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タイトルの「悪魔」

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「はい、何か、湿気のようなものも感じたんですよ。その湿気というのが、どこからくるのか分からないんですが、気持ち悪さから、来ている服が、ピッタリ体に張り付いたような感じですね。それが、きっと汗になったんじゃないかって思うんですが、どうなんでしょうね?」
 と、最後は、受けたボールを返すつもりで、質問を返した。
「そういうことなら分かります。確かに私も、雨が降る前の日などは、そういう臭いを感じることがあるんですよ。刑事だからだと思っていましたが、他の人もそうなんですね?」
 と、今度は、浅倉刑事が返した。
 それを聴いていて、桜井刑事も、咎めることもなく頷いているというのは、
「桜井刑事の言いたいことを、浅倉刑事が代弁したのかも知れないな」
 と感じ、それを思うと、
「案外、この二人の刑事のコンビは、うまく行っているのかも知れないな」
 とも感じたのだった。
「ところで、大谷さんは、このあたりのビルに近づいたことはないんですか?」
 と、再度、桜井刑事が聴いてきた。
「ええ、会社への通勤に、地下鉄から地下道を通っていけるので、ほとんど表に出ることもないですね。昼休みにどこかで食事を摂る時も、近くのビルにたくさんありますからね。わざわざ、駅前まで行って食べることはしません。いくら工事中のビルが多いとは言っても、あっちは、駅前ということもあって、地下の食堂街は、前からの固定客もいるでしょうからね、ほとんど行くことはないですね」
 というと、二人の刑事は、目をつぶって、頷いていた。
 きっと、
「自分たちでも、同じだろうな」
 と感じているのではないかと、勝手に大谷は感じていたのだった。
 だが、その思いは、
「当たらずとも遠からじ」
 であり、それ以上、そこに触れることはなかった。
「ところで、遺体を発見した時なんですけどね。あたりはかなり真っ暗だと思ったんですが、あなたは遺体を触ったりしましたか?」
 と聞かれたので、
「いいえ、触りませんでした」
 というと、
「どうしてですか? 生きているかも知れないと思って、確認するのが普通だと思うのですが、すぐに死んでいるということが分かったということですか?」
 と、核心を突く話ではあったが、それほど強めの言い方ではなかった。
「はい、見ている限り、もう死んでいるとは思いました。顔を近づけると、息をしているようにも感じませんでしたし、まったく動く気配もなかったんです。目が慣れてくると、背中にナイフが刺さっているのも見えたので、すぐに、殺人事件だという風に感じたんですよ」
 と、大谷は言った。
「ところで、大谷さんは、この人をご存じですか?」
 と、聞かれ、その断末魔の男の顔を覗き込んだ。
 その顔は、完全に白目を剥いていて、明後日の方向を見ているようだった。
 あまり長く見られるものではなかったが、刑事にそういわれると、見ないわけにもいかず、何とか我慢して凝視したのだが、正直、見覚えはなかった。
 だが、よく見ると。まったく見覚えのないような顔でもない。
「ああ、どこにでもいる顔ということか?」
 と、思ったが、きっと、そういうことなのだろう。
 そう思って、一度目をそらしてから再度見ると。最初ほどの気持ち悪さはなくなっていた。
「見覚えがあるような気もしますが、少なくとも、知り合いというわけではありません」
 と正直に答えた。
 それ以外の答え方をすれば、相手に違和感を抱かせてしまうということが分かるだけに、この返事が一番いいのではないかと思うのだった。
「そうですか。確かに、どこにでもいるような雰囲気ですよね?」
 と、桜井刑事も。こっちが考えているのと同じ発想であったことで気が楽になり、
「ただ」
 と一言言っておきたくなったのだ。
 一瞬、静寂が支配した空間になったが、
「どうされました?」
 と落ち着いて答える桜井刑事を見ると、
「ああ、これは、誘導尋問のようなものに、引っかかったかな?」
 と感じた。
「いえ、私はこの死体を見て、まったく違和感がなかったわけではないです。今桜井刑事が言われたように、確かに私も、この顔の人を、どこにでもいるような人だと感じたんですが、少ししてから、違和感があるように思えたんです」
 というと、
「それは、どういう違和感ですか?」
 と言われて、
「この人の表情を見ていると、飲み屋を例にして申し訳ないんですが、スナックやバーで飲んでいるよりも、居酒屋で、ワイワイ飲んでいる雰囲気が似合いそうな表情をしているんですよ。でも、着ている服がスーツなんですね。それも、どこか似合っているわけではないんですよ。というのも、色合いがどこか違っている。それは、この人自体が似合っていないというのもそうなんですが、もっといえば、服装のコーディネイトもうまく行っていないように見えるんです。要するに、一つが狂って見えると、すべてが変に見えるというか。そう思うと、それが、そのまま違和感になって繋がっていくんですよね」
 というのだった。
 飲み屋に例えるのは、本当は嫌だったのだが、なぜかというと、スナックやバーにでも普通に作業着に身を包んだ人がくることもあるが、その時は、一人で来るものである。ただ、この人においては、
「一人呑みをする」
 という印象が浮かんでくるわけではなく、スナックにいてもおかしくはないのだろうが、
「一人でいる」
 という雰囲気が浮かんでこないのだった。
 一人でお酒を呑んでいると、愚痴をこぼしてしまいそうなイメージに見えるからで、ただ、この人であれば、愚痴をこぼしているところが想像つかないように思えたのだ。
 あくまでも、勝手な偏見で見ているだけだが、そう考えると、
「服装というものに、騙されているのかも知れないな」
 と感じさせられた。
 だから、コーディネイトが合わないように思えるのであって、合わないと思うのは、
「自分だけだとは思えないよな」
 と感じるからではないだろうか?
 酒を呑んでいるのを想像すると、ビールよりも日本酒の雰囲気だ。
 スポーツ刈りと言われる髪型が似合っているので、ハチマキでもしていると、まるで、昭和の土建屋というイメージに見えなくもない。
「そうか、時代錯誤のイメージがあるから、それが違和感に繋がっているのかも知れないな」
 と感じさせられたのだった。
「ところで、刑事さん、この人は誰なんですか? 私が知っているかも知れないと思ったのは、身元が分かったからですよね?」
 と大谷が聴いてみると、
「身元は分かったのだが、ただ、君が知ってるかも知れないのではと思ったのは、彼の身元に関してではないんだよ。そこには、別に深い意味はないんだ」
 というではないか。
「何か変だ」
 と思ったが、これは後で分かったことだが、どうやら、この死体の発見は警察にとって、別に驚くことではなかったようだったからだ。
 というのは、被害者にかかわりのある事件が最近起こっていて、実は警察がこの男を事情聴取しようと思っていたところだったということだったのだ。
 その問題というのが、
「先ほど行った飲み屋に関すること」
作品名:タイトルの「悪魔」 作家名:森本晃次