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遺伝ではない遺伝子

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「この世の理不尽さ」
 というものを感じた人たちが、最近の入信者では、圧倒的に多いといってもいいだろう。
 宗教団体で言われている、幹部たちにおける、
「最優先極秘事項」
 というのは、正直ハッキリと分かっているわけではないが、そのことは、
「生年月日と、没年月日」
 という関係にあるということは、どこかから伝え聞いた。
 それが、どういうことになるのかまでは分からない。
 鍋島は、一度、友達と占いの席に同行したことがあった。それは、その友達が、結構、
「神頼み」
 をしたくなるような人生を歩んできたということを知っていて、自分も少し関わっているという感じを分かっているので、言い方は悪いが成り行きだった。
 それも、
「宗教などに走られるよりもまだいいか」
 という思いがあったことで、付き合い程度に行ってみたのだ。
 その友達は、どうも結構いいことを言われたのか、少し気が晴れているようだった。
 気が晴れるだけでも、成果があったといってもいいのだろうが、その内容は、ハッキリと分かるものではなかったのだ。
 ただ、彼のように本当に悩みのある人には、あまりにも的確なアドバイス的なことよりも、
「気が晴れる」
 という程度のことの方が、自分の中で租借しやすくなり、考え方もオープンになるのではないだろうか。
 それを考えると、
「さぞや、占い師の話の持っていき方がうまかったのだろうな」
 と、感心するくらいであった。
「今度は、鍋島、お前が見てもらえよ」
 といきなり言われて、
「えっ、俺がか?」
 と、付き添いで来たというだけだったのに、
「なぜ、俺が?」
 とも考えたが、それはいきなりだったことで、考えてしまったわけで、実際には、気持ち的にはまんざらでもなかった。
「一体、彼に何をいえば、このような気楽になれるマジックになったのか?」
 ということに興味がなかったわけではない。
「そうさ、どうせ都合の悪いことだけ、信じなければいいんだ」
 ということで、気持ちは、自分も占ってもらう思いになっていたのだ。
 だが、鍋島本人はその時、気付いていなかった。
「これがいわゆる宗教にのめりこむ人の最初の気持ちだ」
 ということをである。
 ただ、鍋島としても、もしこれが普段の精神状態であれば、それくらいのことは分かっているだろうから、いくら友達の誘いであったり、自分の中に、好奇の気持ちが芽生えたとしても、宗教がらみだと感じた時点で、遠慮していたはずだ。
 それなのに、この時、
「受けてみようと感じたのは、どこからくる心境だったというのか?」
 自分でもよく分かっていなかった。
 後になって、
「ああ、何であの時、あんな気分になったのかな?」
 と思うのではないかと。感じていた。
 ただ、その時、確かに不可思議なことを言われ、聞いていて、
「何を言ってるんだ。こいつは?」
 と、
「不可思議なことは、信じない」
 という気持ちもあったくせに、どこか、話を聴いていて、身体が宙に浮いてくる感覚があり、その心地よさが、不可思議な世界を形成していたのではないだろうか?
 友達の話もあり、連られるように中に入ると、そこは、真っ暗な空間だった。しかし、それはあくまでも、
「目の錯覚」
 というものであり、中に入ると、次第に目が慣れていくと、明かりがぼやけて見えているのは、まるで、ロウソクの炎のようだったが、実際には、
「ロウソクの炎のように瞬きを見せる照明」
 のせいであった。
 あくまでも演出効果を高めるために備わっているものであり、そういう意味では、成功しているといってもいいだろう。
 中に入ると、想像していた占い師というイメージはなかった。
 昔から、繁華街の橋の方にテーブルとイス。そして、微妙な明かりに照らされた一角に、細羽外籤のような棒が刺さった竹筒がそこには置いてあり、その籤を数本持って、両手で混ぜ合わせるような素振りをしながら、占っているという、
「和風な占い師」
 のイメージなのか、
 あるいは、
「テーブルの上に、タロットカードなどを載せて、その向こうに鎮座しているのは、まるで、古代エジプトの女王であるかのような、煌びやかな装飾を、身体に所せましと飾り付けているような、洋風の占い師のイメージ」
 その二つが浮かんでいた。
 かたや、
「貧相ではあるが、仏教的な雰囲気を醸し出している、和風な占い師」
 そして。かたや、
「古代エジプトのファラオ信教と言った派手な装飾で彩られた、おばさんのような人が鎮座している洋風な占い師」
 それ以外には、イメージとしては浮かばない。
 しいていえば、エジプトのおばさん占い師の目の前に、水晶が置かれていて、それを触れるか触れないかというような触り方で、見つめているかのような雰囲気を想像してしまうであろう。
 だが、目の前に鎮座している人は、そんないろいろなものを使って占いをしているわけではない。
 テーブルの上には、数冊の本が置かれていて、籤のようなものも、水晶も、タロットカードのようなものもなかった。
 確かに、占いというのは、
「どんなものでも、占いとして使ったりするからな」
 と占いに興味を持っている人が言っていたので、さほどビックリもしなかった。
 なぜなら、
「そこまで占いというものを信用しているわけではないからだ」
 と自分で思っているからだった。
 目の前の人は、顔が分らなかった。顔の前がベールに包まれていて、
「どれくらいの年齢の人なのか?」
 それどころか、
「男か、女なのか?」
 ということすら、分からなかったのだ。
 少したじろいで、後ずさりしそうになっている鍋島に対して、
「どうぞ、こちらに」
 と、声のトーンはあくまでも平常であったが、年齢的には、まだ若い、女性の声のようだった。
 相手も、入ってこられて、そのほとんどがたじろいでしまうということが分かっているのだろう。平常心は、そのせいではないだろうか。
 しかも、自分のスペースに入ってきた相手は、自分の手中にあるとでも思っているのか、慌てる素振りを示すことは一切なかった。
 表は結構寒い時期だったので、部屋の中には暖房が入っている。しかも、時期的に乾燥する時期ということもあって、乾燥防止に、加湿器が施されているようだ。
 まわりが真っ暗で、壁も見るからに真っ黒い膜が施されているのを見ると、
「ただでさえ、空気が籠っているように思えるのに、いかにも密室という雰囲気からか、息苦しさが感じられる」
 というほどであった。
 入ってきた時、最初から、
「広い」
 と思ったわけではないが、さらに圧迫感が感じられるようになると、さらに息苦しさが増してくるようで、
「ここから逃げ出したい」
 と思うのだが、何やら金縛りになったかのようで、ここから出ていくことができなくなった。
 鍋島は、覚悟を決めて、目の前の椅子に座るしかなかったのだった。

                 疑惑の誕生日

「どうぞ、おかけください」
作品名:遺伝ではない遺伝子 作家名:森本晃次