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合わせ鏡のようなマトリョシカ

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 マンガで見た知識がそのまま、この時代背景になっていた。史実と言われているものと若干違っているということは分かっていたが、そもそも、史実をまともに勉強しいたわけでも、武田信玄にそれほど興味を持ったわけではないので。特にハッキリと分かるものではなかったのだ。
「確かマンガでは、武田信玄は、この後、重臣たちと図って、父親を追放するんだったな」
 ということが頭にあった。
 なるほど、父の信虎は戦好きで、戦になると、
「人間が変わる」
 と言われるほどに、戦場では荒れ狂うということであった。
 重臣たちの話によれば、
「殿は、いつもいくさになると目の色を変えて一番に切り込んでいかれようとするところがあって、我々がいつも必死でお止めしているんです。大将たるもの、陣にどっかりと座って、指揮を執っていただかないと、我々が動くことができません」
 ということであった。
 その時、主人公は、教科書に載っていた武田信玄の肖像画を思い出した。その肖像画では、椅子に座って、手には軍配がもたれていて、さらに、その眼光の鋭さには定評があった。
 同じようなシーンをマンガで何度も見ていたが、
「あれ? 武田信玄って、こんな感じだっただろうか?」
 ということを思わせたのを思い出した。
 というのは、教科書に載っていた信玄の肖像画と、マンガとでは違っていたという思いがあったからだ。
 だが、あくまでも、
「マンガだからしょうがない」
 とすぐに感じたことで、余計な違和感を感じることはなかったのだ。
 武田信玄は、今聞いた父親の信虎とは違い、明らかにどっしりしていた。どちらかというと、
「主人公の方が、信玄向きであり、父親よりも、戦国向きではないか?」
 と考えていたのだった。
 まずは父親を追い出すことに対しては、反対ではなかった。
「別に討ち取るわけではなく、追放するのであるから、まだ人道的だ」
 と感じたのだ。
 主人公は、また記憶の奥から一つのことが湧いて出たのを思い出した。
「そうだ、この時代は下克上で、事情は分からないが、織田信長が、弟を殺したり、斎藤道三が、息子に殺されたりしたではないか。そんな肉親の間でも、骨肉の争いをしているのに、追放くらいなら、まだマシではないか?」
 と考えたのだ。
「確かマンガでは、父親が、嫁にやった娘の顔が見たいということで、駿河の今川義元のところに行くということから始まるのではなかったか?」
 ということを思い出すと、果たして少ししてから、父親の信虎が、まるで図ったかのようにそういって、駿河の国に、赴くのだった。
 それを見て、すぐに信玄は国境を固めた。
「父上を二度と甲斐の国に入れてはならない」
 ということで、完全追放に成功したのだ。
「これで甲斐の国は、殿のものです」
 と、重臣がほくそえみながら、そういうのだが、その顔を見た時、一瞬、ゾッとした。
「俺は、ひょっとすると、してはいけないことをしたのではないか?」
 と感じたのだ。
 しかし、これはマンガにもあったことで、記憶と現実が一致したことを敢えてやらなかったら、それこそ、
「俺は、俺としての存在が消えてなくなってしまうかも知れない」
 と感じたのだ。

                表裏関係

 父親を追放すると、もう後は、
「俺が武田信玄だ」
 という意思がゆるぎないものになっていた。
 もう、そこには、現代からタイムスリップしてきて、覚悟を決めるまでの主人公はいない。
 この世界での武田信玄が生まれたのだ。
 つまり、
「時代の一つのピースが埋まった」
 といってもいい。
 しかし、このピースが埋まることで、史実とされてきたことが、どうなるのか?
 と考えてみたが、いまさらそんなことを考えても、どうなるものでもないだろう。
 というのも、
「タイムスリップで過去に行き、未来を変えてしまうのが、タイムパラドックスだ」
 というのであるが、実際には。
「過去にきたことで、未来が変わるわけではない」
 ということを今自分が実践しているのだ。
 正直、彼の頭の中には、史実であっても、マンガであっても、
「武田信玄がどうなってしまうのか?」
 ということを知るわけではなかった。
 それは、幸か不幸かで考えれば、
「幸せなことだ」
 と思うのだった。
 ただ、一つ頭の中にあったのは、
「この世界が、パラレルワールドであり、過去が変わってしまっても、未来に景況を及ぼすことはない」
 という、タイムパラドックスの証明を思い出していた。
 主人公はSFが好きで、これくらいの発想は、基本中の基本ではなかったか。
「武田信玄という虚像が存在していたこの時代。まるで、ぽっかりと開いた穴に自分が嵌ることで、凍り付いていた時間が動き出した」
 というのが、この時代ではないか?
 と考えたのだ。
 つまり、パラレルワールドというのは、宇宙に無数に存在していて、その世界は基本的に凍り付いている。動いている世界が、実際の世界だというのだが、もし、その別の世界に入り込んでしまうと、その人は、止まっていた時間を動かす力を得たとして、そっちが
「真の時代」
 として、歴史を塗り替えるのかも知れない。
 しかし、そこで一つ感じた疑問は、
「元の世界の自分はどうなってしまったのであろうか?」
 と考えるのだ。
 元の世界の自分は、そのまま、自分のパネルから飛び出しただけで、時間の進みを止めてしまい、時間を凍らせてしまったのだろうか?
 ということになると、いくら無限に世界が広がっているといっても、動いている世界は、今のこの時代だけだということになるのではないだろうか?
 そんなことを考えていると、
「パラレルワールドがタイムパラドックスの証明」
 と言われることが、まんざらでもないように思えてくるから不思議だった。
 ただ、この小説を読んでいると、主人公が、マンガの世界を自分なりに読み取り、勝手な解釈で、マンガの世界を正しいと思っていることを、果たして、小説の主人公がどう思っているかである。
 これも、
「マトリョシカ人形」
 であったり、
「合わせ鏡の効果」
 のようなものだと考えると、どんなに小さなことでも、決してゼロにはならない、
「限りなくゼロに近い」
 というものではないかと考えるようになった。
 武田信玄となって、パラレルワールドと思しきところで生きていると、その力が証明されるかのように、合戦に勝ち進んでいった。
「のちの歴史を知っているからなのか、それとも、ゲームで培ったわざなのか?」
 と思うようになった。
 主人公は、マンガだけでなく、ゲームも好きで、結構戦国のシミュレーションゲームもやっていた。
「そういえば、俺は上杉謙信でやっていたな」
 と思っていた。
 そして上杉謙信でやっていると、武田信玄ほどやりにくい相手はいないと思っていたのも事実だった。
 実際にこの時代にも謙信はいるだろう。越後の国というから、また合戦の場は、
「川中島」
 ということになるだろう。
 しかし、今回は歴史を知っているので、失敗はしない。確か、第四次川中島では、
「勘助の口車に乗って、キツツキの戦法を行い、見事に相手に見抜かれたんだったな」