遺伝ではない遺伝子
「今のご両親は、きっと今の私が考えていることを分かったんでしょうね。だから、あなたに理由を言わずに、頑張っているんですよ」
と、完全に、両親の擁護をするような言い方になったではないか。
「本当にどういうことなのだろう?」
と、思わずにはいられなかったのだ。
「じゃあ、両親は、僕の味方だということですか?」
と聞くと。
「ええ、味方というよりも、もっといえば、あなたの救いの神になろうとしてくれているんですよ。自分を犠牲にしてという気持ちからかも知れない。ただ。あなたのご両親が入信されているという宗教団体がどういうところかは分からないので、いい悪いは言えないですね」
というのだった。
そこで、鍋島は、その団体の名前を明かした。
すると、占い師は、
「ああ、あそこの団体ですね。最近、結構表に出てきていますよね」
と言った。
「どうなんですか? 大丈夫なんですか?」
と詰め寄るように聞くと、さすがに占い師も、一瞬後ずさりをしたが、
「いい悪いは、本人たちとの相性があるので何とも言えませんが、いますぐにやめないとまずいというようなそんな危険な団体だというわけでもないですね」
ということであった。
「じゃあ、一体どうして、両親がその団体に入っているのか、先生は分かるんですか?」
と、いつの間にか、先生と呼んでいる自分がいるのにはビックリしたのだった。
それを聞いた占い師は、
「分かっているつもりではいるが、私もすべてが分かっているわけではないので、何とも言えない。あなたのご両親がどこまで分かっているのかということも、この場では、重要事項でもありますね」
というのだった。
「さっぱり分からない」
と鍋島がいうと、
「いやいや、それも無理もないことだ。ただ一つ言えることは、人間というのは、生まれる人がいれば、死ぬ人間がいるということなんだよね」
というではないか、
「何を分かり切った当たり前のことを言われているんですか?」
というと、占い師は、
「皆はこのことを簡単に考えているようだが、結構大きな問題だったりするんですよ。それこそ、陰陽道などに関わったことだったりするんですよ」
という。
「それって、僕が生まれた日に、誰かが死んだということですよね? そりゃあ、同じ日にかなりの人が生まれているのだから、同じ日に死ぬ人がいても無理もないことですよね? 普通なら、まったく関係のない。生死の関係ということですよね?」
というと、
「いやいや、そんなことはないんだよ。自分が生まれた日に、誰が死んだかということで、死んだ人の力が強かったりすると、その人は、他の人の身体でも生き続けようとするものなんですよ。だから、その人が乗り移って生き続けることになる。しかし、実際にはその人の寿命は尽きているわけですからね。ここには、それなりの含みがあるといっても不思議ではないんじゃないですか?」
ということであった。
「じゃあ、自分が生まれた日に誰が死んだのかということですよね? それは誕生日が一緒とかいうわけではなく、自分が生まれてくるその時に、魂になって彷徨っていないとり鬱が合わないから、それが誰かということですよね? それこそ霊媒師のような人でないと分からない世界なんじゃあないですか?」
というと、占い師は、
「私は、霊媒もできますよ」
というではないか?
「霊媒もできるんですか?」
と聞くと、
「ええ、霊媒というのは、死んだ人間で、この世で彷徨っている人を占ったりするもので、元は同じなんですよ。それあ、生きている人間を相手にするのと、死んだ人間という違いだけです」
と、難しいことをぬけぬけといってのける。
「死んだ人間と話ができるとでもいうんですか?」
というので、
「死んだ人間でも、彷徨っている人間だけですよ。霊媒師というものも、そういうことなんじゃないですかね?」
と曖昧なことを言った。
「曖昧ですね?」
と聞くと、
「私たちも、あの世界には、入り込めませんからね。あちらとは、一線を画しています」
というではないか。
「それじゃあ、私が生まれた時に、死んだ人というのが、何か問題なんですか?」
と聞くと、
「そうなんですよ。その人も、自分が生まれた時に、誰かが死んだその魂と受け継いだ形なんです。確かに、誰かが死んで、誰かが生まれると、魂は、受け継がれるのですが、現世での悪い部分は浄化されるのが普通なんですが、あなたが、受け継いだ魂というのは、そういうわけではないようなんです」
というではないか。
「どういうことですか、その人の悪事が私にも宿っていると?」
というと、
「そこまではいいませんが、正直、あなたの誕生日、つまり、あなたに入り込んだ魂の没日というのが鬼門になるんですよ。一年というのも、地球が太陽のまわりをまわるという一種の周期ですからね。その日、魂が何かをしかねないんですよ」
というではないか。
「何かというと?」
と聞かれた占い師は、
「そこまでは分かりませんが、一つだけ言えることとして、あなたたちがずっと受け継いできた魂は、誕生日が命日になっているんです。ただ、これは戸籍を調べても分かりません。実際にあなたに乗り移った人が誰なのかを調べないと難しいでしょう? でも、実はそれができると言われる団体があるんですよ」
と占い師がいうと、
「えっ、そんな団体があるというんですか?」
と聞くと、
「ええ、あります。その団体というのが、今は断定はできませんが、たぶんですが、あなたのご両親が入信されている、その宗教団体なのではないかと思うんです。なるほど、その団体はあまりいいウワサはないかも知れませんが、それも、事を隠密に運ぶための、隠れ蓑のようなものだといってもいいでしょう」
というではないか。
「じゃあ、うちの両親は、僕のために?」
というと、
「それは間違いないと思いますよ。あなたを見ていると、両親が悪い人のように思えない。そうやってあなたの両親からさかのぼって見てみると、今のような答えに辿り着いたというわけです。そこから今度は下に降りて行っても、同じところに行き着くはずだと思うんですよ。それを考えれば。理屈に合うのではないかと思うんですよね」
という。
「じゃあ、私は、何と愚かなことを考えていたことになるのだろうか?」
というと、
「というよりも、お互いに気を遣い合っている家族なので、これからもいい関係になれると思いますよ」
と言われて、
「でも、私の運命はあまりいいものではないんですよね?」
というと、
「そんなことはないです。あなたにしっかりとした後ろ盾があれば、あなたを助けてくれる存在が相手に分かるはずです。相手だってあなたを呪い殺そうなんて思っているわけではなくて、何か、探し物があって、それを求めているんです。ひょっとするとあなたの両親のような人たちなのかも知れない。もしそうだったら、悪いことでもなんでもないわけですから、幸せになれるというものです」
と占い師はいう。
「そんなものなんですかな?」
と訊ねるように聞いてみると、