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死体発見の曖昧な犯罪

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 その様子を見て、理事長は安心したようだったが、まだ、緊張の糸が切れていないのか、指が震えていた。
「支配人は、今の男に見覚えがありますか?」
 と聞かれて、
「いいえ」
 と答えていた。
 ただ、支配人は何かに気が付いたということが分かったのか、桜井刑事の目には、何か怪しげな色が浮かんでいて、支配人を疑惑の目で見つめていたのだった。
「この支配人は、どこまで知っているんだ?」
 と思うと、
「この支配人のいうことを、すべて信用できないということだけは分かったな」
 と桜井は感じた。
 しかも、今手掛かりになるのは、この支配人の怪しげな態度であった。支配人が怪しげな態度を取れば取るほど、事件の真相に近づいていっているような気がした。
 さすがに、捜査だけで、流動的なものがなかったら、捜査はいずれ、どこかで息詰まるということは分かっているのだ。
 それを思うと、支配人の態度は、意味深ではあるが、事件をかき混ぜる棒だと思うと、一種の、
「必要なことではないか?」
 と、桜井刑事は考えるのであった。

                 大団円

 先に警察がやってきて、そこに、桜井刑事がいるのを見て、最初は刑事が驚いていたが、すぐに、
「ああ、あの城址殺人事件のことですね?」
 とすぐに分かったようで、時を同じくしてといってもいいくらいのタイミングで、救急車も到着し、救急隊員が、緊張の中で患者を診たが、
「大丈夫、病院で手当てをすれば、そこまでひどくはないかも?」
 ということであった。
 明らかに服毒しているのは分かったが、幸いにも致死量に至っていないのだろう。
 桜井刑事は、この事件に何か引っかかるものを感じていた。今呼ばれてやってきた刑事は、
「命に別条がないのは、よかった。とりあえず、事情聴取だけは、意識を取り戻したらしておくことにしますね」
 といっていたので、この事件を。
「単純な自殺未遂事件」
 というくらいに思ったのではないだろうか。
 しかし、何か引っかかるところのある桜井刑事は、明らかにおかしいと思ったのは、まず、
「救急隊員が見て、明らかに助かるということが分かるほどの量しか摂取していない」
 ということであった。
 そしてもう一つ気になるのは、
「自殺をしようという人間が、なぜ、わざわざ百貨店の喫茶室を選ぶというのだろう? 今回のように通報されて、応急手当てを受ければ、助かってしまうかも知れないではないか。自殺をしようとする人であれば、普通なら、人知れず、一人寂しく、自殺の名所や、自宅などで、ひっそりするものだろう」
 と思った。
「所持品とか調べてみたかい?」
 と桜井刑事は、今やってきた刑事に聴いてみた。
「いいえ、所持品はないようです」
 というので、
「おかしいと思わないか? いくら自殺を覚悟しているとはいえ、何も持って出ないということは、変だろう?」
 ということをいうと、彼らもさすがに緊張の顔になり、
「ということは、誰かが彼の荷物を持っていったということでしょうか? しかし、なぜ?」
 と聞くので、
「ハッキリは分からないが、すぐに身元が分かっては困るというものか、その荷物の中に何か秘密があったとか」
 というと、
「じゃあ、まず、被害者に連れがなかったかどうか聞いてみます」
 といって、一人の刑事が、店の従業員に聴きにいった。
 しばらくして戻ってくると、
「あの人に連れはないということでしたが、あの人はたぶん、誰かと待ち合わせをしていたのではないかという話でもあります」
 と言った。
「じゃあ、誰かを待っていたけど、その人が現れない間に、毒が回ったということになるのかな?」
 と桜井刑事が、そういうと、
「そういうことになりますね。誰かと待ち合わせをしていたのだということになると、自殺の線は限りなく薄くなってしまいましたね。そうなると、これは、殺人未遂事件ということですね」
 と、通報でやってきた刑事がそういうと、
「ええ、そういうことになりますね。そして、ひょっとすると、この間の城址殺人事件と絡みがあるかも知れない」
 と桜井刑事がいう。
「根拠はありますか?」
 と聞かれ、顔を寄せて、他の人に聞かれないようにしながら、
「根拠というわけではないですが、どうも、この百貨店では、一律に何かを隠しているような気がして仕方がないんですよ。そこで起こったこの事件。どうしても気になってですね」
 と桜井刑事はいうのだった。
 病院では、応急手当がなされていたが、救急隊員の言っていた通り、ちょっとした解毒治療により、被害者は一命をとりとめ、数日で、話が聞けるようになったということであった。
 その間に、捜査の方は、さほど、行われているわけではなかった。いや、
「行ってはいるが、進展がない」
 と言った方がよく、新たな証言や事実は出てこないまま、桜井刑事の曖昧な疑惑だけが残ったということだ。
 とりあえず、城址殺人事件と、百貨店での、服毒事件とが、かかわりがあるかどうかが、今のところの焦点だった。
 いや、一つだけ分かったことがあった。
 というのは、百貨店での被害者であるが、最初、
「一人の男性」
 ということであったが、治療を受けて、安静にしていればいい状態になった時、警察に病院から入った情報によると、
「被害者は、女性だ」
 ということであった。
 被害者の身元を示すものが、何もなかったので、まずは、身元確認からでないと何もできないということが分かっているだけに、まずは被害者の、身元を調べることが先決だった。
 さすがに、急病人の身体を動かして、ポケットなどを探るようなことができるわけもなかったが、ある程度収まってきたことで、翌日には、被害者の身元が分かったのだ。
 そして、何と彼女は、以前、丸和百貨店に勤めていた従業員だという。完全に男性だと思っていたので、誰も気づかなかったが、実は一人気づいた人がいた。彼女が警察にやってきたのは、被害者が、入院してから、二日目のことで、まだ、被害者の彼女が目を覚ます前のことだった、
 その時はまだ、被害者が、女性であったということは、警察内部だけの極秘事項となっていた。
 だから、警察では、
「丸和百貨店での服毒事件に関して、お話があります」
 といってきた女性にビックリしたのだ。
 どうやら、彼女は、
「私は被害者のことを知っている」
 というような供述をしているということから、とたんに、捜査本部は、緊張が走った。
 そして、それを聞いた桜井刑事も一緒に、話を聴くことにした。
 出頭してきた彼女は、今、丸和百貨店に勤めていて、喫茶室で仕事をしていたようだ。
「じゃあ、あなたは、昨日彼女がここにいた時、被害者がその人だということを分かっていたということでしょうか?」
 と刑事が聞くと、
「ええ、女性だということが分かると、それが彼女であることが分かりました」
 と出頭してきた彼女がいうと、
「でも、あなたとは、部署も違ったりしませんか? 仲が良かったということでしょうか?」
 と刑事が聞くと、
作品名:死体発見の曖昧な犯罪 作家名:森本晃次