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死体発見の曖昧な犯罪

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「とにかく、警察」
 と、そう思い、急いで警察に連絡したのだった。

                 鑑識官

 警察はそれから、すぐにやってきた。普段はまったく人通りのない、しかも早朝にも関わらず。どこで聞きこんできたのか、マスゴミも数人いるようだった。
「そんなに、この街は平和なのか?」
 と思ったが、そうでもない。
 やはり、普段は人通りのない城址公園というこの場所で殺人事件というだけで、何か不気味なものが感じられるのだろう。
 刑事が3人、そして、鑑識が3名ほど来て、無言で、物々しい捜査が、黙々と行われていた。
 しかし、時々無線でどこかから指示があっているのを聞くと、いかにも犯罪現場であるという雰囲気が漂っているのだった。
 門の入り口のところでは、パトカーのパトランプが、音もなく、クルクル回っていて、その近くでは、黄色い、
「立ち入り禁止」
 などと書かれた。
「規制線」
 が張られ、警備のための警察官が立っていた。
 刑事が二人、その場にしゃがみこんで、倒れている死体を見ながら、ひとこと二言話している。声は聞こえないが、緊張だけは伝わってきたのだ。
 そこに鑑識を呼んで、いろいろ調べてもらっているようだった。
 第一発見者とすれば、ただ、その様子を見ているしかなかった。
 実際の刑事の会話というのは、
「最近、この手の犯罪はなかったと記憶しているが」
 と一人がいうと、
「ええ、そうですね。最近は、ここに限らず、通り魔的な犯罪はなかったということであれば、誰か顔見知りの犯行ということでしょうかね?」
 という。
「こんな。寂しいところで死んでいるんだから、呼び出されたと考えるのが普通じゃないかな?」
「ということは、人通りのないところに呼び出して、一思いに刺し殺すということでしょうか?」
 というので、
「通り魔の犯行でなければ、その可能性が高いでしょうね」
 ということであった。
 二人の刑事は、被害者の顔を覗き込んで、
「見覚えはないですね」
 と二人とも記憶にない顔だという。
 少なくとも、普段から警察にマークされたり、警察のお世話になるような人間ではなさそうだった。
 白い手袋が、目立っていて、二人は殺されている男の服を物色していた。
 この時期は、晩秋から、冬に向かいかける時期なので、コートを射ていても不思議のない時期、
 その男もコートを着ていることから、やはり、殺されたのは、昨夜ということではないかと、第一発見者の男も感じていた。
 刑事が最初に気になったのは、
「あまりまわりに血が飛び散っていないな」
 ということであった。
 これは第一発見者も気づいたことだったが、彼も結構敏い方だということであろう。
 そんなことを考えていると、さらに刑事が疑問を呈していた。
「この城門は、確か監視カメラがあるんじゃなかったかな?」
 と言いだした。
「桜井刑事、よく知ってますね」
 と、若い刑事から名前で呼ばれたのは、桜井刑事という30代後半くらいの、バリバリといってもいい雰囲気の刑事だった。
 体格も、
「まるで、柔道選手を思わせる」
 というような佇まいで、顔も少し赤く見えるのは、それだけ、
「事件に対して、のめり込んでいるのではないか」
 と思わせるのだった。
「私はこれでも、実はお城が好きなもので、よく知っているんだけど、実はここの門は、20年くらい前に不審火があって、燃えたことがあったんだよ」
 という。
「不審火? それは放火だったんですか?」
 と言われた桜井刑事は、
「いや、どうやら原因は分かっていないんだよ。放火の疑いも十分にあったんだけど、何しろ、ここは国宝とまではいかないが、県の重要文化財なので、放火だったら、情状酌量の余地はないんじゃないかな?」
 というのであった。
「じゃあ、タバコの火の不始末か何かですかね?」
 というのだが、
「それもあると思う。ただ、それにしても、こんなところでタバコを吸うような不届きものはいるんだろうか?」
 と桜井刑事がいうと、
「そりゃあ、いますよ。ただでさえ、タバコが吸える場所がどんどんなくなっていた時代でしょう? 20年前というと、私もその頃は子供だったからあまり記憶はないけど、大人が、一体どこでタバコを吸えばいいんだって愚痴をこぼしていましたよ」
 というのだ。
「なるほど、確かにそうかも知れないな。言われてみれば、今でも、このあたりに、吸い殻が落ちていたりするからな」
 といって、桜井刑事が、吸い殻を指さした。
「えっ? 桜井さんはあの吸い殻が見えるんですか?」
 といって若い刑事が驚いている。
 すると、その横から、鑑識官が、
「やっぱり桜井さんすごいですよ。私もさすがに目はいい方だという自負はありますが、ここまでいいとは思えませんね」
 というのだった。
 鑑識官も、正直、ある程度の目がよくないと務まらない仕事であるが、この鑑識官は、結構な年配で、前に桜井刑事が年齢を聞いた時、
「もうそろそろ50歳になるところです。そろそろ私の後継者を作っておかないと、都市には勝てないという年齢に差し掛かってしまいますからね」
 といって笑っていたのを思い出した。
 その時も、
「桜井刑事くらい目がよかったり、勘が鋭かったりすれば、鑑識でも立派にやっていけますよ」
 というと、桜井刑事は、苦笑いをしながら、
「いえいえ、私は刑事という仕事が似合っていますから」
 と言ったが、鑑識官も、
「もったいないですね」
 と言いながら、本当に悔しそうな顔をしているが、まんざらでもない顔をしているのは、その時の桜井刑事が本音だったのが分かったからだ。
「桜井刑事くらい、自分の仕事に誇りを持っている人が私の後輩にいてくれたら、私の鑑識術というか、ノウハウを、すべて叩きこんであげたいんですけどね」
 といって、苦笑いをすると、
「それは、伝授される方も大変ですよね」
 と桜井刑事が突っ込んでいた。
 二人は、同じ現場で一緒になることも多く、
「結構いいコンビだ」
 と言われることも多かったのだ。
「ところでその吸い殻なんですけどね」
 と鑑識官がもったいぶったような言い方で声を掛けた。
「どうしたんですか?」
「いや、喫煙者の桜井刑事には、少し気になることかと思ったんですけど、今は吸い殻から、結構いろいろなことが分かる時代になってきたんですよ」
 というではないか。
「いや、私は確かに喫煙者ですが、ちゃんとマナーは守ってますからね」
 とくぎを刺すような言い方をした桜井刑事は、これが、鑑識官の皮肉であるとともに、皮肉な言い方をすることで、その言い方が印象的であることから、
「この話は重要なことです」
 ということを含んでいるということが、二人の間の暗黙の了解のようになってきたのだった。
「10年くらい前に起こった、飲食店チェーンの社長殺害事件を覚えていますか?」
 と聞かれた桜井刑事には、その事件の印象が深かったのか、
「ああ、もちろん、覚えているさ。確か、ヒットマンがやったという話が実しやかに囁かれていたけど、決定的な証拠が出なかったことで、逮捕状が出なかったというのを聞いたんだよな」
作品名:死体発見の曖昧な犯罪 作家名:森本晃次