死体発見の曖昧な犯罪
癒着と思惑が絡み合って、結局割を食うのは、市民である。
「そんなことなら、立ち退きを余儀なくされた人たちは、浮かばれない」
と言っていいだろう。
そんなことを考えると、
「国鉄であろうが、私鉄であろうが、鉄道会社なんか、ロクなもんじゃない」
と思えてならなかった。
もちろん、立派な経営をしているところのあるだろうが?(本当にあるよな?)
一つがひどければ、他もロクなことがないと感じるのも無理もないことなのだろう。
脅迫
宮武が通っている百貨店は、前述のとおり、前のさやにキチンと収まり、前と同じような広さのフロアを婦人服売り場はキープできた。
今回、百貨店として、駅ビルの戻ってはこれたが、昔とはイメージが違って、
「昔は、百貨店がメインで各テナントはおまけのようなものだった。しかし、今回は、テナントメインで、百貨店が、おまけのようになっているので、しょうがなく、売り場もかなり縮小されたが、嫌というわけにはいかなかった」
ということだ。
高額の家賃を払ってでも、駅ビルというのは有難いもので、儲けは昔と一緒で結構あったのだ。
一時期、改装中の数年間というのは、最初は、駅近くにレンタルオフィスを借りて、事務処理などの仕事をしていたのだが、数か月で、県内にあるいくつかの拠点に、出向のような形で、派遣されることが多かった。
ここの百貨店は、同系列で、見た目は同一会社の支店や店舗という感じであるが、実際には、
「親会社にぶら下がる子会社」
という感じで、完全に別会社になっていた。
これは、かつて、バブルが弾けて大変だった頃に、この方法で何とか、逃れることができたということで、今でもこの形態をとっている。
それを考えると、
「あの時代は、百貨店といえば、どこか大きなところと合併でもしないとやっていけない」
と言われていたのに、どことも合併せずにやってこれたのは、社長の手腕と、しっかりとした作戦勝ちだったのではないかと言われている。
経済評論家も、
「丸和百貨店は、優良経営をしている」
ということで、金融機関の融資にも、それほど困ることはなかった。
だから、同じ県内に、同系列の百貨店が、生き残ることができた。
ということであった。
というのも、他の百貨店は、効率化であったり、経費節減などということを中心に考えているので、どうしても、
「一つの県に、一つ」
というような、まるで、江戸時代に出された、
「一国一城令」
のようなものではないか。
だから、今まで、
「百貨店があるのが、トレンド」
と思っていた土地には痛手だった。
しかし、そこに、丸和百貨店が参入してきたのだ。
他が撤退してからの参入なので、どちらも損はない。
競合することはないし、丸和百貨店としても、新たに一から建てることもなく、他が立ち退いたところをそのまま使用できるのだ。
これほどありがたいことはない。
自治体としても、
「これで百貨店のない寂しい街にならずに済んだ」
ということで、駅前の店舗の改装に抜けた人員を受け入れとしては最高だった。
彼らが、店を切り盛りしながら、幹部候補を育てる。
この場合優先順位は、店の売上よりも、幹部候補の育成の方が大きかった。
目先の利益だけを目指してしまい、これからの人材を見失ってしまうと、それこそ、ここを撤去していった百貨店の二の前だ。
ということだった。
彼らは、その後、半分くらいで、百貨店を廃業した。
中には、宅配のノウハウを持って宅配に手を出すが、そんなに簡単なものではない。確かに一時期は追いつかないほどの需要があったが、ブームが終わるとすたれるのも早い。
最初の頃は、ノウハウをうまく用いて経営していたが、一旦歯車が狂うと、今までとまったく違う考えに戸惑いがあり、結局、うまくやっていけなくなるのだ。
それを思うと、
「宅配というのは、恐ろしい業界だ」
つまりは、相場をしっかり見ないと、見失ってしまうという危険を孕んでいるといってもいいだろう。
特に、
「パンデミックが襲ってきた時代は、確かに、特需景気のようになったが、それが終われば、結局、宅配は高いわけで、それならスーパーで買う」
ということになるのである。
宮武は、地方の店をうまく切り盛りできたということで、ある程度の時期に、本部に戻ってきた。そして、すでにその時には、
「新しくできる駅ビルの店舗における、婦人服売り場のフロア長に就任してもらう」
という内示が出ていた。
元々は、婦人府売り場にある一か所のお店の店長だった。それが、フロア長ということは、
「主任から係長を通り越して、課長に就任する」
というのと、同じことであった。
確かにエリートコースではあったが、このビルの建て替えのため、ここから一度退去してから、5年以上は経っている。課長になってもいい年齢というものではあった。
しかし、今はすでに、
「年功序列」
「終身雇用」
などという言葉は、化石のごとくになっていることを考えれば、エリートコースといっても、悪くはないが、手放しで喜べるものでもない。それでも、順調であることに間違いはないので、悪いことではないのは確かであった。
そして、駅ビルに戻っていてから、そろそろ5年が経とうとしている。警察から、丸和百貨店に、宮武課長の訃報が知らされた時、丸和百貨店本部では、かなりの騒動になっていた。
「なぜ、宮武君が?」
ということであった。
「宮武フロア長は、厳しいところもありましたが、その徹底ぶりから、誰も悪くいう人はいないくらいに、皆にも気を遣っていましたからね。殺されたなどと聞くと、そりゃあ、誰だってビックリしますよ」
と、桜井刑事と、黒沢刑事が百貨店の売り場に聞き込みに行った時の、女性店員の話に代表されるかのように。誰もが、フロア長を悪くいう人はいなかった。
確かに、死んだ人のことを悪く言う人はなかなかいないだろうが、こうやって聞き込みにいくと、中には、
「死んだ人のことを悪くいうのは気が引けるんですが」
といって、何か言おうとしている人も結構いたりする。
だが、宮武フロア長に限っていれば、本当に悪くいう人はそんなにいない。よほど、慕われていたのではないかということは、想像に値するくらいである。
他のフロアの人に聴いてみたが、他のフロアの人は、皆同じように、
「あまりよく知りませんからね」
という言葉が返ってくる。
本当に何も知らないのか?
もしそうであれば、この会社自体の体質が、他の部署やフロアにまったく興味がなく。自分たちだけを気にするような会社なのかも知れない。
また、もう一つ考えられるのは、何かを知っていて、それだけに他の部署の悪口になるようなことをリークしそうなものであれば、会社で干されるという、これも会社の体質があるのだろうか?
もしそうだということであれば、誰かが、警察に極秘でやってくることや、匿名の投書などがあってもしかるべきであろう。
作品名:死体発見の曖昧な犯罪 作家名:森本晃次