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違和感による伝染

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「軍というのは、憲法の規定で、天皇が統帥する」
 ということになっている。
 つまりは、
「天皇直轄の機関」
 ということになるのだ。
 だから、政府とは、独立していて、政府と言えども、
「天皇を介してではないと、軍の作戦ややり方を知ることはできない。ましてや、口出しなどもってのほか」
 ということであった。
 いわゆる、軍というのは、
「特権階級だ」
 と言ってもいいかも知れない。
 では、問題として、
「直轄している天皇がこの状況を知っていたのか?」
 ということが問題であるが、ここは何ともいえない。
 本当は報告の義務があるのだろうが、天皇に話すと、まず反対され、下手をすれば、戦争を終わらせるという方向に行くかも知れない。
 軍とすれば、それだけは容認できないだろう。敗戦ということになれば、軍の責任というのは大きなもので、そうなると、日本の国体維持、つまり天皇制が危うくなるということだ。
 逆に天皇制がなくなれば、自動的に今の軍は解体ということになる。軍は残るかも知れないが、今までのような特権階級として、作戦を遂行することはできないだろう。
 それは、軍としては、致命的で、
「戦争を勝利で終わらせなければ、自分たちの未来はない」
 ということになるのだ。
 だから、必死になって、戦争終結に固執する。
 もし、帰還兵が、かの戦闘の大敗を大きく宣伝すれば、絶対に反戦ムードが高まってしまう。
 いくら、特高警察が、治安維持を名目として、国民を縛っても、士気に影響してしまうと、
「総力戦で戦うという戦争の、その意義が失われてしまう」
 ということになり。せっかく戦争遂行に一致団結している体勢が崩れてしまうということだった。
 そのうちに政府もおかしいと感じるかも知れない。だから、水面下で、政府としては、戦争終結に向けて、不可侵条約を結んでいるソ連に、終戦に向けての調整をお願いするという、結果論からいえば、
「愚の骨頂」
 ともいえる交渉を、真面目に進めてきたのだった。
 そもそもソ連とは不可侵条約を結んでいるとはいえ、敵国と同盟を結んでいる国ではないか。そんな国に調停をお願いしようなどとは、普通の精神状態ではありえないことなので、それだけ、政府も、
「他に戦争を辞める手はない」
 と思っていたことだろう。
 そのことを果たして軍が知っていたのかということだが、そこも分からない。知っていれば、軍が政府の妨害をしていただろうからである。
 ただ、天皇には上奏していたことだろう。もし、ソ連が調停に応じるということになれば、国家元首たる天皇が、
「知らなかった」
 というのはありえないからだ。
 やはり、停戦に向けてのキーポイントは天皇だったのだろうと思われるのだ。
 結局、米軍の攻撃がひどくなってきて、アリアナ諸島が陥落したことで、日本国土のほとんどの主要都市が、射程範囲内に入ったということで、致命的だったのだ。
 しかも、相手は、空爆を、本来の、
「軍事施設のみを攻撃するピンポイント爆撃」
 というものから、
「一般市民を標的にした無差別爆撃」
 に切り替えてきたのだから、米軍の作戦は、
「日本本土焦土化作戦」
 だったといっても過言ではない。
 毎日のように、B29爆撃機が、日本の2,3の主要都市の上空に現れ、焼夷弾や爆弾を雨あられとして落としていく。
 朝になれば、燃え落ちた家屋と、夥しい死体が残っていて、それを無言で片付けている市民や、行政の姿が見られるということだ。
 生き残った人のほとんどは、家を失い、どうすることのできなかったことだろう。
「まだ、空襲で襲われていない土地に逃げる?」
 と言っても、いつ、同じことになるか分からない。
 それを思うと、安易に逃げ出すわけにもいかないだろう。
 中には、
「この土地は、今までに空襲らしい空襲に遭っていない」
 ということを聞きつけて、避難していった場所で、未曽有の攻撃にさらされてしまったという人も少なくないだろう。
 その土地というのが、広島だったというのだから、少しでも歴史を知っている人、いや、日本人であれば、
「その人たちがどうなったのか?」
 ということは、容易に分かるだろうということである。
「戦争というものの悲惨さを思い切り、全世界の人に思い知らせたのが、ヒロシマ、ナガサキの惨状だった」
 ということだろう。
 これに関しては、いうまでもないことに違いない。
 ただ、日本が敗戦を決意し、無条件降伏を受け入れることになった直接の原因というのは、
「ヒロシマ、ナガサキの惨状ではない」
 といえる。
 一番の原因としては、長崎に原爆が投下されたその日に、それまで政府が水面下で交渉をしていたソ連軍が、不可侵条約を一方的に破棄し、
「満州国になだれ込んできた」
 ということだった。
 そもそも満州国というのは、
「ソ連への防波堤」
 ということで築かれたものだった。
 たくさんの移民を抱え、極寒の土地で開拓者を夢見、その絶望感を味わっていた国である。
 中国軍との戦いで大変だったところを、ソ連がいきなり攻めてきたのだ。混乱と、
「今度は、北からソ連、南からアメリカ」
 という形での挟み撃ちには、
「もうどうしようもない」
 ということが決まったかのような感じなったことで、さすがの政府も軍も、
「無条件降伏を受け入れるしかない」
 ということになったのだ。
 最後まで抵抗した陸軍であったが、もう天皇が覚悟を決めている以上、どうすることもできない。
 ある意味、天皇が一番冷静だったのかも知れない。
 今の時代では、
「あの戦争は天皇が引き起こしたものだ」
 と言っている人がいるが、果たしてそうだったのか、正直分からない。
 少なくとも、大日本帝国下においての、
「軍、政府、天皇」
 の関係は、微妙な溝があったことで、それが、戦時においては
「致命的だった」
 といえるのではないだろうか?
 これが、端折りはしたが、
「大東亜戦争」
 と呼ばれるものの顛末である。
 もちろん、別の見方もあるだろうが、作者の考える戦争であった。
 話が脱線してしまったが、今は戦争が終結して、占領軍によって、日本という国は戦争責任の意味でも、軍部や財閥、特権階級である、爵位制度などもなくなり、農地改革、新円の切り替えなどをへて、徐々に、
「占領軍に押し付けられた民主主義」
 を目指す国家と変貌を告げたのだ。
 ただ、急な変革には、反対があるもので、日米安保の問題の時などは、全国的なデモに発展したというではないか。
 日本人の考え方を180度変えるというのだから、それは、相当な問題が「潜んでいたことだろう。
 そんな戦争を最初に始めた時、領事館の役目は結構大きなものだった。
 特に中国などは、抗日運動を繰り返していて、毎日のように、満州では、
「中国人による日本人への虐殺」
 などが起こっていたのだ。
「居留民保護」
 を目的として、関東軍と協力して、その治安に当たったり、保護しなければいけない立場にあったということであろう。
 そんな領事館が日本にも、点々として置かれていた。
作品名:違和感による伝染 作家名:森本晃次