
 というと、聞き手もそれなりの体勢で話を聴いている。
「だけど、戦争というのは、そのうちに終わるだろう? そうなると、そのコウモリのことが話題になるんだよ」
 と。いうと、
「確かにそうだね。平和になると、関係のないことまで巻き込んだりするしね」
 と一人がいうと、その横から、
「それもそうなんだけど、どうしても、戦争を辞める時って、何かの大義名分がないとやめられないじゃないか。ひょっとすると、ここはコウモリのせいにして、コウモリを生贄にでもしようと、誰かが企んだんじゃないか?」
 という意見も飛び出した。
 さすがにこれには、話し手も興味を示したようで、
「確かにそうかも知れない。それは確かに面白い説だね」
 といって、さらに、そこでいったん話をまとめて、先を続けた。
作品名:タイトルの「悪魔」 作家名:森本晃次