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遺伝ではない遺伝子

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 と言われてから、実際に座るまでに、どれだけの時間が掛かったのか、実際には一瞬だったようだが、まわりの状況を把握してから座ったような気がするので、瞬時というわけではなかったような息がする。
 しかし、その気持ちが、果たしてどのような心境に繋がっているかということは、自分でも分からなかった。
 別に何かを相談したいと思ったわけでもない。
 もちろん、まったく不安なく生活ができているわけではなくむしろ、両親の宗教かぶれという意識もあったからだ。
 自分のことにしてもそうで、ただ、自分のことは、
「自分で何とかしよう」
 という気持ちがあることから、まわりを気にしないようにするつもりになっていることから考えると、
「この際、どうでもいいことではないか?」
 と考えるようになっていたのだ。
 かといって、他に何か相談事があるのかといえば、正直ない。
「占い師さんに興味があって」
 などというと、変にマインドコントロールをされかねない。
「自分に興味がある」
 と言われれば、一般の人だとどう思うだろう?
 もちろん、その人の性格によって変わってくるだろうが、
「嬉しい」
 と単純に思う人もいる。
 人からあまりかまわれることのない人とすれば、興味を持たれることはうれしいと感じるからなのだろうが、逆に、
「ちょっと怖い」
 と感じる人もいるだろう。
「相手がストーカー気質だったら、どうしよう?」
 と考えるのではないだろうか?
 そう考えさせられると、その人のまわりに対しての疑いは、かなり深いものであって、そこには、
「螺旋階段のように、グルグル回りながら、落ちていく」
 という感覚が潜んでいるかのように思えるのだった。
 相当、まわりに疑心暗鬼になっている人なのだろうが、普通の人であっても、今の世の中では、
「疑心暗鬼にならない人などいないに違いない」
 といえるのではないだろうか?
 疑心暗鬼というのは、怖いもので、時間とともに、比例して深まっていくものだ。
 中には、最初から最高潮の疑心暗鬼を持ちながら、そこかあら逆に、少しずつ緩和していくという考えの人もいるだろうが、
「そんな人は、最初だと思っている最高潮の前を、忘れてしまっているだけで、最初から最高潮だという人なんていないのではないか?」
 と思えるのだ。
 あくまでも、最高潮というのは、その感覚が最高になったという意識を持っているからで、最初から最高潮だと、
「どうしてその時が、最高潮だといえるのか?」
 ということである。
 しいていえば、
「感情が緩和されるしかないので、最高潮だった」
 という思いを感じているからであって、この思いがあるからこそ、自分の感情を理解できるのではないだろうか。
 そんなことを考えながら、鍋島は、目の前に沈砂していて、顔が見えない、いわゆる、
「得体の知れない占い師」
 なる人物を前にして、暗闇という密室の中で、呼吸困難に陥りそうになりながら、言づけば、額には、ぐっしょりと汗が滲んでいるのだった。
 促されて椅子に座ると、もう完全に、
「まな板の上の鯉」
 に相違なかったのだ。
「俺は一体、ここで、どのように調理されるのか?」
 と思い、身体の震えも止まらない。
 急に、自分の好奇心を憎みたくなるくらいの心境に陥っていて、
「早く、ここから逃げ出したい」
 という欲求に駆られていたのだ。
 それを見過ごしたかのように、
「そんなに、緊張なさらなくてもいいですよ。どうせ、たかが占いなんですからな?」
 というではないか?
 これこそ、こっちの心境を見透かしているということを証明しているようで、さらに気持ち悪さがこみあげてきた。
「ストーカーに狙われるというのは、こういう心境のことなんだろうあ?」
 とも感じた。
 目の前の人は、ただ、今ここであっただけの、何ら関係のない人だということは分かっているはずなのに、何を怯えているというのだろう?
 そんなことを考えていると、
「いえ」
 としか答えられない自分がいて、この二文字の答えが、自分の心境を表していると、相手に悟られたかのように思えて、びくびくしていた。
 しかし、そこで占い師が、
「あなたは、今かなり怯えていると、ご自分で感じているようですが、実際には、そこまでのことはなく、どっちかというと、実はすでに落ち着いているのではないですか?」
 と言われると、
「何だろう? この人の言う通りではないか?」
 と思えてくる自分がいることに気づいていたのだった。
「図星のようですね?」
 と言われてしまうと、実際に震えが止まり、さっきまでの不安がどこかに行ってしまったようで、安心感が出てきたのだが、その逆に、ズバリ言い当てられたことを、怖いというよりも、癪に障る気になったのは、ある意味、
「相手にマインドコントロールを受けているということか?」
 と考えると、やはり怖くなってきたのだった。
 マインドコントロールというと、どうしても、宗教団体を思わせる。
「宗教団体。そうだ、両親もマインドコントロールを受けているのではないか? ここで俺まで受けてしまったら、どうなるというのだ。しかも、両親とは違う相手に対して受けているのではないか?」
 と考えると、今度は、
「先ほどからの不安というのは、ここから来ていたんじゃないかな?」
 と思うと、今度は、少し気が楽になってきた。
 気が楽になったというのは、少し違う気がするが、
「自分のことを少しでも、分かるようになれば、自信が生まれてくる。今の状況で一番ほしいものは、その自信なのではないだろうか?」
 と、鍋島は感じたのだった。
「では、少しずつうかがってまいりましょうかね?」
 と、こちらの心境を分かっているのかと思いきや、いきなり話を進め始めた。
 やはり、占い師も商売。
「回転率が必要なのかな?」
 と感じた。
 友達の話では、
「この占い師は、結構人気があって、土日だったら、予約しても予約が取れないほどの人なので、平日だと何とか入ることができたんだ」
 ということだった。
 確かに、表には誰もいなかったが、予約制であれば、予約の時間の少し前までに着ていればいいので、何もずっと待っている必要などないだろう。
 それを思えば、鍋島もそんなに心配する必要もなかったのだ。
 友達の占いは、時間ちょうどくらいだった。
 本人とすれば、
「出てくる時は、あっという間だったような気がしたんだけど、出てくるにしたがって、どんどん、時間が経っていたのではないかと思うんだよな、何か不思議なんだよな」
 といっていたが、それを聞いた鍋島も、
「どこか違和感があるよな」
 と感じていた。
 その理由はすぐに分かったのだが、
「こういう感覚というのは、夢を見た時などに感じるものだよな」
 と感じた。
 というのも、夢を見た時は、実際に意識が現実世界に戻ってきてから、気が付けば、まだまだ夢の世界が抜けていないことからか、完全に、こっちの世界に戻ってきていない。
 戻った時に、完全に意識が、
「目が覚めた」
 と感じるのであって、ほとんど皆が感じることなのだろうが、時間的にはかなりの個人差があるのではないだろうか?
作品名:遺伝ではない遺伝子 作家名:森本晃次