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死体発見の曖昧な犯罪

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 黒沢が、彼女との結婚を真剣に考えるようになったのは、彼女の精神疾患がまだ続いていたからだった。
「結婚するなら彼女しかいない」
 ということは、黒沢刑事も分かってはいたことだが、真剣に考えたのは、その時が最初だったのだ。
「今後どうするかというのは、彼女の様子を見ながら少しずつ考えていくとして、俺は彼女と結婚したいと思うんだ。いいだろうか?」
 と両院にいうと、
「お前たち二人がそれでいいというのなら、反対することはない。彼女ならわしたちも、願ったり叶ったりだ
 といってくれた。
「ありがとう」
 と言ったうえで、問題の彼女の家に乗り込んだ時、彼女の両親も、奇しくも自分の両親と同じことを言った。
 それを聞いて、二人は安心した。
 とりあえず、結婚の気持ちだけは伝えておいたのだから、安心というものだ。
 そうしておいて、黒沢は、警察の仕事に戻ってきたのだが、これらの一連の彼女との話があったのが、今から3カ月前と、まさに最近のことだったのだ。
 そのうちに、パンデミックもいろいろと、ウイルスの変化によって、変わってきている。そんな状態は、当時が一番のピークだったのかも知れない。
 医療崩壊も起こってきているようで、毎日のようにニュースが報道している。ただここにきて少し数が減ってきているのは、
「頭打ちの状態だった」
 ということであろうか。
 それにしても、医療崩壊はひどいものだった。
「救急車を呼んでも、すぐには来ない」
 あるいは来てくれても、受け入れ病院がないということで、救急車の中で延々と病院を探し、ひどい時には、
「100軒近くの病院から断られた」
 といって、救急車の中で、どうすることもできず、ただ患者に応急手当だけをしているという状態で、結果死んでいくのを黙って見ているしかなかったということであった。
 そもそも、
「どうせ俺たち若い者は重症化しない」
 などといって、ワクチンも打たない連中が、マスクを外したりして、騒いだりしている。
 そんなのを見ていると、
「俺たちさえ楽しければ、後の連中はどうなっても構わない」
 といっているようなものだ。
 下手をすれば、
「他のやつは死のうが生きようが、俺たちには関係のないことだ」
 といっているようなものではないか。
 そんなことを考えると、歯ぐきから血が滲み出るほどの悔しさで、歯を食いしばってしまうことを、無意識にしてしまいそうになるくらいであった。
「ここまで人間というのは、おろかなものなんだろうか?」
 と言いたいくらいだ。
 世の中というものがどんなものなのか、黒沢も桜井も、岸部も、皆感じていることだった。
 黒沢としても、幸いというといけないのだろうが、後遺症が肉体的に残らなかったのはよかったのだろうが、それにしても、彼女があそこまで神経を蝕むほどのまわりからの圧力がどんなものであったのか、想像もつかない。
 勧善懲悪の気持ちをもって、警察に入ってきたのに、結果これだと、
「一体どうすりゃあいいんだよ」
 とその憤りをどこにぶつけていいのかと思うと、
「しょせんは、警察なんてこんなものだ」
 と思い、真剣、
「辞めようか?」
 と考えたのも事実だったのだ。
 ただ、警察に何の恨みもあるわけではない。確かに、昔からいわれるような、
「縦割り社会」
 で理不尽なことも多いが、我々が動くことで世の中は何とかなっているのだ。
 逆に、
「我々がやらないと、どうにもならないのが世の中というもので、警察を辞める辞めないという判断をしている時というわけではないのだろう」
 と考えたのだ。
 だから、黒沢刑事は警察を辞めることなく、これまで通り、桜井刑事についてきていた。桜井刑事も。黒沢刑事の苦しみも分かっていて、敢えて何も言わなかった。
「もし、どうしても、助言が必要な時は自分から言ってくるだろう」
 と思ったからで、それは桜井刑事が黒沢刑事の性格を熟知しているからで。だからこそ、
「自分の後継者に」
 と、自分が、昇進し、現場畑から退いた時のエースを黒沢刑事だと思っていたのだった。
「黒沢刑事は、よほどのことがない限り、自分から弱音を吐くことはない。そんなやつになまじ優しい言葉を掛けると、精神的に張り詰めていた糸がプツンと切れてしまい、糸の切れた凧のように、どこかに飛んで行ってしまうそうになるだろう。だとすれば、変に話しかけない方がいいんだ」
 と感じたのだ。
 だから、余計なことを言わずにいると、自浄作用がはたらいて、自分で何とかしようと思うようになり、それが解決の一番の近道だと思ったのだった。
「自浄作用も現れなければ、俺が何を言っても同じだ」
 と思った。
 実際にどうにもならなくなった時、やつだったら、きっと相談してくれるだろう。
 ただ、相談してくれた内容がどんなものであるか、正直想像もつかないが、決して安易に答えを出せない代物であることは分かっている。それだけに、こちらも覚悟を持って臨まないといけないだろうと思うのだ。
 桜井刑事は、
「たぶん、今聞いても、自分の中で整理ができていないだろうから、一歩間違うと勘違いをしてしまい、下手なことを言って間違った判断をさせかねない。彼はそれだけ、私のことを慕ってくれているのだし、そこを間違えると、完全に裏切り行為になってしまい、助けるどころか、追い詰めてしまうことになるだろう」
 と思うのだった。
 桜井刑事も、自分にも同じ時期があった。その時、本部長である、門倉本部長に相談に乗ってもらっていた。
「俺も、今の署長から、いろいろ教えてもらったよ」
 と門倉本部長も笑っていたことから。
「これが刑事畑における。皆が昇る階段というものなんだろうな」
 と感じたのだ。
 黒沢刑事も、今そのことを感じているだろう。
 救いは、彼女の精神的な病気がさほど重いものではないということだ。
「普通に、ストレスをためないように生活をしていれば、それでいい」
 と言者はいうが、
「実はそれが一番難しい:
 ということを一番分かっているのも、黒沢刑事ではないだろうか?
 医者に対して、
「そんなの分かってますよ。でも、それが一番難しいんじゃないですか?」
 と文句を言ったところで始まるものでもない。
「はい、そうですか」
 といって、聞いていれば、話の中で、本当に核心に触れるようなことがあるような気がして、
「医者には好きなように喋らせればいいんだ」
 と思うようになったのだ。
 それを思うと、黒沢刑事も、次第に溜飲が下がっていって、
「とりあえず、今の毎日をしっかり生きるんだ」
 と考えるようになったのだ。

             消失

 佐川氏に対して、
「毎日、同じくらいの時間にこのあたりを散歩するんでしたら、昨日、あそこに死体がなかったというのは、間違いないことなんでしょうね?」
 と桜井刑事は聴いた。
 佐川氏は、訝しそうに。
「ええ、そうですが。今日見たんですから、昨日もあったとすれば、気付かないわけはありませんからね」
 というではないか。
「念のためにお聞きしますが、昨日に限って、ここを通っていないなどということはないですね?」
 というので、
作品名:死体発見の曖昧な犯罪 作家名:森本晃次