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タイトルの「悪魔」

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 変に前のめりになったり、不安な気持ちを前面に出すと、
「この男、事件に関係があるんじゃないか?」
 という疑いを抱かれても仕方がないというもので、それをいちいち相手の刑事に悟らせる必要もなければ、警察の方も、無駄なことはしたくないと思っていることだろう。
「第一発見者は、事件に関係ない」
 ということが分かれば、事件解決に対して、先に進めるからである。
「浅倉君」
 といって、死体のそばでしゃがみこんだままのもう一人の刑事が、こちらを見ることもなく、浅倉刑事に声を掛けた。
「はい、何でしょう、桜井さん」
 と。浅倉刑事も、そっちに向かった。
 二人の会話を聞く限り、桜井という刑事の方が、上司なのか先輩なのかであることは間違いないと思った。
 その場に放置された形の大谷だったが、今度はこわごわ、再度死体を見た。
 先ほどは、通報してから刑事が来るまでは、恐ろしくて見ることのできなかった死体である。
 何といっても、通報はしたが、その場からどんなに怖くても立ち去ることはできない。そんなことをしたら、一番に疑われるのは自分だということは分かっているからだ。
 そこで立ち去ったら、
「自分が事件に関係しているから、その場から逃げた」
 と思われても仕方がない。
 通報しなければいけない立場になったから通報したが、だからと言って、自分がすべて、その時間の苦痛を味わわなければいけない理由がどこにあるというのか、どこか理不尽な気がして仕方がなかったのだった。
「今鑑識さんから、話をしてもらうので、一緒に聴いてくれ」
 ということのようだった。
 浅倉刑事は、桜井刑事から、そう命じられて、警察手帳を出して、メモっているようだった。
「ええと、まず、この遺体は、死後2日くらいは経っているのではないかと思われます。死後硬直が完全に終わっているので、それくらいは経っていると思われる。死因は刺殺で、背中から刺されたようですね。死亡推定時刻から考えても、このあたりの血糊も完全に固まっているので、ここにある黒いものも、たぶん、被害者の血液だと思ってもいいと思われます」
 というと、なるほど、大谷には気づかなかったが、黒いものが、床についていた、何しろ真っ暗なところに真っ黒い沁みなのだから、見えるわけもないというものであった。
「この後目立った形跡はないので、抵抗したりはしていないと思います。後ろからでも、しっかりと心臓を指しているので、即死だったんじゃないですかね。凶器が背中に刺さったままなので、まわりの血はこれくらいのものだったのでしょうから、犯人が返り血を浴びたということも考えにくいと思います、死因は背中を刺されたことによるショック死ということでしょうね。あとの詳しい時間などは、解剖の結果を見ないと分かりませんけどね」
 ということであった。
 鑑識官による話で、少なくとも、いきなり自分が最初に疑われるということはないだろうと考えた。
 犯人は、人通りの少ないこの場所で殺した。しかも、ここは工事現場であるということから、少なくとも朝にならないと発見させないということで、ここを選んだのだろうか?
 もしそうだということであれば、2日も発見されなかったということは、犯人にとってありがたかったに違いない。それだけ、死亡推定時刻が曖昧になるだろうからである。
 ただ、2日間も発見されないということは、どういうことであろうか? 確かに工事現場では、毎日のように突貫工事を夜まで続けている時もあれば、まったく進んでいないのが結構続くという時期もある。ひょっとすると今が、そういうほとんど続かない、停滞の時期なのかも知れない。
 刑事は、鑑識官の初検を聴きながら、被害者のポケットや遺留品を探して、身元を探っているようだった。
 ポケットからパスケースが見つかったようで、どうやら、そこに免許証があったのだろう。
「ほう」
 と、桜井刑事は、パスケースを探りながら、何か意外そうな声を上げたが、その割に頷いてもいる。
 その様子を見ていた、浅倉刑事もその様子を覗き込んでいて、やはり、無言でうなずいていた。
 そして、浅倉刑事は、身元が分かったのを確認し、立ち上がると、大谷の方に近づいてきたのだ。
「大谷さん、あなたは被害者をご存じですか?」
 と聞かれたが、知る由もないので、
「いいえ」
 と答えた。
 そのことに浅倉刑事は、何も触れずに、
「大谷さんは、このあたりには、よく来られるんですか?」
 と聞かれ、
「いいえ、昔のショッピング街だった頃は、時々きていましたけどね。今のように工事現場になってからは、別に来る必要もないので、来ることはないです。今日はたまたま、さっきも申しました通り、知り合いと呑んだ帰りに、酔い覚ましということでフラッと入ったんですよ」
 というと、
「フラッというには、実に都合がいいじゃないですか? それで死体を発見したというのは」
 という言われ方をして、大谷は少し憤慨した。
「まるで私が、そこに死体があるのを知っていたかのように思われているようですね? そんなの分かるわけないじゃないですか。私は、何となく潮の香りのようなものを感じたんですよ、それに何かセメントのような臭いも一緒にですね。子供の頃に感じた懐かしい臭いがあったので、フラッと立ち寄っただけで、深い意味はないです」
 と言った。
 確かに、酒を呑んでいる時、完全にアルコールが抜けきるまでは、鼻は極端で、詰まっているか、それとも、いろいろな臭いが一気に入ってくるような花が通った感じがするのだが、この日は、後者だったのだ。前者の場合は、かなり興奮している時で、後者は、比較的、冷静に飲んだ時だった。今回が後者だったのだと、いまさらながらに感じたのだ。
「私は、お酒を呑んでいる時って、鼻が利くんですよ。だから、何となく気持ち悪い感じがしたんだけど、気になって入ってみたんです」
 と、正直に答えた。
 二人の刑事は、それを聞いて、完全に信用してくれているわけではないと思ったが、明らかな疑いの目ではないと思えたところは、大谷も安心できるところであった。
「まあ、確かに鼻が利くというのは、私も経験があるから分からなくもないが、それにしても、どうして入ってきたんですか? 何かあると思ったんですか?」
 と、桜井刑事に聴かれて、
「漠然として何ですが、このまま立ち去る気にはなれなかったというのが本音だと思います。正直気持ち悪さがどこから来ていたのかというと、寒気がしたんですよね。最近は比較的暖かいから寒気などするわけもないし、しかもおかしなことに、背中にじっとりと汗も掻いていたんです。そんな状態で、そのまま立ち去るという気分にはなれなかったんですよ」
 というと、
「なるほど、寒気と、汗を掻いていたということですね? それで、他に何かを感じたんじゃありませんか?」
 と、言われた時、大谷は、
「何か見透かされた気がする」
 と思い、
作品名:タイトルの「悪魔」 作家名:森本晃次