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違和感による伝染

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 自分の考え方は、かなり自分のやりやすさというものを考えた、ある意味余裕のある考えであるが、上司の考えは、ハッキリとは言わず、ただ、
「違う」
 というだけだった。
 後になれば、分かってきたのだが、どうやら、上司としても、何が正しいのか分かっていないようだった。
 ただ、上司が佐藤の回答を聴いた時点で、どうやら、
「こいつは、自分でも分かっていない」
 ということを把握したうえで、
「このように答えると、自分が逃げているということをあからさまにしている」
 ということを分かっているかのようである。
 分かっているからこそ、あからさまに嫌な顔をするのであって、本当に佐藤を嫌っているのか分からない。もちろん、本当に嫌っているのかも知れないが、お互いにあからさまであることは確かなようだ、
 しかし、自分のあからさまなところに気づいていないことで、
「こういうことは、自分で気づかないと分からない」
 ということなのだろう。
 この上司が、佐藤に対して、
「完全に攻撃的だ」
 ということがハッキリしたのは、
「人事考課表」
 というものを、会社に提出しないといけなかったからだ。
「人事考課表」
 というのは、もちろん、会社によってはフォーマットも形式もまったく違うものだが、これは、社員の、成績表のようなものである。
 基本的には、半期に一度、つまり、年に二回の割合で提出するものであった。
 要するに、半期の最初に、その期に向かっての、個人目標を最初に立てて、期の間にどれだけ、その目標に達したかということで、自己採点から、最後には、取締役の採点が行われることになる。
 佐藤の会社の場合は、まず、初期に定める目標を、2,3個挙げることになる。
 もちろん、営業、管理、製造と、それぞれの部署によって違っているだろう。
 特に営業、製造などの場合は、企画も含めて、数的目標がしっかりしているので、目標は立てやすいであろう。
 しかし、管理部門においては、基本、
「何かを生み出す」
 という形ではないので、数的目標はない。しかし、逆に炊事管理によって、会社を適正なものとして会社に貢献する管理部は、
「経費の節減」
 あるいは、
「明らかになった会社の成果に対しての数字を分析し、どこに力を入れるべきかということを会社や企画に数字を示して、計画させる」
 という仕事が中心になってくることだろう。
 それを考えると、目標シートの作り方も、ハッキリしてくるというものだ。
 それを考えると、今回、管理部に籍をおいた彼は、その中でも、
「経理部門からの数字」
 を目標とすることになる。
 目的はハッキリはしていても、自分の立場でできること、あるいは、しなければいけないことを文章にして、数行でまとめるというのは、結構難しいものだった。
「こんなに、ビジネス文書が難しいものだなんて」
 と佐藤は感じたほどだった。
 それでも、何とか自分で考えて提出したが、案の定、上司は承知しなかった。
「ニュアンス的な方向性は間違っていないが、言葉の使いまわしが、これでは出すわけにはいかない」
 というのだ。
 佐藤は、分かっていたこととはいえ、頭を抱えた。
 確かに、一発でゴーサインが出るわけではないことは分かっていても、自分なりにしっかりと考えて出したつもりだったので、最初は、
「これをどう変えればいいんだ?」
 ということで、いろいろ考える。
 どうしても、言葉遊びにしかならない感じなので、いくら変えようと思って考えたとしても、
「小手先」
 でしかないのだ。
 ただ、元々書き上げたものを、
「結構考えて、書いたものなんだ」
 という意識があるから、それをいまさら上司に言われたからといって、具体的な指示が出なければ、答えなど出るはずもない。
「これ以上、どうすればいいのか?」
 ということになり、しかも、言われたことが、
「言葉のニュアンス的に間違っていない」
 というのだ。
 ということは、
「ほとんど、間違ってはいない」
 ということを言っているのであって、その間違っていないという発想が、
「何をどう考えればいいのか?」
 ということを分からなくしてしまう。
 経理の仕事をしていれば、数字の違いについても分かってくる。何かの数字を照合する時、
「数字の大きいものは、漠然としたところで、間違いを見つけやすいのだが、数字が小さいと、一見簡単そうに見えるが、小さすぎるということは、間違いは絶対に一つではなく、その間違いとは別に、別の符号の間違いが潜んでいる」
 ということだ。
 つまりは、
「プラス、マイナスのそれぞれの間違いが絡み合うことで、ちょっとした数字の違いを表しているのだ:
 ということにある。
「20円の違いだったとすると、単価単位でも、最低100円のものしか扱っていないのであれば、答えは絶対に一つではない。つまり、あくまでも例でしかないが、片方で100円の違いがあり、片方で、マイナス80円の違いがあったとすれば、プラスマイナスで相殺され、20円の違いが出てくるというものだ。しかし、100円の違いということであれば、まずは、100円というものが、抜けていると考えればいいわけで、探し方も楽だというものだ」
 という理屈である。
 つまりは、
「考え方の違いが大きい場合は、歩み寄ることで、答えに近づけるが、あまりにも近すぎると、いいところで止めるというのが、難しい」
 ということになるのだ。
「双六やゲームをやっていて、サイコロの目が、ゴールでちょうどのタイミングでなくても、数字が大きければゴールというのであれば問題ないのだが、必ずちょうどのところで止まらなければ、オーバーした部分は、板方向に戻るのだとすれば、ゴールインにはかなりの時間が掛かる」
 ということになる。
 ということは、
「途中までいくらダントツでリードしていても、ゴールに入らなければ、一位にはなれない」
 ということで、
「最初のスタートダッシュは何だったんだ?」
 ということにある。
 そして、ゴールに近づけば近づくほど、難しくなり、神経もすり減らすということであろう。
 余計な気を遣わなければいけないわけで、それだけ精神的な力の配分がいかに難しいかということになる。
 もし、この方式をスポーツなどで採用していれば、
「最後は実力がモノをいうのではなく、最後に力を発揮するのは、運だ」
 ということになるだろう。
 ここでの上司は、そんな状態に持ってくるのがうまい人で、ただ、それも、もしその目的が、
「部下いじり」
 だったとすれば、実に厄介な上司だといえるだろう。
 直属の先輩が自分の苦労を見て、
「俺も二年前くらいまでは、よくあの上司に苛められたものだよ。絶対に許してくれないからな」
 といっていた。
 これで、先輩が自分だけが憎いわけではなく、そういう、
「部下いじり」
 をする人なのだ。
 ということが分かった。
 しかも、それだけに、上司としては、
「中学時代の苛め」
 のような形であり、本当に自分のことを憎んでいるわけでなければ、
「この苦しみも、1、2年の辛抱だ」
 ということになるのだろう。
 そこには、
「1,2年で、他の部署に移れる」
作品名:違和感による伝染 作家名:森本晃次